第43話 対策会議?
ディトネルは2日間村長さんの家に滞在して、村の様子を見たり周辺の森を冒険者に探索させたりしていた。
僕は気が付かなかったけど、騎士が時々様子を見に来ていたらしい。
だけど、夜間に近づいて来た人はいなかったとステファナたちが言っていた。
そして、ディトネルがメルエスタットに向けて出立して、ようやく安心して眠れるようになった。
……すみません、嘘です、僕だけは普通に寝てました。
その翌日、今は畑仕事が忙しい時期だけど、今後のこともあるからとディトネルのことを話し合うことになった。
話し合いの前にステファナがシュガーローズ入りのお茶と野菜チップスを用意した。
この野菜チップスは野菜を薄切りにして塩水に漬けてから錬金術で水分を抽出して作ったお菓子だ。
「お酒には合わないです」
「……そうだね」
ルジェナはお酒に合うかどうかで判断しているけど、朝からお酒は出しません。
「ファナとルジェナには苦労をかけましたね」
「2日だけでしたから、私たちは大丈夫です」
「そうです、冒険者にはよくあることです」
母さんは2人を労ってから話を始めた。
「そもそも、ディットが来ることがおかしいのです」
母さんはディトネルが来たことに疑問を感じたらしい。
ディトネルは僕たちがカウペルス子爵家を出たときには、領政補佐官という役職に付いていて、簡単に領地を離れることができない立場だったらしい。
それなのに、手紙や使者ではなく本人が来たことがおかしい。それに『撤回されるまでメルエスタットで待っています』とも言った。
今も領政補佐官をしているならそんな時間はないはずだ、と母さんは説明してくれた。
「それに、護衛騎士とメイドは子爵家にいた時に見たことがなく、乗っていた馬車も子爵家のものではありませんでした」
最初に疑問を感じたのは3人の騎士とメイドだったらしい。
子爵家の家族を少数で護衛をするなら、10年以上子爵家で働いているベテランが付けられる。だから、母さんが見たことがない人がディトネルを護衛をしていることがおかしい、と。
メイドは入れ替わり多いから『子爵家の使用人ではない』とはっきり言えないけど、3年前にはいなかったそうだ。
だから母さんは『カウペルス子爵家から来たのはディトネルだけではないか?』と考えたらしい。
「ですが、それだけではカウペルス家がどこまで関わっているのか、分からなかったのです」
早々にゼルニケ・サンデルスの名前が出たから、馬車や人員をどこから借りたのかは分かったけど、肝心のカウペルス家の狙いが分からない。
サンデルス商会が動いているだけならともかく、カウペルス家が動いているなら、連れ戻される可能性がある。
「お父様が動くには遅すぎますし、ディットがお兄様の指示で動くはずがありませんから、子爵家がどこまで関わっているかを知っておきたかったのです」
母さんの元兄で僕の元伯父のホドフリート・カウペルスはカウペルス家の嫡男で領主補佐官として働いている。
兄弟の仲は良いとは言えず、特に弟のディトネルは領政補佐官という、兄よりも2つ下の役職にあることに不満を持っていたのを僕も知っている。
「ですが、『絶縁状を撤回する書状を送ってある』と言っていましたから、少なからず子爵家も関わっているということです」
絶縁状はその性質上、一方的に送ることができるけど、撤回するには双方の同意が必要になる。ただ、これが親子関係にある場合は親の意見だけで撤回されることがあるらしい。
「じゃあ、連れ戻されちゃうの?」
「まだ、そうと決まったわけではありません。念のためにあの方にも絶縁状の追認をお願いしてありますから、撤回はされないと思うのですが、最終的な判断は紋章院が下しますから、まだ分かりません」
「あの方?」
「アルが知る必要のない人ですよ」
そう言って母さんは僕の頭を撫でる。
母さんが言う『あの方』とは、ヴァーヘナル侯爵だと思う。母さんは侯爵のことを僕の父親だとは言わないし、名前を呼ぶこともない。それは、僕に父親だと思わせたくないからだと思う。
「それに、時期についても気になったのよ」
「時期ですか?」
「ええ、ディットは『半年前に居場所が分かった』と言っていました。では、わたしたちは半年前に何をしていたか覚えていますか?」
「半年前となると、秋、――あっ、メルエスタットでガラス工房の準備をしていました」
母さんの話をまとめると、ガラス事業のことを知ったゼルニケが、その立ち上げに僕たちが関わっていたことを知り、ガラス工房を調べるよりも母さんを手に入れた方が確実だと考えて、ディトネルに頼んだ。
そしてゼルニケに頼まれたディトネルが父親に絶縁状を撤回する書状を送ってもらった。
という流れではないかと考えた。
僕たちがガラス事業に関わっていたことは公表されてないけど、完全に隠すことはできなかったから、関係者以外でも知っている人はいる。
「おそらく、ゼルニケの目的はガラス事業の情報でしょう」
「それだけのために婚姻の話を持ち出したのですか?」
「元々は子爵家との繋がりを欲してのことですから、『それだけ』ではありませんが、価値が高くなってしまったのは確かでしょうね」
つまり、これは僕が蒔いた種だ。
僕が迂闊なことをしたから、こんなことになってしまった。
だけど、ガラスの技術情報はメルロー男爵家に渡したから、ゼルニケに渡すことはできない。
「……母さん、蜘蛛糸の作り方を渡せば、引いてくれるかな?」
「――っ、アルテュール様!」
「ルジェナ、ごめんね。でもこれは僕の所為だから」
ルジェナには『自分の作ったものに愛着を持て』と言われたけど、僕にとっては母さんが一番だから。
「ふぎゅ?!」
ルジェナと話していたら母さんに抱きしめられた。
「アルは優しいのね。でも、それは良くないわ。ファナとルジェナに申し訳ないというのもあるけど、1つの情報を渡せば次を要求される可能性があるわ」
それはルジェナにも言われたけど、母さんを守れるならそれでも良い。
「大丈夫ですよ。彼らの好きにはさせませんから」
「母さん?」
「そのために幾つか対策をしておきたいのです」
まずは母さんに制約魔法をかけて、僕が作った技術情報の全てを僕がいないときに話すことができないようにする。
制約魔法をかけるにはメルエスタットに行く必要があるんだけど、ディトネルがいるから、すぐには行けない。
次に、もしも母さんの絶縁状が撤回されて子爵家に戻された場合には、ルジェナと一緒にメルロー男爵家に保護してもらうように言われた。
僕は元からカウペルス家に籍が入ってないから、母さんの絶縁状が撤回されても僕がついて行く必要はない。ただ、その場合は母さんと離れ離れになってしまう。
「母さん……」
「アル、大丈夫よ。そうならないよう手を尽くします」
「僕にできることがあったら言ってね」
「ええ、頼りにしているわ」
僕にできるのは物作りぐらいだから、何を作れるか整理した方が良いかもしれない。
「またアルテュール様が何かとんでもないことを考えてるです」
「――っ、とんでもないことなんて、考えてないよ」
「じゃあ、何を考えてたです?」
「……何を、作れる、かな、と」
ちゃんと検討したことはないけど、候補だけなら幾つかある。
その後、僕は現時点で持っている情報と技術で作れそうなものを書き出した。
そして母さんは浮かない顔をしながら、何通かの手紙を書いて送っていた。




