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AI探偵あいたん 新入生が次々に殺されて捜査に行き詰まったので迷宮入りを覚悟していたら大学時代の友人がAI探偵使って捜査してくれた

作者: ヨシウス

西ノ京匠が多摩ニュータウンにある自宅から消息を絶ったのは4月19日のことだった。

18歳、多摩文理大学社会科学部1年生。

今年大学進学で福岡市南区から転居。1人ぐらし。18時頃大学の授業を終えて帰宅したのを最後に足跡が途絶え、翌朝死体が近くの公園で発見された。

死亡推定時刻は20時頃。

死因は公園内で破損状態にあった鉄柵で首や腹を滅多刺しにされての失血死。

他に後頭部や右腕を鉄柵で殴られた跡もあった。

財布はポケットに入っていた。現金やカード類を取られた形跡なし。

服は春物の普段着で、高校時代に購入したもの。

耳にはワイヤレスイヤホン、スマートフォンはポケットに入っていて電池こそ切れていたが再充電すると起動するし、壊れた様子もない。

自宅の鍵は内ポケットに入っており、盗難されたものはなにもないと見られる。

大学入学時通学用に購入した自転車はマンションの駐輪場に停められていた。鍵は自宅玄関にあった。

警察の捜査ではブレーキタイヤその他異常なし。

なお19日の帰宅時に大学とマンションの間にある食品スーパーで20%引きになった唐揚げを購入している。財布内のレシートによるとレジの打刻は18時37分。唐揚げは冷蔵庫の中にあった。冷蔵庫その他自宅を荒らされた形跡はない。

スマートフォンにインストールされた食品スーパー「イチマルシェ」のアプリにあった購入履歴から、スーパーには4月1日の転居初日以降ほぼ毎日立ち寄っては買い物をしていることが判明した。

当日の足取りを友人たちから聞いたところでは大学の授業が終わり翌日土曜日に都心へ遊びに出ようということになったものの夜チャットにもメールにも応じなかったとのこと。なおいずれも開封されていないことが匠のスマートフォンから判明した。

出身高校から多摩文理大学へ入学したのは数名だが高校時代にクラスが異なり、いずれも匠との面識はない。

一方で高校時代との友人の交友関係も数名とは続いていて、うち東京に在住する1人が18日夜、土日の食事に誘ったが別件が入っていると断られている。大学側の友人が先約だったからだろう。

翌日午前、隣の部屋に荷物配達した配達員がいた。丸物徹といい、同じく多摩文理大学の法学部1年生でアルバイトで入社し、この日が初仕事。配達時刻は9時30分頃。

隣の部屋の住人佐井道雄も多摩文理大学理学部2年生、去年入居したとのことだ。当日は新入生歓迎会で3次会まで付き合ったので帰宅は日付が変わった午前1時すぎ。翌日の配達員のチャイムで目が覚めたという。

2人とも不審なことはなかったという。またこの2人は匠との面識はまったくない。

この荷物は実家からのカップラーメン1ダースであり、道雄はさっそく1個を当日の朝食兼昼食として食べていた。

なお配送会社の上司の話では当該マンションは何度も配達してるが、トラブルはなく、また匠に配送したことは1度もないとのことであった。

記録によると、前に住んでいた人物へは何度かあったが、最後は去年の12月20日。

その人物は武州技工大学大学院修士課程に在籍していたが、卒業後の就職で札幌に転居しており匠との面識は無し。


「大学生活の始まりでドタバタしてるところだよね」

近隣の警察署で一反田みのりはホワイトボードに貼られた匠の捜査資料を見ていた。

どの角度から見ても映画の一幕か、と思われるくらいに絵になる美女である。

彼女がこの事件を担当することになったのはそういう意図があったからではなく

迷宮入りしそうな事件でも突破する胆力と論理性を買われたからだ。

「たしかにそうですね」

吉川公平はホワイトボードに捜査資料を貼っていた。

一反田の部下で一見すると平凡を擬人化したような男である。

だが捜査での粘り強さには一目置かれるほどだ。

「4月に入ってから大学生2人に専門学校生1人が殺害。」

「ネットで話題になってますね」

SNSや動画サイトではさっそく「新入生連続殺人事件」と煽られている。

「しかし、見当違いなことばかり書いてるな」

占星術や陰謀論などに結びつけた投稿も目立つ。

「へびつかい座の逆襲ねえ」

「被害者にへびつかい座いないんですが」

「これなんか誕生日捏造されてる。」

「勝手に決めちゃって」

「けどこういうのは後回しにしたほうがいいよ」


残り2人の被害者は以下の通りである。

石馬忠義:18歳、田園科学大学理学部1年、4月13日午前10時に自宅アパートから1kmほどのガソリンスタンド跡で遺体となって発見。

死因は顔面を近くにあったブロックで殴られたことによる失血死あるいはショック死。

最後に目撃されたのは10日午後10時5分のコンビニエンスストア「ムーンデイ」の防犯カメラ。

なおガソリンスタンド跡はコンビニと自宅アパートの中間地点で大学はコンビニから200mほどの位置にある。

実家は青森県八戸市。コンビニでは電子マネーでペットボトルの緑茶を買っていて遺体が持っていたショルダーバッグに入っており、半分ほど飲んだ形跡があった。緑茶からは本人の唾液が検出されたがそれ以外の人物の唾液は検出なし。指紋は本人の他に検出されていないがコンビニでは手袋着用での品出しが行われており、特に消したわけではないとされている。

他に財布やスマートフォンなど遺品がバッグに入っていたが自宅ともども盗難の形跡は無し。

数村彩也子:18歳、エメラルド服飾専門学校1年、4月16日午前8時頃に自宅から300mほどの空き地で後頭部を空き地内にあったと見られる石で殴られ死亡しているのが発見された。前日に学校の同級生と学校近くのファミリーレストラン「スパニッシュメロン」で夕食をとっている。別れた後の消息は不明だが別れ際の会話では帰宅と思われる話しぶりで特に疑わしい噺はなかったとのこと。所持していたスマートフォン、財布、鍵などの盗難はなかった。

実家は高知県南国市。


3人の死体発見現場は近くて10km、一番遠いと30kmとかなり離れている。


エメラルド服飾専門学校の教務や担任の話では彩也子は入学時の成績は並、性格は明るく社交的とのこと。

友人の証言では最後の夕食も彩也子が友人に誘ってのことである。

彩也子については疑わしいところはまず見当たらない。

忠義についても同様である。

「ああ、石馬くんですか?いやあ、私どもも全然分からないんですよ」

田園科学大学の教務課長は困惑気味に答えた。

「なんせまだ授業もオリエンテーション始まったばかりですし。」

「出身高校が同じ人は?」

「いないですね。というか、本学に彼の母校から入ってきた人って彼が初めてなんですよ。」

彼が顔を出した授業でも明確に覚えている講師はいないという状況である。

「なにか相談とか困ってそうな様子とかは?」

4月12日、彼が最後に参加した数学史の教授・町倉荘司は石馬忠義って誰?と言いたげに返事し写真を見せてようやく思い出した様子であった。

「ああ、そうだ、どんな授業になるんですか、って質問してたかな?毎週座学して月1でレポートと返事しましたねえ」

匠の通っていた多摩文理大学でも同じような反応になった。

念のため他の被害者について尋ねる。みのりのいつもの質問だ。

「数村さんや石馬さんは貴学を受験された様子はありますか?」

「うーん、ないですね。うん、どの学部でも願書出した形跡はないですよ」

「オープンキャンパスとか資料取り寄せとか」

「それもないです」

教務課主任は熱心に検索した。

「西ノ京さんは去年の8月にオープンキャンパス来てますけどね。申し込み記録ここにありますよ」

記録には名前や連絡先などありきたりの情報しかなかった。


「知らなくて当然ですよね」

「私たちだって、配属から1週間だとこんなもんでしょ」

「そうですよね」

「あれ?直人くん?」

みのりはキャンパスの向こうから歩いてくる男に声をかけた。

手にビジネスバッグを持ち、胸ポケットにはスマートフォン。

教室の鴨居より高い、というくらいの高身長、

年齢は20代後半あたりだろうか。

「あ、みのりさん?」

「知り合いですか?」

「ああ、大学で同じサークルだったが」

「なんか会社作って一山当てたとは聞いてたけど」

「それもあってこの大学でこういうことしているのだが」

直人の差し出した名刺には

多摩文理大学理学部特任教授 岩倉直人

と書かれている。

もう1枚、

株式会社AITANLab 代表取締役社長 岩倉直人

という名刺もあった。

「週に1度、ここの学生に教えてくれと頼まれてね」

「何を教えてるんですか」

「ただの雑談だよ。AIで売上アップ、みたいな話だ。で、みのりさんとこの方は?」

みのりと公平も名刺を出す。

「警察官、ということは例の捜査かな」

「被害者の西ノ京さんと何か」

「いや、今年度は今日が初授業だから接点もなにもないよ。」

「見かけたことある?」

「大学の外でもなにか」

「ないが…疑っているのならアリバイでも話すが、あいたん説明してやってくれ」

「あいたん?」

「私です」

直人のスマートフォンの画面にネコのキャラクターが現れた。

「このネコ?」

「はい、私が「あいたん」です。私はAIでネコの外見は私を親しみやすくするための」

「自己紹介はまたの機会にして、私のアリバイを話してくれ」

「なら念のため、19日土曜日から20日日曜日まで覚えている範囲で教えてくれませんか」

「直人さんは18日から20日までは大阪のAI見本市に出張しています。」

画面にカレンダーと新幹線のチケット、地下鉄の乗車履歴が表示される。

「ホテルは見本市会場となりでシングルルームのXX号室に2泊3日しています」

今度は画面がホテルの写真と予約履歴に切り替わった。

次々と画面に出張の記録が表示される。

「19日18時から20時までは懇親会に出席、20日10時から11時まで講演を実施しておりここに動画がアップロードされています。」

講演のビデオが流れる。

「必要なら証拠一式提出するが」

「ああ、そこまではいらないです。完全にアリバイありますね、これ」

「ごめんね、疑ったみたいで」

「いや、こういうことははっきりしておかないとね」

ふと、公平の目にアプリのアイコンが目に止まった。匠が最後に立ち寄ったスーパーのものだ。

「このアプリは?」

「ああ、大学近くのスーパーのだが。」

「これ、いつ入れたの?」

「去年の春、ここの大学で教えるときにキャンペーンやっててね。300ポイントだったかもらえるというので入れたが」

「実は被害者が最後に立ち寄ったのこのスーパー。アプリも入れてるし、記録から使ってるのは間違いないのだけど」

直人はみのりの方に顔をやると

「たしかこの事件、連続殺人という話もあるようだが他の被害者はどうかな?」

「どう?」

「ここのスーパーのアプリ入ってるかどうかだよ」

公平が捜査資料のデータを見る。

「石馬も数村も入ってますね。」

「直人くんの予想通りだ」

「あいたん、スーパーイチマルシェのアプリが今起こってる新入生連続殺人事件と関係あるか説明してくれ」

あいたんはかしこまった表情になって話し始めた。

「イチマルシェのアプリは新入生連続殺人事件と重大な関係があると考えられます。被害者である大学・専門学校の新入生を探しやすいアプリだからです。これからその理由を説明します。」

すこし凛々しい表情になる。

「犯人が新入生に絞って殺害を企画した場合、殺害対象の選定にイチマルシェの会員データを使用することは他のスーパーの会員データと比較してメリットがあります。

第一に会員データに住所記入欄があります。近年一般的なスーパーのポイントアプリは簡潔にする、あるいはプライバシー保護の観点から会員データに住所がないものが多いのですが、イチマルシェのアプリでは配送サービスを提供しているので住所記入欄があります。」

「被害者の家が分かるってことね」

「次にイチマルシェの店舗は東京、神奈川、埼玉の大学・専門学校から半径1km以内にある店舗が81%を占めます。これは大学生・専門学校生が利用している確率が高いと考えられます。また店舗が東京都と神奈川県・埼玉県のみにあり、出店エリア以外から進学で転居してきた会員の場合、実家で高校生までに加入することがほぼありません。

イチマルシェのアプリはサービス開始して5年2ヶ月経過していて出店地域では親世代である40~50代にまで浸透しています。エリア内に親が住んでいるかどうかは名前と住所で照合してある程度洗い出せます。同じ住所なら実家ぐらしの可能性が高いです。」

「実家ぐらしだとまずいのかな?」

公平の質問にあいたんが答える。

「実家ぐらしの場合、複数人で暮らしているので殺害するチャンスが少ないと思われます。」

「たしかに。」

「また親が加入している場合は同居していなくても殺害する難易度が上昇します。なぜなら、親が新入生の下宿に日帰りで訪問できる場所に住んでいると考えられるので、新入生と親が一緒にいる時間が増え、狙いにくくなるのです」

「ああそういうことか。」

「ムーンデイやスパニッシュメロンは全国展開しているからかえって判別しにくいのね」

「過去の宣伝データを照合したところ、スーパーイチマルシェは新入生の入る3月中旬からGWまでポイントや商品のプレゼントキャンペーンを行っており、営業エリアで新入生が加入する可能性は高いと推察されます。スーパーの業界紙でも2年前の9月号に成功事例として紹介されています。」

スマホの画面にWeb版の記事が表示された。

「大学Aでは新入生の60%、専門学校Bでは86%、結構な加入率ね」

「したがって犯人がイチマルシェの会員データを利用した可能性は高く、アプリとの関連性も高いと推察されるのです。」

「こりゃイチマルシェに当たってみたほうが良さそうですね」

「けど、こういう会員情報ってどこに問い合わせるんですかね。」

「あいたん、イチマルシェの会員サービスってどこが管理してる?」

「さきほどの業界紙によると、イチマルシェが会員サービス会社のO’tokuiに委託しているとあります。」

「イチマルシェとO’Tokui両方に当たってみる必要があるかな。ありがとう、直人くん」

「それと未遂事件あるかもしれないから洗っておくといいかもしれんよ」

みのりと公平は駐車場へ走っていった。


数日後、多摩文理大学の教室から直人がでてくるとみのりと公平が駆け寄ってきた。

「ああ、直人くんちょうどよかった」

「見事だね」

前日のニュースで、新入生連続殺人事件容疑者逮捕の記事が出ていた。

容疑者の市沢弘樹はO’Tokuiの企画部長。

大学生のバイト従業員と勤怠でトラブルになった。

連絡を入れずに休む学生バイトが増えただけなのだが、上司にそれを監督不行き届きとなじられ学生に不満を抱くようになった。

ちょうどその頃社内研修でイチマルシェの特集記事を読んだ。

新入生なら簡単に殺せるのでは?

そう思うと殺意が膨らんでいったらしい。

やがてターゲットを絞り込んでいく。

実家が遠い、一人暮らし、近くに殺せる場所がある。

犯行はやや離れたところへ自動車でいく。そこから公園や空き地に移動。ターゲットが通りかかったところで落し物があるので探してほしいと声をかける。誘い出したところを現場近くの凶器で仕留める。

「岩倉さんの言うように未遂もありました。声かけたところを断られたのが2件、殴ったところで逃げられたのが1件。」

「まったく酷い事件ね」

「沸点低い人もいるもんだ」

「さきにあいたんに相談すれば解決したかもしれないのにな」

「私にお任せください」

あいたんは自信ありげに答えた。


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