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第44話 不義理な息子

 僕は前世の知識にこの世界の情報と技術を合わせて作れるものを考える。


 錬金術の成形で作れるのは『正確に形状をイメージできるもの』になる。

 イメージできないもの。電子機器は当然だけど、内部構造を知らないものを錬金術で作ることはできないし、構造が複雑過ぎてイメージしきれないものも作ることはできない。


 まあ、『イメージにも限界がある』ということだね。


 完成品をイメージするよりも、ベアリングをつくったときのように、ボールや内輪と外輪などの部品を別々に作ってから組み立てた方が確実だと思う。


 他に作れそうなものと言えば、合成と分離に熟成などを使って薬品を作れそうなんだけど、薬品は正しい知識を持っていないと危険だから作ったことはない。

 ただ、熟成だけは食品でも使えそうだから、そのうちに試したいと思っている。

 熟成肉とか美味しいから。


 合成は合金を作るのにも使えそうなんだけど、鉄以外の金属は流通量が少なくて高額だから、まだ試してない。


 こうして作れそうなものを色々と考えると、今の知識で作れそうなのは自転車ぐらいしか思いつかなかった。

 バイクや車は動力が必要だから魔道具の範囲になるし、薬品は知識が必要になるし、ポーションを作るには属性が必要になるから作れない。


 結論を言うと、ルジェナが言うほど『とんでもないもの』なんて作れないということだ。



 それからは自転車を作ることを念頭に置いてパーツを作ることにした。

 自転車を作ることにした理由は自転車用に作ったパーツは他にも流用できるからだ。


 まず最初に作ったのは錬金術で糸状にした鉄をねじって作ったワイヤーだ。

 鉄の糸は僕が作ったけど、錬金術では鉄の糸を操作してねじることができないから、そこはルジェナに作ってもらった。

 作り方は、硬貨程度の大きさでレンコンのように穴を開けたガイドに、鉄の糸を1本ずつ通してからガイドを回転させてねじっていった。


 次にスライムのコア材を使ったサスペンションも作ってみた。

 サスペンションの詳しい構造を知らないから、実際に作ったのは『サスペンションもどき』なんだけど、かなり苦労した。

 最初は『衝撃を吸収してくれるんだから間に挟めば良いのかな?』とか思っていたんだけど、ぴったりのサイズで作ったつもりだったけど、隙間から中に入れた液状のコア材が漏れてしまった。

 かと言って、コア材を固めたら伸縮しなくなって上下動に対応できなかった。

 結局、上下動はスプリングで制御して衝撃はコア材が吸収する方法にした。


 この試作のサスペンションを荷車に付けてルジェナに引いてもらったら、陸上なのに舟に乗っているような感じで、ちょっと気持ち悪かった。



 それと、もう1つ。

 ディトネルが村を去ってから、2週間ぐらい経った頃にアウティヘルが母さんに結婚の申し込みに来た。


 勘違い結婚騒動のあと、アウティヘルは僕たちに近づいて来なかったんだけど、ディトネルが泊まったときに話を聞いたらしく。

『連れ戻されて結婚を強要されるぐらいなら俺と結婚してここに残れば良い』と言ってきた。


 相変わらず論点がズレているんだけど、今回はちゃんとした結婚の申し込みだったから、母さんも『あなたと結婚する気はありません』ときっぱり断った。


 それを聞いてがっくりと肩を落として帰って行ったけど、以前みたいに喚いたりはしなかった。

 鼻の下を伸ばしてなければ、まともな男なのかもしれない。……好きにはなれないけど。



 そんなことがありつつ、物作りをしながら過ごしていたら、1ヵ月ほど経った頃に、ディトネルの騎士が1人と世話係のメイドが1人に冒険者の5人が村に来た。


 騎士が使者として絶縁状が撤回された証明書を見せて、カウペルス子爵家の当主からの手紙とディトネルからの手紙を渡してきた。


 それを読んだ母さんは顔を歪めながら溜息をついた。


「もうすぐ麦の収穫があるので、終わるまで待っていただけませんか?」

「ダメだ、ディトネル様は『すぐに連れて来い』と仰った」

「そうですか、ですが手紙には期日が書いてありませんし、家を空けることになるので、最低限の準備をする時間だけはいただきたいのですが?」


 そう言って母さんはディトネルからの手紙を騎士に確認させた。


「他も連れて行くのか?」

「ええ、子どもを残しては行けないでしょう?」


 もしかして、この騎士は母さんだけを連れて行くつもりだったんだろうか?

 普通に考えれば子どもと奴隷を置いて行くはずがないのに。


「……分かった。だが、3日後の朝にはメルエスタットに向かって出立する」

「3日後の朝ですか、分かりました」


 それから僕たちは家を空ける準備を始めた。


 戻って来られるか分からないから、僕が作った道具は全部解体して素材に戻しておいた。

 鍛冶場は炉の掃除と整備をして鍵は村長さんに返した。

 友達のロディベルくんには、『ちょっと留守にする』とだけ伝えた。

 麦の収穫を村の人たちにお願いする代わりに、僕たちの納税分を徴税官のケティエスさんに渡して、残りは村の人たちで分けてほしいと村長さんに伝えた。


「マルティーネさん、いえ、マルティーネ様とお呼びした方がよろしいですね」

「いいえ、今まで通りで構いませんよ。ケティエスさん」


 僕たちが出立する前日に、徴税官のケティエスさんが収穫前の調査のために村に到着した。

 麦のことは村長さんにも伝えてあったけど、ケティエスさんが来たから直接話しておくことになって、メルロー家と契約したガラス事業の収益のことも聞いた。


「ガラス事業の収益はご要望通り、アルテュールくんの口座に入れましたが、本当によろしかったのですか?」

「ええ、このまま連れて行かれたら、ガラスの収益まで奪われかねませんから」

「それなら、……他に打てる手があったでしょうに」


 ケティエスさんは声を抑えて静かに言った。


 他の手とは、誰かと婚姻をすることだ、正式に婚姻を結べば婚姻相手の家族になるから、カウペルス家は()家族になって、今回のような命令を聞かなくて済む。

 アウティヘルが結婚しようとしたのは、これが理由だ。

 ただ、アウティヘルと結婚したとしてもどこまで抵抗できるかは分からない。

 その理由は、庶民の結婚は宣言するだけで文書などが存在しないから、結婚していることを証明できないからだ。


 他にも亡命するという手段もあったんだけど、この村から他の地に行くには一度メルエスタットに行く必要があってディトネルに見つかる可能性があることと、一番近い北の隣国とは小競り合いが絶えず、行けたとしても何が起きるか分からないから亡命するのは危険だと母さんが言った。

 東の国に行くには1年以上かかる上に王都を通ることになるし、南に行くには途中にあるカウペルス家の領地を通ることになる。

 結局、亡命することは難しいという結論になった。


 絶縁状を撤回する書状が出されてなければ、メルロー家に養子縁組をしてもらう手段もあったけど、もうそれはできない。


 母さんは『最後の手札を切る』と言って、それを待つことになったんだけど、間に合わなかった。




 そして、翌日。


「それでは、出立する」


 騎士の合図で馬車は出発した。

 馬車は6人乗りで中に乗っているのは僕たち4人とメイドが1人だけだ。

 御者は冒険者が2人で交代しながら受け持って、馬車の後方に1人が立ち乗りして後方を見張る。そして騎士と冒険者の2人が馬に乗って周囲を警戒する。


 道中の魔物の処理は冒険者たちがしたんだけど、前回と同じところで蜘蛛の魔物がいて、冒険者たちは倒した蜘蛛を全て燃やしてしまった。

 それを見ながら『もったいない』と溜息がこぼれた。


 こんな状況でも物作りのことを考えてしまう僕は不義理な息子だと思う。


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― 新着の感想 ―
おじさん主人公が幼女と旅するやつならよく見るんですけどね……。 ……S級イケメン冒険者(残念幼馴染?)との偽装結婚は最終手段なんだね……。 こんな時でも防衛手段開発ではなく慣れた手仕事目線なのが…
[良い点] 読んでて気付きましたが母と共に逃げ出す設定は「なろう」では殆ど見かけません。 それが少しこの作品に他とは違うアクセントを生んでいる。 ついつい一気読みしてしまいました。 似たような母と子で…
[気になる点] 母子の縁切って男爵さんのとこに預けるのが次善かな?
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