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第33話 籠城戦

 まだ戦闘が始まった様子はなく、村の人たちも慌てずに集会所に向かっている。


 僕たちが集会所に到着した時には、村の人たちが数十人は集まっていた。

 そして、村長さんの家の前では村長さんとアウティヘルが自警団の人たちと話し合いをしている。


「行きますよ」


 母さんの言葉に従って僕たちは村長さんたちの方へ向かった。


「村長さん、現状を教えてくださいますか? ステファナとルジェナを戦闘に参加させる以上、わたしには聞く責任がありますから」

「ドワーフは鍛冶師ではなかったか?」

「鍛冶師ですが、Cランクの冒険者でもあります」


 そういえば、鍛冶師とは伝えたけど冒険者だったことは教えてなかった。だから、捜索隊に組み込まれなかったのか。


「……そうか。アーティ(アウティヘル)、説明してやれ」


 村長さんが自警団の団長であるアウティヘルに話を振った。


「えっ、あ、あぁ。えっと、今は南西門に戦力を集中させている。北東門にオークが回り込んで来る可能性もあるが戦力が足りない。北東門は予備団員と有志の男性数名に封鎖と監視をさせている」

「助力要請は出しましたか?」

「ああ、捜索隊の報告を聞いてすぐに出発させた」


 早馬の到着には急いでも1日はかかるから、救援が来るのは準備を含めて、凡そ3日後になる。


「冒険者の方に依頼は出しましたか?」

「ああ、Dランクのバルリマスに依頼を出して南西門の防衛につかせた」


 村の入口は街道に面した北東門と森側の南西門があって、オークが攻めてくるなら南西門から来る可能性が高い。だから主戦力と冒険者を南西門に集める。


 以前の暴走していた時と比べて、自警団をまとめて戦術が組める様子は相応の教育を受けてきた戦士のようで、少しだけ見直した。

 いや、これが本来のアウティヘルなんだろうか?


「籠城戦をするのですね?」

「それ以外に手はない。打って出ても殺されるだけだ」


 助力要請が男爵家に届けばローザンネさんが来てくれるはずだ。それまで持ちこたえれば助かる見込みはある。


「分かりました。ステファナとルジェナは南西門の防衛に向かわせれば良いのですね?」

「そうだ。南西門は私が指揮を執る。おまえたちは私の命令に従えばいい」


 前言撤回、思想は変わってなさそうだ。


「ステファナ、ルジェナ、あなたたちの役目はその手でわたしとアルテュールを守ることです。そのために最善を尽くしなさい」

「畏まりました、マルティーネ様」

「はいです、おのはアルテュール様を守るです」


 母さんはアウティヘルを牽制するように、2人に命令を出した。

 アウティヘルの指示に従うように命令を出してしまえば、無謀な命令されても拒否ができなくなってしまう。

 だから母さんは2人が使い捨てにされないように、その命令を出した。


 話し合いを終わらせて、ステファナとルジェナは南西門に向かい、僕と母さんは2人だけで集会所に向かった。


 ここには集会所と村長さんの家の他に備蓄倉庫があって、この3つの建物は石壁で囲われている。つまり、ここはヘルベンドルプの最後の砦になっている。


 これから3日間、ここで生き延びる。


 とは言え、戦えない子どもにできることは、大人しくしていることだけだ。

 大人たちは、門の補強と門が破られた時に備えて門を囲む様にバリケードを作ったり、戦う人たちに食事や武器を運んだりしていた。

 さらに怪我人がいれば手当をするのもここにいる人たちの役目だ。



 最初の日は、南西門とその周辺にオーク数体が近づいて来たけど、矢を射かけたら森に逃げて行ったそうだ。

 その後も森からオークが出て来るたびに、矢を射かけて追い返し続けたらしい。

 村の周囲から何度もオークの雄たけびが聞こえたけど、最後まで戦闘らしい戦闘は起きずに1日目が終わった。



 そして翌日。


 夜が明ける前からオークの攻撃が始まった。


 伝令の話では、オークたちは自分たちの集落から板を持って来て、それを矢避けにして門にとり付いて攻撃を始めたらしい。

 門は開閉する必要があるから、どうしても弱い部分がある。

 今は門を補強した上で、門が破られた時のために門前に物を積み上げてバリケードを築いてある。だけど、それでどこまで耐えられるか分からない。


 その後に来た伝令の話だと、南西門が今日中に破られる可能性があるから、戦力を集中して、門が破られた時の対応に回っているらしい。

 そして、今後は砦から出ないように言われた。


 防衛に当たっている人たちは、南西門が破られたらバリケードを利用して防衛をして、そこも限界になったらオークの数を削りながらここに戻って来る予定になっている。


 だけど、今度は北東門の方で大きな音が響き始めた。


 南西門が破られる寸前だったから南西門に戦力が集中していて、北東門には最低限の人員しか残っていない。

 両方の門を同時に攻められると戦力が少ないこちらは不利だ。


 と、その時、北東門の方からガラガラと倒壊音が響いた。


「なっ、もう破られた?!」

「……アル、わたしは城門の防衛に行きます」

「母さん?!」

「今は他に戦える人がいません。大丈夫です、防衛する人たちが戻って来るまでのことです」


 よく見れば手が震えてる、母さんも怖いんだ。

 母さんは攻撃魔法が使えるだけで戦ったことがない。

 それでも母さんは行くだろうし、戦えない僕はついて行くことができない。

 僕は城門の前で待機している母さんが見えるように、集会所の玄関で待つことにした。


 まだ何も見えないけど戦闘音は近づいている、防衛をしていた人たち戻って来たみたいだ。


 それからしばらくして戦闘音が聞こえなくなったら、城門に近づく人たちが見えてきた。先頭にいるのはアウティヘルで、数人の自警団の人たちを連れている。


「ここを死守する、お前たちは城門に上がれ!」


 アウティヘルの号令で自警団が城門に上がって攻撃の準備を始めた。

 母さんはその様子を見て、安堵するように息を吐いて戻って来た。


 その瞬間だった。


 城門の先に1体のオークが建物の陰から現れて、こちらに向けて石を投げる体勢をとった。


 母さんはこっちを向いていて気付いてない。

 僕は何かを考えるよりも先に母さんのところへ走った。

 そして僕の形相に気が付いた母さんが後ろを振り返る。


 遠く離れたオークが石を投げたのが見える。

 その石は母さんに向けたものか、それとも偶然なのか分からない。でもこのまま石が当たれば母さんが危ない。


 母さんのところまで来た僕はありったけの魔力を凝縮して母さんを守るように真っ黒な壁を作った。


 石は壁に当たって直撃は避けられたけど、物質化した壁は軽く(・・)、衝撃を受け止めきれずに僕と母さんは吹き飛ばされてしまった。


「――アル?!」


 母さんの声は聞こえるけど、体中が痛くてうまく声が出せない。

 痛みを堪えて周りを見回すと、母さんは僕より遠くに飛ばされていた。

 そして、一瞬の出来事に呆気にとられた人たちがこっちを見ている。


「?! 閉門だ、門を閉めろ!」


 慌てた声で門を閉じる指示が出されたけど、もう遅かった。

 1体のオークが門扉に体当たりをして強引に中に入って来た。


 オークが雄たけびを上げて周囲を威圧する。

 自警団はオークに剣を向けて牽制しているけど、簡単に倒せる程オークは弱くない。


「くっ、門を閉じろ! これ以上、中に入れるな!」


 自警団が門を閉じようと門に向かったら、『させるか』とでも言うようにオークが門に向かった自警団に襲いかかった。


 状況は最悪だ。


 母さんは守れたけど、体中が痛くて動けそうにない。

 オークに砦の中に入られてしまって門が閉じられない。

 頼みの綱の主戦力はまだ戻って来ない。


 そして、もう1体、オークが入って来た。


 そのオークは母さんを見て醜悪な顔を歪ませて笑った。


 あのオークの狙いは母さんだ。


「に、げ、かぁ、さ」


 体が動かない、でも、母さんが危ない。


 ――ダメだ、止めろ。


 僕は残った魔力をルドに変えて、オークの顔に向けて放った。

 こんなのは目くらましの意味しかない。ルドは見えるだけで攻撃力はない。

 オークがルドを振り払おうと手を振っているけど無駄だ。ルドは見えるだけで触れないし風の影響も受けない。


「アル、ダメ! 止めなさい!」


 母さんの声が聞こえた。


 そして、開いている門の先でステファナとルジェナが戦っている様子が見えた。

 2人が戻って来た。あとはここに来るまで時間を稼ぐ。


 だけど、僕がルドを操ってることに気付いたらしく、オークが近づいて来て目の前で止まると棍棒を振り上げた。


 物質化するだけの魔力も残ってないし体も動かせない僕には、その様子を見ていることしかできない。


 心の中で『ごめんなさい』と母さんに謝ったその瞬間、オークが消えた。


「何とか間に合ったか。よく頑張ったな」


 いなくなったオークの代わりにそこにいたのは、真っ白なマントを羽織った黒髪の人だった。


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