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約束

「緑の匂いが素敵ね」


 地面にシートを敷いて休み時間に入ったとき、エヴァは言う。


「そっか。気にしたことなかったな」

 

 礼音は言われて初めて気づく。

 何度も来ていた場所なのに、木や葉の匂いなど注意を払ったことがなかった。


「レオンはどんなことが好きなの?」


 とエヴァが聞く。


「好きなこと……美味い食べ物かな」


 礼音はすこし考えた末、ようやく答えを口にする。

 

「へー、そうなの! どんなものが好きなの!?」


 つまらないことだと思ったが、エヴァは食いつく。


「……肉とか揚げ物とか」


 彼女が喜んでくれるならと礼音は教える。


「そうなのね! ワタシもお肉は好きよ! そろそろ食べられそうなの!」


 とエヴァは言った。


「ああ、そう言えば食べてなかったね」


 礼音は料亭に連れていかれたときのことを思い出す。

 体に優しい和食中心だったのは彼が日本人だからだけじゃない。


 当時のエヴァがたべられる物を、という意図もあったようだ。


「どんなお肉が好きなの? 一緒に食べない?」


 とエヴァが言ってくる。


「行くのはいいよ。リチャードさんが許してくれるなら」


 礼音は答えてから、どんな肉が好きかで悩む。


「ほんと!? 約束よ!」


 エヴァは静かに大喜びという矛盾した表現を採用されそうな喜び方をする。


「ああ。ちゃんとリチャードさんの許可をとってくれよ」


 と礼音は頼む。

 許可なく彼女を連れて行くと、リチャードはさぞ怒るだろう。


 そんな展開はごめんだ。


「もちろんよ。おじい様はワタシに甘いから、大丈夫だと思うわ」


 と言ったときのエヴァの笑顔の種類が、普段とは違って小悪魔っぽい。

 

(こういう表情もするんだ)


 礼音には新鮮な驚きだった。


「ならその日を楽しみにしよう。約束だ」


 と彼は言う。


「ええ!」


 約束、とエヴァは口の中で小さくくり返す。

 

「それじゃ休憩を終えて探索に戻ろうか」


 と礼音が言うと、彼女はうなずいて立ち上がる。

 


「これは【百年樹の枝】で、そっちは【罪撫で草】だわ」


 エヴァは鑑定した結果を礼音に教え、彼が素材を拾って特上収納袋に入れていく。

 

「エヴァのおかげで助かるよ」


 礼音は心から言った。

 

「そうかしら?」


 エヴァの瞳には若干の不安と期待がまざっている。


「俺は何が何だかわからないからめぼしそうなものは全部詰め込んでたんだよ。エヴァのおかげで格段に効率がよくなった」

 

 と彼は微笑みながら優しく説明した。


「そうなのね。ならよかったわ!」


 とエヴァは安心して笑う。


「うん、そうなんだよ」


 礼音は大事なことだからもう一度言う。

 ふたりはこうやってめぼしい素材を集めていく。


「ところでレオン、何か異変みたいなものわかる?」


 とエヴァが聞いた。


「いや、何もわかんない。サーベルフォックスが出て、日が経ってないせいだと思うけど」


 礼音は首を横にふる。


「だから今日は無理せず、帰ろうかなと思うんだ」


「うん、わかったわ!」


 エヴァは笑顔でうなずいた。


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