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エヴァという少女

 決まった時間に礼音が異世界事務局渋谷支部に行くと、黒服の外国人という既視感のある集団がいた。


「おお! レオン!」


 彼が中に入った瞬間、リチャードが笑顔で迎えてくれる。

 そのあと隣の車椅子の少女に話しかけた。


 少女はプラチナブロンドの美しい髪、新雪のように白い肌を持った彼女はゆっくりと礼音の近くまで来て、


「はじめまして。わたし、エヴァ。サンキュー」


 と言って立ち上がり彼に抱き着く。


「あ、うん」


 バニラの香りとやわらかい感触、それに女の子の体温を感じて礼音はドキドキする。


(いや、まさかこんな美人だなんて……)


 彼は放心しなかっただけでも自分を褒めてやりたいと思う。


 メディアで紹介されているアメリカのスーパーモデル、トップ女優に引けをとらないくらいの美少女だと、どうして予想できただろうか。


 リチャードが早口の英語でエヴァに話しかけ、彼女は車椅子に戻る。


「すまない。日本人はシャイだと話したのだが」


 とリチャードは孫娘のかわりに礼音に詫びた。


「いえ、大丈夫です」


 と彼は笑みを作って答える。

 アメリカ人らしい陽気なスキンシップだった。


 それに可愛い女の子にハグされても不快にならないくらいには、彼も男子である。


「もう動けるんですね?」


 と礼音が言い、立ち会っている天ケ瀬が英語でリチャードに話しかけた。


「他にも【アルカン】産のアイテムを使ったがな。これからこの子はリハビリだ。長らく寝たきりだったのでね」


 とリチャードは喜びで顔じゅうをしわだらけにしながら答える。


「なるほど」


 いくら【アルカン】の薬が強力でも、リハビリの過程をすっ飛ばすことはできなかったらしい。


 あるいはそういうアイテムがこちらで認知されていないだけだろうか。


「レオンにまた会う、わたしがんばる」


 ぎこちない日本語で言ってエヴァが微笑む。

 春の花のように可憐で、礼音はとてもドキドキする。


「迷惑でなければまた会ってくれないか?」


 とリチャードに頼まれた。


「それはかまわないですが」


 礼音の返事を天ケ瀬が通訳し、祖父と孫娘は喜びをそれぞれあらわにする。


「あなたに会えるならこの子もリハビリも頑張れそうだ」


 リチャードは微笑みながら言う。


 その言葉を肯定するようにエヴァは青い目をキラキラと輝かせ、満面の笑みを浮かべて礼音を見つめている。


「この子がどうしてもあなたに会いたいと言って聞かなかったくらいでね。今日のところはこれで失礼するよ」


 とリチャードは帽子をとってあいさつをした。

 彼らが去ったあと天ケ瀬は礼音に近づいて、


「ずいぶんと気に入られましたね」


 と言った。


「やっぱりそうなんですかね? アメリカ人らしいフレンドリーな感じじゃなくて?」


 人生経験が浅く、女性経験なんてない礼音にとって、彼らの態度が有効なのかそれ以外なのか、判断しづらい。


「そうだと思いますよ」


 この人ニブいなと天ケ瀬は思ったものの、態度には出さなかった。


「このあとはいかがなさいますか? ご用があれば承りますが?」


 と彼女は申し出る。


「いえ、とくにはないですね。【アルカン】には行ってないですし」


 礼音が答えると、


「お時間があるならリチャード氏に連絡するのはいかがでしょう? 三日月さんに教えてもいい連絡先、承っていますよ」


 と天ケ瀬は言う。

 

「わかりました」


 たぶん連絡して来いって意味だろうと予想し、礼音は引き受ける。

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