たしかにのびのびできそう
服のことなどがあるので、そのうちリチャードたちから連絡があるだろう。
それまでの時間をどうするかと考え、
「せっかくだから部屋の中を探検してみるか」
と礼音は思いつく。
部屋の中は大きくふたつに別れていて、片方が寝室。
もう片方は会議室でもあるかのように、八人掛けのテーブルと椅子があるし、スクリーンやテレビもある。
「でっけえ……この部屋だけでも俺のアパートの二倍くらいあるじゃないか?」
と礼音はつぶやいた。
実測してみないと本当のところはわからないが、たしかめてみる気なんて起こらない。
次に彼はトイレと洗面が二か所あることを発見する。
「トイレも洗面も複数あるのかよ……」
またしても彼は驚かされた。
たしかに過ごす部屋が違うなら、トイレも洗面も近くにあったほうが便利だ。
「思いついても実行はできないよなぁ」
なんて言いながら彼は探検を続行する。
ベッドが彼の想定より何倍もデカくても、大したことないように思えた。
「感覚がマヒしてきたような?」
と彼は首をかしげたところでサウナを見つける。
「サウナが部屋についてんのか!?」
そんなことがあるのかと礼音は仰天した。
サウナがあるのは温泉や銭湯くらいだというのは、単なる先入観だと思い知らされる。
「すごいな……と言うか、すごいとしか思ってない気がするな」
と礼音は言った。
さらに近くのバスルームのドアを開けてみる。
「……浴槽も洗い場も俺の部屋くらいの広さじゃないか?」
そして呆然とした。
何回も驚いたはずなのに、新しい衝撃があることがまず驚きだ。
ピカピカに磨かれた立派な洗い場も、白い浴槽も相当に広い。
「さすがに銭湯とかの大浴場より広いってことはないけど、個人用のサイズじゃない気がする」
とひとりごとを漏らす。
「広い場所でゆっくりくつろげってことか……」
たしかにのびのびできそうだなと彼は思う。
寝室に行って広いベッドの上に背中をあずけ、高い天井を見つめる。
「天井も高いんだよなぁ」
と礼音は感心した。
アパートの自室を二段重ねにしても入りそうだと思う。
「これが格差ってやつか」
いままで彼とは縁がなかった世界だ。
しかし、いまは足に踏み入れている。
「こうして目で見て、寝転がってみると多少は実感できるな」
と礼音はひとりごとを言う。
天ヶ瀬に言われて数字を見ただけじゃ、実はイマイチだった。
リチャードとエヴァに礼を言われ、感謝の気持ちを向けられて、人に喜ばれることをしたんだなと思った。
「……俺って鈍感なのかな?」
こうしてみるとちょっとだけ疑問を抱く。
その瞬間、スマホの通知音が鳴った。
『服の件で相談があるので、部屋に行きたい』
というリチャードからのメッセージである。
「おっと、用意されたのか」
と言いながら礼音は起き上がった。
さすがにこんな短時間でいちから作成されたはずがない。
彼の体型に合ったものが用意されたのだろう。
リチャードに了解と返事をして、彼はドアの前に向かった。




