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よかったら

 「今日はよかったら私たちと同じホテルに泊まらないか? その間に、準備をすすめられるから助かるんだが」


 とリチャードは提案した。


「ホテルですか?」


 礼音は驚いたものの、


「わかりました。お世話になります」


 すぐに彼の厚意を受け取る。


(断っても押し切られそうな気がする)

 

 という直感に従ったのだ。


「やったわ! ディナーもいっしょね!」


 とエヴァが手を叩いて喜ぶ。


「ディナー?」


 彼女の言葉が引っかかり、礼音の心にいやな予感が走る。

 ドレスコードなるものがあるらしいとは、彼も耳にしたことはあった。


「俺、服なんて持ってないですよ?」


 念には念をのつもりで、礼音はおそるおそる言ってみる。


「貸せる服くらい持っているから、何の心配もいらないよ」


 リチャードはおだやかに微笑む。

 ドレスコードに関して否定はしなかったので、彼はやはりかと思う。


 うれしそうにニコニコしているエヴァを見て、行くのはやめたいとは言い出せない。


「テーブルマナーとかも知らないんですが」


 それでもできないことをできるとは言いたくなかったので、礼音は申告する。


「ワタシだって日本のマナー知らないんだから、お互いさまじゃない?」


 とエヴァは言った。


「そうだな。個室にすれば気兼ねはいらないだろう」

 

 リチャードはうなずいてスマホで指示を出す。


「個室? そんなのがあるんだ?」


 礼音はエヴァに聞く。


「ええ! 静かでゆっくり過ごせるステキな空間だったわ!」


 彼女は経験談を語る言い方をする。


「そうなんだ」


 礼音は利用したことがあるのだと解釈した。

 同時にすこし気が楽になる。


(三人しかいないならまだいいかな?)


 と思うからだ。


 自分だけできないとなると気後れしてしまうが、アメリカ人の祖父孫も日本のマナーに精通しているわけじゃない。


 つまりお互いさまだと割り切ることができる。


(いつの間にかふたりとも通訳なしで、俺と日本語で会話しているわけだが)


 と内心引っかかる点はある。

 だが、気にしはじめたらきりがないだろう。


 【アルカン】に初めて行く前の自分に言っても、とうてい信じないような展開が目白押しなのだから。


「個室を三人で抑えておいたよ。部屋も私たちと同じ階の別の部屋でかまわないね?」


 とリチャードが確認してくる。


「ええ」


 ダメだと言っても無駄な気がしているので、礼音は素直にうなずく。

 それにひとり違うフロアに放り出されるよりは、安心な気はする。


 何かあれば相談にいける距離に知り合いがいるというのは、礼音にとって大きなことだった。


「ではこれからホテルに移動しないか? 服のこともあるしね。手に入れづらいサイズじゃないとは思うのだが」


 とリチャードは話す。


 たしかに礼音は日本人として平均的な体格なので、合う服が調達できないという心配はいらないだろう。


「そうですね。どんなホテルなのか、興味はありますよ」


 と礼音は微笑む。

 そしてホテル暮らしに興味を持って、ネットで検索した経験を思い出す。


(まさか本当にそんなホテルに泊まる日が来るなんてな)


 と我ながら信じられない。


 もちろんホテルで暮らすわけじゃなく、新居に荷物が運び込まれるまでのつなぎに過ぎないのだが。

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