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第13話 交渉 トビアス

 母さんに現状を説明して今後のことを話し合った。


 基本的に僕が錬金術を使えることを話さずに『錬金術師に教わった』と説明することになった。

 オプシディオ商会については、明確に脅迫してきたわけじゃないから、何もできないけど、交渉に脅迫を混ぜてくる商人を信用することはできない。

 今のところ敵対はしていないはずだけど、仲良くしたいとも思わない。


 これらを踏まえて、ガラスとレンズの情報を男爵家に売って、僕の代わりになってもらう作戦だ。


「マルティーネ様、応接室へお願いします」

「わかりました」


 メイドに呼ばれて僕たちは応接室に移動した。



 ―[メルエスタット メルロー男爵邸 応接室]―



 ソファーに座るのは僕と母さんだけで、ステファナとルジェナはソファーの後ろで立ったまま待機する。

 部屋にはメイドが2人居るだけでトビアスさんはまだ来てない。

 交渉をするのは母さんだけど、ちょっと緊張する。


「待たせたね」


 お茶を飲みながら待っていると、トビアスさんが1人で部屋に入ってきた。


「こちらこそ、突然訪問してごめんなさい」

「いや、何やら『ただ事ではない様子だった』と報告が来ていたからね。だけど、アルテュールくんだけが来た理由が分からないのだが?」


 トビアスさんは一瞬だけ僕に視線を向けてから、母さんに理由を聞いた。


「お話をする前に人払いをお願いできますか?」

「……それは、わが家の使用人は信用できないと言うことか?」


 トビアスさんの怒りは尤もだと思う。いきなりそんなことを言われたら誰でも怒るだろう。


「そう取っていただいても構いません。ですが、わたしがこれから話す内容は商業利益に関することです。情報が洩れたら責任を取れますか?」


 母さんがここまで厳しく言っている理由は、特許のように製造方法を守る法律がなく、製造方法は自分たちで守る必要があるからだ。


 トビアスさんは室内に居た2人のメイドを退室させてから話を続けた。


「商業利益……そうか、貴女はわが家の状況を聞いていたのか」


 トビアスさんが納得顔で頷いたけど、今回の話は僕の失敗を埋め合わせるための話し合いだから、男爵家の状況は関係がない。

 母さんも不思議そうな顔で、トビアスさんを見ている。


「状況とは何のことでしょうか?」

「父上から話を聞いたから、商業利益の話を持って来たのではないのか?」

「すみませんが、何のことを仰っているのか、わたしには分かりません」


 どうやらトビアスさんが何かを勘違いしたみたいだ。

 でも、その反応だと男爵家に金銭的な問題があると言っているようなものだ。


「――、すまないが、今の話は忘れてくれ」

「ですが、今回のお話をするにも、男爵家が受けられるだけの状況になければ、お話しすることはできないのですが?」


 情報を話して男爵家が受けることができなければ、こちらが情報漏洩の危険だけを背負ってしまう。


「資金援助をしてほしいという話かい?」

「少し違います。男爵家に主体となって動いてほしいのです。わたしたちには情報料として利益の一部を頂ければ十分です」


 今回は利益より安全を重視する必要がある。

 母子に護衛が2人というのは、一般人よりは防備を固めてるけど、本気で襲われたら助かる見込みは薄い。


「それには、どの程度の資金が必要なのかな?」

「0から作る場合は稼働するまでに白金貨で80枚ぐらいは必要です」

「――っ?! ……すまないが、80は無理だよ」


 これは、ガラスを溶かす炉から作る場合で、炉を作るには凡そ白金貨40枚かかるとルジェナが言っていた。


「白金貨80枚は『0から作る場合』です。場合によっては白金貨40枚もかからないこともあります」

「40……か」


 そこで悩むということは、白金貨40枚は出せるかもしれないってことだ。相変わらず、トビアスさんは腹芸が不得意みたいだ。


「仮に白金貨80枚を投資するとして、回収するのにどの程度の期間がかかる?」

「状況によるので絶対にとは言えませんが、正式に稼働してから早ければ3年以内、遅くとも5年で回収できると思っています」

「――っ、そんなに、早く?!」


 これじゃ詐欺師みたいだ、利益ばかりに注目させてその気にさせる。メリットだけを話してデメリットを話してない。

 技術情報を守る労力や働く人を探したりするのは結構大変だと思う。

 意外とくせ者なのが、『正式に稼働してから』の部分だ。準備を整えるまでにどれだけ時間がかかるのかが分からないことだ。


「白金貨40枚になる条件だけでも教えてくれないか?」


 トビアスさんの言葉を聞いて母さんが僕を見る。

 オプシディオ商会もガラスが関係していることは分かっているから、そこは隠さなくても良い。だから僕は頷いて返した。


「ガラス用の炉があることです。その炉を作るのに白金貨で40枚ほどかかると聞きました」

「ガラスか、……それは工房があれば良いのかい?」

「工房をお持ちですか?」

「領都を拡張する時に使用していた工房の中にガラス工房もあったはずだ。今は使われてないから、整備する必要はあると思うが」


 領主は不要になった生産施設や倉庫などを買い上げて、必要に応じて貸し出している。

 工房があるなら、あとは、設備の整備をしてガラス職人と錬金術師を雇って、仕事ができる状態を作れば良い。


「この町に営業しているガラス工房はありますか?」

「1軒だけある、主に窓のガラスを作っている工房だ」


 そう言って、トビアスさんは応接室の窓を見た。

 窓ガラスは少しだけ赤みがかっていて、不純物が多い珪砂を使っているのが分かる。


「それでしたら、白金貨40枚程度で済むと思います」

「……それで、貴女たちの取り分はどうなっている?」

「利益の一部と貴族学院の推薦状をいただけたらと思っています」

「推薦状? アルテュールくんを貴族学院に行かせる気かい? でも彼は……」

「分かっています。ですが、本人が行きたいと言っているなら、行かせてあげるのが親の務めですから」

「……分かった。だけど、推薦する以上は入学前にわが家で試験を受けてもらうことになるが、いいかい?」

「ええ、問題はありませんよ」


 推薦状をもらうために試験があるのは知らなかったけど、考えてみたら当然だ。

 合格する見込みがない人を推薦すれば、推薦した男爵家が恥をかく。

 だから、推薦をもらうには『合格するだけの能力がある』と男爵家に示す必要がある。


「それで、どうなさいますか?」


 母さんが話を受けるつもりがあるか聞いている。

 男爵家が受けないなら、他の商会に売るか、危険を承知でオプシディオ商会に売り渡す方法もある。


「すまないが、私だけでは決めることはできない。父上に話す必要がある、話しても良いか?」

「ええ、お話しするのは構いません」


 トビアスさんはまだ男爵の嫡男だから決定権はない。

 だけど、トビアスさんの興味を引ければ、トゥーニスさんの仕事に割り込んで話を持って行けるから話が順調に進む。


「それと、貴女に情報を与えた錬金術師は本当に何も言ってこないのか?」

「大丈夫です、『好きに扱って良い』と了承を得ていますから」

「そうか、では父上に話してくるからここで待っていてくれ」

「はい、良いご返事をお待ちしています」


 トビアスさんはトゥーニスさんと話すために部屋を出て行った。


「アル、どう思いましたか?」


「反応は悪くないけど、男爵家に何があったのかは気になるかな。商業利益って言葉に反応してたからお金の問題だと思うけど、納税が終わったこの時期にお金の問題が出るのは、それだけの事情があるってことだよね?」

「そうですね。昨日はトビアスさんも不在だったようですし、ローザンネさんは今日も不在のようです。お屋敷の様子もおかしいですから、何かあったのは確かでしょうね」


 トビアスさんが居なかったのは知らなかった、もし今日も居なかったら面倒なことになってたかもしれない。

 それと、男爵家の最強戦力であるローザンネさんがいないのが気になる。


「あとは、閣下の判断次第です」


 まだ肝心な情報は何も話してないから、断られても痛手はないけど、僕たちの身の安全のためには、男爵家が受けてくれるのが一番良い。


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