愚女?
今日は“お休み明け”という事で“真っ黒シリーズ”でございます。
信じられない事が起きた!!
あの“下山(旧姓伊藤)智子”から格下に見られたのだ!!
私にとっては『下僕の中の下僕』だった智子から受けたこの屈辱は、ひとえにダンナの体たらくによる物だ!
私は怒りに震える指でアドレスから長らく消し去った電話番号をタップしてた。
番号を未だに指が覚えている結婚前の不倫相手……“現”部長のプライベート電話だ!
そして、『身に覚えの無い番号でもとにかく出てみる』というアイツの習性は相変らずの様だ。
「なんだ!お前か!」
「ずいぶんな言い草ね!部下の奥さんに向かって!」
こう噛みついてもヤツは鼻で笑う。
「ん?! 久しぶりにやりてえか?」
「一流企業の部長さんがそんな事言っていいの?」
「その一流企業のヒラの女房こそ、ダンナの上司にそんなクチきいていいのか?」
「ええホントにそうね! アイツは唐変木の何物でもないわ! よくもあんなのを私に押し付けたわね!」
「何言ってやがる! 『あの人にはあなたには無い優しさがある』なんて言い草でオレをコケにしたのはどこのどいつだ?! ヤツには優しさなんかねえよ!ただの気弱な優柔不断なクソバカだ!」
「言ったわね!」
「ああ、お前の代わりにお前の思っている事をな! そもそもアイツに“タマ”はあるのか? 社ではタネなしって専らの噂だぞ!」
「知らないわよ!」
「じゃあ満足してるのか? お前の強さじゃあ物足りないどころじゃねえだろ?!」
最近のスマホは性能が良く、電話の向こうの嘲笑の息遣いも私の耳につぶさに届けてくれる。
「アイツが今の部署に居られるのは、オレの温情だ! にもかかわらず、お前には畏敬の念ってヤツがねえのか? 最もそれがカケラでもあるなら“屠りの羊”の如くその身をオレに捧げてるよな! つくづく食えねえオンナだよ……」
その言葉が終わらないうちに私は電話を切った。
「ああ!ああ!! ホンット!! ムカつく!! 何で私が!! このワ・タ・シが!! ここまでバカにされなきゃいけないの??!!」
立て掛けているブライダルフォトのフレームが目に付いて、私はそれを掴み、ブン投げた。
分厚くて重いアクリル製のそれは割れもせず、ぶつかった壁紙を逆に大きく傷つけた。
その時、もう片方の手に持ったままのスマホがブルン!と震えてメッセの着を知らせた。
泰子からだ!
『ランチしない?』
『どうせならふたこまで出たい』
『じゃあウフウフ行こ!』
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「分かる?? この気持ち!」
泰子はもも肉のローストを口に運びながら「アハハハ」と笑う。
「何よ!?」
「いかにも彩乃らしいなって思った!」
「アンタまでディスるの?!」
「全然! その逆よ! やっぱり彩乃は変わんない! 心強いなって!」
「何それ?!」
泰子は口角に付いたもも肉ローストのソースを舌先でチロッ!と舐めた。
「ダンナなんかに期待しないでさ! 自分でお水あげればいいじゃん!」
「そんなネットワーク、今は無いわよ!」
「そりゃ昔と違うもん! でも今の方がよっぽど簡単よ! スマホで全部できちゃうから! なんなら私がプロフ作ってあげようか?!」
「やるとは言ってないわよ!」
「ヤレばいいじゃん」
「その言い方!スケベ成分がテンコなんだけど!」
「それよ! そのノリが彩乃じゃん! やっぱいいわよ! ホントのオトコは!! ディナーの美味しさが5割増しだもん!」
「でも……オトコなんて結局、目的はひとつでしょ?」
「その目的を嗜むのが私やアンタでしょ?!」
ウィンクしてグラスワインに口を付ける泰子へ、私は洋ナシのタルトを口に運びながら
「まあね」と応えた。
おしまい
この類の女性……まあ、いますよね!きっと(^^;)
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