第一話 召喚というには生温い。もはや誘拐
草木が鬱蒼と生い茂る森の中、2人は対峙していた
片や精悍な顔つきをした騎士。
片や満身創痍で血泥な少年。
少年は怯えた表情を顔に貼り付け後ずさる。
見るからに業物とわかる剣を携えた騎士も顔には出ていないが、内心は自分が狩る者であると疑っていないだろう。
しかし狩る者の心構えと言うべきか、騎士は剣を抜き油断なくにじり寄る。少年も背は見せないが後ずさり、距離を話さんとするが距離は徐々に消えていく。
青年の手に掴まれた短小のナイフに力が入る
万人が見れば、追い詰められているのはどちらか。
火を見るより明らか
ひとりだけ。
一人だけ。
独りだけ。
勝利を確信してるのは誰か
握っていたナイフを手放し騎士は若干意識をずらされる
その隙
少年は足を一歩踏み出し
ニヤリと笑う
「これで射程範囲内だ」
騎士が少しの驚きと同時に袈裟斬りにかかろうとした瞬間
「凍結」
最後に見た騎士の光景は、落としたハズのナイフを手に、自分を殺さんとする黒髪の少年の姿だった。
〜〜〜〜
「よっしゃ勝った〜!」
ゲーム機から手を離しグッと体を伸ばす。
2本目のエナジードリンクは飲み干し、冷蔵庫から次の缶を取り出し喉を潤す。
今やってるゲームはFPSゲーム。他のFPSと違うのは銃を使うのではなく魔法。このゲーム性がなかなかに面白い。
魔法は色々種類があり遠距離専用の魔法だったり短距離で輝く魔法。妨害に特化した魔法など沢山ある。その中でよく俺が使うのは補助魔法と妨害魔法。敵の視界を暗転させたり、動きを止めたり。仲間のパワーを底上げしたり。これがなかなか難しいのだ。
前に出すぎると防衛手段が少ないため即死。後ろすぎても補助も妨害も範囲外で意味をなさない。
この立ち回りの難しさが俺のゲームスタイルにピッタリとハマり。翌日学校がない日は朝までオールなんてザラだ。
「次マッチングするぞ〜」
「うぇーい」
この試合が今日の何戦目かはわからないが、気合いを入れるためにエナジードリンクに再度手をかける。
その時だった。
「みーつけた」
その声とともに俺の手はピタリと止まる。
ピキッ
突如、目の前の空間がひび割れた。
真っ黒な、それこそ一筋の光すら逃がさない漆黒の腕が、空間を歪ませながら姿を露わにする。
その禍々しいとも言い尽くせぬその物体は俺の首をつかみ、割れた空間の中に引きずり込まんとする。
不思議と首を捕まれ引っ張られているのに苦しくない。と思ったが最後俺の意識は途絶えた。
〜〜〜〜
「で?どこだここは」
さっきまで暗かった風景がいきなり明るくなり、少しの眩しさも感じず、そこに見えたのは木、木、木、木、木。
そう、森である
視界からもたらされる情報はしっかりと今見えているのは森だと主張してくるが、しかし何故森にいるかはさっぱりと理解出来ない。
右見て木、左見て木、後ろ見ても木。当たり前だが前も木だ。
「なんで?」
むなしくも俺の声に返事してくれる人がいるわけない。
しかし正直薄々気付いてる。さっきまで見た光景と今の光景の移り変わりに絶対関係してるであろうあの禍々しい腕。
確実に作り物とは思えないあの出来事はどうにも導き出した仮説に結びついてしまう。
薄暗い部屋からこんな木しか見えん森に瞬時に光景が移り変わるなど常識の外にある。それこそ別次元的な出来事だとしか思えないのだ。
そしてもう1つ。体がなんかおかしいのだ。
さっきまで疲れていたはずの体からは倦怠感が抜け、エネルギーすらも感じ取れる。
これはもう納得するしかない。
「状況から察するにここは…」
もう一度当たりを見渡しながら指を鳴らし
「──異世界だってことだ──」
正解と言うかの如く、遠くではあるが聞いたことの無い獣と思わしき叫び声が上がった。
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一旦落ち着いた結果、出た言葉は夢見るものであった。
スーパーパワー。特殊能力。
異世界物のストーリーは幾分か嗜んできた身だ。
当然憧れもする。
最強じゃなくても、チートじゃなくてもいい。
ただ特別な能力があって欲しいと思うのは当然。
まぁ何が言いたいかって言うと。
「ステータス」
あってくれよ異界の力。
あわよくばスペシャルであれ。
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キサラギ・ソータ 16歳
称号:【異世界人】【託された者】
Lv.1
HP:10/10 MP100/100
力:9 素早さ:15 魔力:50 防御力:7 知力:20
【スキル】
(パッシブ)
状態異常耐性LvMAX、剣術Lv1
(アクティブ)
なし
【ユニークスキル】
魔眼Lv1、状態付与魔法Lv1
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ストック分は1日に1回更新。その後は2日に1回ペースを目指します。