気楽にやれば
食事は十八時三〇分からということで、リチャードとエヴァ一度引き上げた。
礼音はリビングに腰を下ろし、スマホで動画を見る。
服も靴も慣れていなくて落ち着かないのだが、着替えるのは面倒だった。
予定の時間になってスマホのアラームが鳴ったので、彼は部屋の外に出る。
「レオン!」
彼の姿に気づいたエヴァがうれしそうに名前を呼ぶ。
くるぶしが見える程度の濃緑のワンピースドレスに白いパンプスをはいている。
オシャレなストールを肩に羽織っていて、身につけた真珠のネックレスも見事だ。
髪をサイドアップにしているのも華やかさにひと役買っている。
エヴァは微笑んだまま、何かを期待するようにじっと彼を見上げた。
「……とってもきれいだよ」
礼音は照れるのに耐えながら、シンプルに褒める。
まったくお世辞を言う必要がないのが美少女という存在だ。
エヴァならどんなアイドルやモデルの横に並んでも、見劣りしないだろう。
「ありがとう。レオンも似合っていて素敵よ」
正解だったらしくエヴァは魅力的に笑いながら、褒め言葉を返す。
「そうかな。ありがとう」
どんな服でも着こなしてしまいそうなエヴァとは違う。
礼音はそう自覚しているが、彼女の厚意は受け止めるべきだ。
「やあ」
とリチャードがおだやかに声をかけてくる。
彼の服は礼音のものと大差がない。
ただ経験の差か、しっかり服を従えている印象だ。
「俺だけなんか違う気がするんですが」
と礼音はリチャードに相談する。
「慣れと自信の差だろう」
老人は即答した。
「服を着る経験を増やしていけば、自然とできるようになる」
「そういうものですか」
リチャードがあまりにも自信たっぷりなので、礼音は疑わず聞き入れる。
「ふふ、そろそろエスコートしていただけないかしら?」
とエヴァは彼を見上げながら甘い声でおねだりしてきた。
「エスコート初心者でよければ」
と礼音が切り返すと、
「気にしないわ。大事なのは楽しく一緒に過ごすことですもの」
とエヴァは応える。
「私たち三人しかいないのだから、練習のつもりで気楽にやればいいさ。いくらでも失敗できるチャンスだよ」
リチャードは彼らの後ろに位置しながら優しく言う。
「それでいいんですか?」
と礼音は思わず聞く。
まるでふたりを練習台につき合わせるようなものじゃないか、という意識が強くあったからだ。
「平気よ。レオンのためだもの。いくらでもお付き合いするわ!」
とエヴァは元気に答える。
「じゃあ……やってみる」
ふたりがこれほど言うのだからと、礼音はひとまず肩の力を抜く。
(失敗していいって言われると、心が軽くなるな)
と思いながら。




