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第20話 地下会議室

 ―[メルエスタット メルロー男爵邸 地下会議室]―



 男爵邸に戻って来てすぐに、執事長のセビエンスさんに屋敷の地下にある部屋に案内された。


「戻って来て早々にすまないね」

「いえ、こちらも報告がありますから」

「その報告を聞く前に、この部屋の説明をさせてくれ」


 そう言ってからトビアスさんはこの部屋の説明を始めた。

 ここは私邸の地下にある避難施設だった場所で、出入口が1カ所しかなく侵入者の対策がしやすいことから、ガラス事業に関する情報を扱う専用の部屋にしたらしい。


「避難施設として使わなくなってからは、倉庫にしていたんだよ」


 元は避難施設だったから12畳の大部屋と4畳の小部屋が3つ付いていて、短期間なら生活ができる構造になっている。

 ここにあった荷物を私邸の空き部屋に移動させて、会議用の大きなテーブルを部屋の中央に置き、10脚の椅子を用意したらしい。


「この部屋の鍵は私とセビエンスだけが持っている。つまり、私かセビエンスがいなければこの部屋には入れないということだ」

「避難施設だったということは、抜け道があるのでは?」

「今の地下通路が元は抜け道だったんだよ」


 この地下施設は上から梯子で降りる構造になっていて、抜け道は私邸の外に繋がっていたらしいんだけど、行政館を建てる時に元々の入口を塞いで、抜け道を行政館に接続して地下倉庫に作り変えたんだとか。


「確かに、ここなら大丈夫そうですね」

「気に入っていただけて何よりだよ」


 行政館から地下通路に入る扉が隠し扉みたいになっていたり、途中に別の場所に出る通路があったりして、ちょっとした秘密基地みたいで面白い。


「それでは、報告を頼む。行政館にある工房の資料も持ってきたから、照らし合わせて確認をする」

「わかりました。ではまず、オプシディオ商会についてですが……」


 母さんは順に説明をしていく。


 まずはオプシディオ商会との話し合いの内容を説明した。

 最終的には折れたけど、実際に諦めているようには見えなかったことと、尾行が続いていたことから、まだ情報を得ようとしている可能性があると説明した。


「わが家が購入したのに『手を引く気はない』と?」

「相手は商人ですからね。交渉は諦めても、情報を得ることは諦めていないのでしょう」


 ヘイスベルトさんが『助力を惜しまない』と言っていたのは、ガラス事業に協力して近づき、情報が洩れるのを待っている可能性がある。

 そうして情報が洩れたことで独占が崩れた事業が過去に幾つもあると聞いた。

 同じことにならないように、しっかり防諜する必要がある。


「そこまでしてくるなら相応の注意が必要だね」

「ええ、そのために工房の改装案をまとめましたので検討をお願いします」


 母さんは建物の簡単な図を書いた紙を見せて、そこから通路や壁を加えて何をどう変えるのかを説明していく。

 さらに、防音対策の実験もお願いしてくれた。


「コアシートにそんな使い方が?」

「おそらく、でしかありません。実験しなければ分からないことです」

「へぇ、それも錬金術師殿に聞いたのかい?」

「――っ、ええ、そうです」


 トビアスさんが図面を見ながらした質問に母さんが動揺した。

 すっかり、錬金術師の設定を忘れていたみたいだ。


「防音の魔道具を常に稼働させることはできませんから、その代わりです」

「なるほどねぇ、防音の魔道具は優秀だけど3時間ぐらいしか稼働できないから、コアシートを壁に貼り付けるだけで防音できるなら、そっちの方が便利だよね」


 これも情報として売れるかもしれないと思ったけど、コアシートは既に作られているから使い方を知られたら技術も何も必要がない。

 ……うん、これは、放っておこう。


 次は情報の扱い方について説明する。


 情報をガラスとレンズの製造方法とレンズの知識とメガネの知識に分けて、工房で働く人たちに与える情報を制限する。


 そして、製造方法だけは職人以外には教えない。


 メガネを販売する以上、レンズの情報は表に出てしまうのは避けられない。

 だけど、透明なガラスの製造方法さえ押さえておけば、レンズを模倣されないようにする方法はある。


 ……あまり褒められた方法ではないから使う気はないけど。


「なるほど、だから工房をここまで厳重にしているのか」

「それと、工房に部外者が入るのを避けるために、ガラスの販売も工房以外で行ってほしいのです」

「……そうだね。ガラスの重要性を考えると部外者を入れるのは避けたい」


 これで、工房と情報の取扱いは決まったけど、一番肝心なのはそこで働く人たちのことだ。


「それで、人員はどうなりましたか?」

「まだ始めたばかりだからね、奴隷商が言っていた錬金術師は確保したけど、ガラス職人はまだ見つかってないよ」


 現状で決まっているのは、総責任者がトビアスさんで、その補佐にセビエンスさん、工房の運営責任者は昨日まで門衛だったエルドルスさん。


 エルドルスさんが工房の運営責任者になった理由は、昨日の僕たちに対する対応が柔軟で的確だったため、このまま門衛を続けさせるよりも責任者にした方がその能力を活かせると判断されたからだ。

 それに、その行為が今回のガラス事業のきっかけになったから、褒美も兼ねているらしい。


 他に決まったのはセビエンスさんの部下で男爵家の資産管理を任されているフィクトルさんと言う人が、工房の事業費を管理するためにエルドルスさんを補佐することになった


「今、決まっているのはここまでだね」


 運営する人は男爵家の人員から決めたけど、職人は簡単には見つからない。


「領内で見つからなければ領外も探させるけど、それには時間がかかる」

「そうですね。将来的なことを考えれば錬金術師は多い方がいいですから、探せるだけ探した方がいいですね」


 錬金術師の魔力が切れたら仕事が止まってしまう。

 仕事を円滑に進めるには複数の錬金術師が必要になる、だから探し続けるのは無駄にはならない。


「現状はこんなところだね。セビエンスは何かあるかい?」

「僭越ながら、錬金術師の育成をされるのが宜しいかと」


 セビエンスさんは現在のメルロー男爵領の錬金術師の状況を説明した。


 男爵領で錬金術師として働いているのは2人だけで、今はその子どもを後任にするべく教育中らしい。彼らはあくまで自分の後任として育てているから、ガラス事業に引き抜くことはできない。

 つまり、将来のガラス事業に携わる錬金術師を増やすなら、男爵家が錬金術師を育てる方が良いと言っている訳だ。


「そうは言うが、誰を教育するつもりだい? 今から教育できるような子どもは親戚にもいないだろ?」


 錬金術師や魔法使いを目指すなら10才頃には訓練を始める必要がある。

 これは10才から15才ぐらいが魔力が一番増えるため、その時期に魔力を増やす訓練をしないと、魔法使いや錬金術師として大成しないからだ。


「孤児院の子どもを身受けしてはいかがでしょう」


 孤児院にいるのは13才以下の子どもだけだ、年齢は問題ないけど『素質は親から遺伝する場合が多い』と聞いたことがある。

 孤児に貴族と同じような素質を求めるのは難しいけど、魔力量を増やすことに注力すれば錬金術師になれる可能性はある。


「ディーデリックさんからガラス工房の近くに孤児院があると聞きました」

「左様です。ガラス工房の近くには、領民孤児院があります」


 孤児院は領都に2軒あって、教会が運営している教会孤児院と男爵家が運営している領民孤児院がある。工房の近くにあるのは領民孤児院の方だった。


「セビエンスは孤児でも教育すれば錬金術師になれると考えているのか?」

「正直なところを申しますと、私にも分かりません。ですが、幼いころから教育を施せば可能ではないかとも考えております」


 教育を施せば誰でもなれる、とは言えない。

 だけど、幼少期から魔力の訓練をすれば魔力を増やすことができるし、文字や計算も教えれば、錬金術師になれなかったとしても将来の役には立つ。


「なるほど、……試してみる価値はある、か」


 それで試される子どもが、幸運なのか不幸なのかは分からない。だけど、せめて本人の意思を汲んであげてほしい。


「人材探しについては、育成を含めてこちらで再検討しよう」

「分かりました。わたしたちは工房の準備をお手伝いします」

「そうしてくれると助かる。私は工房について詳しくないのでね。改装に必要なことは実際に工房を運営するエルドルスと検討してくれ」

「分かりました。数日中には改装工事の案を提出します」


 今回は3人での報告会議だったから現状報告が主体だったけど、大まかな方針は決まったから、あとはそれぞれで進めて行けば良い。


「では、今日は終わりにして明日に備えよう。私も昨日から考えることばかりで疲れたよ」


 トビアスさんは昨日からあまり眠れてないみたいだ。

 うっすらと目の下に隈がある。


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