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スキル「存在感なし」

 礼音は人が多い開けた場所に移動して、さっそくスキルを使ってみる。


「存在感なし、か」


 体の中のスイッチが入ったような感覚が全身を走り、スキルが発動したという感覚は得られた。


(もっとも、だからどうなったかなんてわかんないが)


 と礼音が思った矢先、前方から歩いてきた少年とぶつかる。


「いた!」


 少年は声をあげたあと、礼音を見て不思議そうに首をかしげた。


「もしかして俺の姿が見えてないのか?」


 声に出してみたが少年の反応はない。

 怪訝そうな顔をしたまま彼は立ち去る。


「……マジかよ? すごいんじゃないか、このスキル?」


 と礼音は信じられないとつぶやく。

 周囲に気づかれにくいならともかく、接触した相手にすら認識されないとは。


 いくら何でも強すぎるし、そのわりに簡単に使えるようになったことが腑に落ちない。


 たっぷり一分ほど考えて、


「異世界のルールなんて俺にわかるはずもないか」


 彼は思考を放棄する。


 強いスキルが手に入ったのなら、どうやって使うかを考えたほうがずっと有益だと考えたのだ。


「あと、人間以外にも有効なのかたしかめたほうがいいよな」


 と思いつく。

 【アルカン】は地球じゃないので、モンスターが生息しているという。


 さすがに人里を襲う凶悪な個体はあまりいないそうだが、人の手が及ばない領域はモンスターのナワバリだという認識でよいだろう。


 【アルカン】の暮らしを安全に楽しむためなら、モンスター相手にスキルが有効か試すのは必須だ。


「それに有効時間もだな」


 当然だがスキル効果時間が切れたところでモンスターに遭遇すると、目も当てられない惨事になる。


 礼音に戦闘の心得なんてないのだから。


「モンスターに遭遇しても逃げられるかなんてわかんねえぞ?」


 だが、すぐに問題に気づく。


 モンスターを探しに行くのはいいのだが、失敗しても安全を確保するためにどうすればいいのか。


 モンスターと戦ってくれる人を雇う金があるはずない。


「……とりあえずスキルを使いながら移動するしかないのか?」


 行き当たりばったりだなと思ったが、そもそも【アルカン】に来たこと自体が思いつきである。


 いざとなったら都市に逃げ込めそうな位置を確保し、動物相手にでも試すのがいいだろうと結論を出す。


 都市を出てさっそくスキルを使いながら動き回ってみる。

 ときどき見かけた小動物はみんな彼に気づかなかった。


「都市から近いのに、小動物っているもんなんだな?」


 生態が地球とは異なっているのか、単に自分が無知なだけなのか。

 礼音は肩をすくめてスキルの維持に集中する。


 都市から大きく離れないようにしていたが、やがて十人くらいの集団が門から出てくるのを目撃した。


「……単にあとをついていくだけなら犯罪にならないんだっけ」


 渡された本の内容を思い出しながらつぶやく。

 もちろん先方からすれば不気味だし、嫌われるだろう。


 窃盗や盗賊団のスパイ扱いされても文句を言えないのだが。


「命がけのリスクよりも、嫌われたり疑われるリスクのほうがマシだよな」


 死ぬよりはいいと思い、彼はスキルを使ったまま集団のあとをついていく。

 三十分くらいは歩いただろうか。


「モンスター接近!」


 ひとりの女性が警戒をうながし、集団は臨戦態勢に移行する。


「モンスターだって?」


 礼音があたりを見回すと二十を超える黒い犬のようなモンスターの群れが、彼らをめがけて駆けていた。


「やばっ」


 と礼音が声を漏らしたのは、六匹が彼のほうへ走ってきていたからだ。


(死んだか?)


 氷風呂に全身がつかったような寒さに見舞われたが、犬のようなモンスターは彼に気づかず横を通り抜ける。


「えっ」


 思わず声に出したが、やはり彼らは礼音の存在に気づいていない。


「こいつらは鼻がいいからな! ここで仕留めておかないとあとがやばいぞ!」


 リーダーらしき男性が仲間に大きな声を出す。

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