スイートルーム
「ちょうどいい部屋があいていたんだ。一緒に行ってみよう」
とリチャードが微笑む。
うなずいたところでエヴァが礼音の腕をとる。
「エスコートされちゃうわ」
と彼女は笑うが、どう考えても礼音のほうがされる側だ。
(俺のことを立ててくれたのかな?)
と彼は解釈する。
「……こっちですか?」
エレベーターを通りすぎてリチャードたちが奥に行くので、礼音は不思議に思う。
「エレベーターは複数あるのだよ」
とリチャードが話す。
彼らが来たのは複数の男性スタッフがそばに待機しているエレベーターで、彼らにルームキーを提示する。
「スイートルーム専用なのよ」
その隙にエヴァが耳元でささやきくように教えてくれた。
「そうなのか」
男性スタッフがエレベーターを呼んでくれる。
エレベーターが泊まるとえんじ色のスーツを着た女性スタッフが、彼らを笑顔で出迎えた。
「彼女たちはフロア専任アテンダントなんだ。何かあるとまず彼女たちに相談するといい」
とリチャードが言って、彼に一枚のカードを渡す。
「ルームキーはこれだよ。部屋は近くだから、彼女たちじゃなくて私たちに連絡するのもいいだろう」
「了解です」
礼音が答えると、アテンダントたちがそれぞれ話しかけてくる。
「一度部屋に行って、それから合流しよう」
とリチャードが言うので彼はうなずいて、アテンダントに部屋に案内してもらう。
「当ホテルのご利用は初めてでしょうか?」
とアテンダントは笑顔で礼音に聞く。
せいぜい二十歳くらいの、ひと目で庶民とわかる服装をした若者に対してだ。
(プロってすげえな)
と彼は感心しながら、そうだと答えてアテンダントの説明を聞く。
まずホテルの利用の仕方が案内され、次に何かわからないことがあれば室内の電話の彼女たちに直通の番号を押せばよいという。
朝食無料、クリーニングやランドリー無料、サウナ無料、プール無料、フィットネスジム無料、リラクゼーション無料と言われて、驚きを超えて感心する。
頼めば靴磨きも無料でやってもらえるらしい。
(俺が持ってるのはスニーカーくらいなんだよなぁ……)
と思ったがさすがに言葉にはしなかった。
「何と言うか特別待遇って感じだな」
これはやばいかも、と礼音はつぶやいた。
「ごゆっくりおくつろぎください」
とアテンダントは言い残して立ち去る。
部屋の中を見てみれば彼が住んでるアパートより広く、内装は上品だった。
礼音がこっそりスマホで検索したところこの部屋「ロイヤルプレミアスイート」は120m²ほどの広さがあり、素泊まりがひとり42万と表示される。
「よ、よんじゅう!?」
と思わず変な声が出た。
四万でも圧倒されてしまうのに、さらにゼロがひとつ多いとは。
なおリチャードたちが泊まっている「ロイヤルデラックススイート」のほうは200㎡ほどの広さで、素泊まりがひとり50万を超えるとわかる。
(……365日泊まったら、1億円を超えるんじゃ???)
年間宿泊費が1億とか意味がわからない。
礼音は自分の脳のブレーカーが落ちた気分になり、何も考えられなくなった。




