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フリーター異世界【アルカン】に行く

「仕事やめてぇ」


 と礼音れおんは道ばたの小石を蹴る。

 フリーターの彼は仕事をやめたらただの無職だ。


 大学受験に失敗したのがケチのつきはじめだったように思う。


 家に帰ってスマホからネットを見ると、異世界【アルカン】の話題が目に飛び込んでくる。


「【アルカン】かあ……上手くやれば年収1000万って本当なのかねえ?」


 礼音は首をひねった。


 オンラインサロンなどで「賢く稼いで年収数百万アップ」を謳っているのと、いったい何が違うのだろう。


「いや、思い込みで失敗してるんだよな、俺」


 と自虐する。


 【アルカン】は彼が生まれる前、【ゲート】と呼ばれる不思議な現象で地球とつながった異世界だ。


 当時は大騒ぎだったようだが、いまでは「一泊二日【アルカン】旅行」を楽しむ人がいるくらい一般的な存在になっている。


「……いまのままじゃどうせお先真っ暗だしなあ」


 思い切ってやってみようと彼は決断した。


「【アルカン】に行くらいならいいだろ。どうせタダだし」


 【アルカン】と往復できる【ゲート】は世界各地にあり、一律で利用料は無料となっている。


 とりあえず礼音は一泊分の着替えをリュックに入れて、さっそく【ゲート】に向かった。



「【ゲート】、初めて来たけど普通に街中にあるんだな」


 と彼はつぶやく。

 渋谷駅から徒歩五分というのは立地的にも悪くないだろう。


「人目があるほうが安心だったりするんですよ」


 にこやかに【ゲート】管理員の中年男性が答える。

 

「そうなんですね」


 公務員うらやましいなと思いながら礼音は返事をする。


「【ゲート】パスポートか、身分証明書の提示をお願いしますね」


 と中年男性が言う。


「原付の運転免許で」


 礼音が提示すると、男性は一枚の銀色のカードを渡す。


「五秒持っていてあなたの名前が表記されたら登録完了です」


 言われたとおりにして待っていると、彼の本名である「三日月礼音」が表記される。


「これが【ゲート】パスポートです。【アルカン】での身分証明書にもなっていて、持っていないと犯罪者扱いされるリスクがあるので気をつけてください」


「うへえ」


 中年男性の説明に礼音はげんなりする。

 不正入国者とかそういう扱いになるのだろう。


「【アルカン】から自力で帰れなくなったとしても、パスポートを持っていれば捜索が可能です。万が一のためにもお持ちください」


「それは大事ですね」


 発信機でも仕込まれてると思うといやな気分になるが、遭難したときの対策があるのは心強い。


 何しろ礼音が行くのは異世界なのだ。

 【ゲート】パスポートを財布の中に入れ、彼は門の前に立つ。


 黒い門はゆっくり開くと水色の光を放つ大きな空間が出現する。


「……何かファンタジーって感じだな」


 と礼音は思ったことを言った。

 特に向こうは何も見えないところが。


「初めて通る人はだいたいそう言いますね。見た目以外は普通ですよ」


 中年の男性職員は【ゲート】通過の経験者であるかのように言う。

 それに後押しされるように礼音は足を踏み入れた。


「……たしかに普通だったな」


 と見覚えがない、木造の建物だらけの場所に立った彼はつぶやく。


 異世界に行くのだからもっと何かあると思ったのだが、実際は自動ドアをくぐったような感覚だった。

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