目つきが悪いという理由で婚約破棄されてしまいました。目が大きくかわいい妹が私の代理で婚約者となったのですが、それはすべて仕組まれた茶番でした…
「すまない、リアーナ、君と婚約破棄したいんだが……ひ、ひい、怒らないでくれ睨まないで!」
「私、睨んでませんわ、驚いているだけです」
「そ、そうか」
私は殿下に婚約破棄を宣言されて、驚いていました。
目つきが悪い、それは親にさえも言われてきた私の顔の特徴。
目が鋭く、吊り上がっています。怒っていなくてもにらんでいなくても、人に何を怒っているの? 睨まないで! と言われて恐れられました。
ええ、標準でこれでした。
しかし王太子殿下の婚約者に選ばれ、これで行き遅れを出さないで済むと親が安堵していました。
年頃で、王家に益になりそうな家柄だけで選ばれたのは知っていましたが……。
しかし婚姻式の前で破棄とは。
「……破棄の理由はなんですの?」
「すまない、君のその目が怖い、睨まれているようだ、心臓に悪いと侍女や母上に言われ、外交問題になりそうだといわれ……」
「わかりました……」
ひい、怒らないでとまた言われました。違います悲しいだけです。
家に帰ると、こうなっては仕方ない、妹のエミリを代わりで婚約者にすることになったと父に告げられました。
エミリは、1年前にできたというか、父が使用人に手をだして作った子で、私とは半年違いの妹でした。
身寄りがないということで引き取ったのです。
私と違い目が大きくとてもかわいい子でした。
「……お姉さまごめんなさい、こんなことになるなんて……」
「いいえ、仕方ないことですから」
1年前に母が亡くなり、私はこの家の女主人として働いていました。
でも使用人が辞めていく理由が私が怒っているようだからという理由でした。
エミリは親せきの家にいったん養女にだして、両親とも貴族出身ということにするということです。
「私、この家に……」
「すまない、お前が婚約者になったので、跡取りとして養子を迎えることにしたんだ。相手はおま……」
「わかりました、出ていきます」
私みたいな目の女とは結婚して婿にはなれないと言っているのでしょう。
お姉さま怒ってます? と妹に聞かれました。泣かれます……。いつもこうでした。
「怒っていません」
よよと泣く妹、慰める父、私は怒っていませんが、いつも泣かれて……妹いじめの姉といううわさも婚約破棄に一役買ったようです。
私は荷物をまとめて出ていくことにしました。
もともと母が同じ顔で、父は政略だった母とは仲が悪く、私の顔を見るのは嫌そうでしたし。
私は家を出て、誰とも顔を合わせなくていい、町のすみで、得意の刺繍で生計を立てることにしたのですが……。
「……妹に子供がいた?」
「お嬢様、そうなのです。子供がもうお腹にいたので、あんな茶番でお嬢様を婚約破棄して、あの人があの人が……」
どうも父と妹、殿下がぐるになって、私の目つきが悪いという理由で婚約破棄をして、妹を後釜に据えたというのです。
私の乳母は、その企てを聞いてしまったので、辞めさせられてしまったけど、どうしても私にそれを言いたくて、訪ねてきてくれたのです。
「……目つきが悪いとはずっと言われてきたので仕方ないと思ってましたが……」
「みんなあの人たちがたくらんだことです!」
「許せませんわ……」
ふつふつと怒りがわいてきました。でも今の私ではあの人たちの不正をどうやって……。
「証拠としてとってあるものが……」
「乳母や?」
「私の愛しいお嬢様が、目つきが悪いなどと言われて……あんな目に合うのが許せなくて」
乳母やが懐から出した手紙は2通、1通は私の母、もう1通は父が書いたものでした。
「……1通は旦那様の書斎から見つけたものなのです。隠しておられたのですよ!」
「これは……」
「もう1通は、私が黙って持ち出したものです……。企ての証拠に」
「乳母やありがとう」
目つきが悪くても怒っているなどといわない唯一の人、私は泣きながらありがとうと抱き着きました。
そして私は婚姻式に妹のために刺繍をしたというヴェールを持っていくという理由ででることにしたのですが……。
「お姉さま、怒ってます?」
「怒っておりません、怒っていたらどうしてお祝いの品など持ってきます?」
大きな目で上目遣いで聞いてくる妹。私はヴェールを手に殿下と妹のいる場所に上がりました。
そのとたん、陛下がこの婚姻に異議あり! と唱えて、王妃様たちが異議あり! と続いたのです。
驚く二人、私は事前に彼らにあるものを見せていたのでした。
「エミリ・アルファイド。お前はレオナルド・アルファイドの本当の娘ではない! メアリ・アルファイドが依頼した調査でそれは判明済みだ。そしてお前たちが……親子と言っているが、そのあいじ……」
「愛人関係にあるということをメアリ・アルファイド、つまりお前の前妻が調べ上げていたという調査報告の手紙、そしてメアリ・アルファイドが毒殺されたということも訴えによりわかった!」
母は、父がエミリを娘として引き取りたいといったとき調査して、娘と騙って近づいてきたエミリにころっとやられた父が愛人関係になり、そして娘と違うと知りながら……引き取ろうとしたことを調べたのです。
母は……どちらかに殺されたのではないかと推測し、調べてもらいましたところ、ヒ素が見つかったのです。衣服に付着してたなんて気が付かなかった……。
そして、もう1通は、王太子殿下とエミリができてしまい、子供ができたので、どうにかしたいという書面で、父が隠していたものでした。
「そして、目つきが悪いなどという理由で、リアーナ・アルファイドと婚約破棄し、子供が腹にいるなどとうそをつき、エミリを婚約させようとしたその罪……」
実は妊娠などしていないというのはいやがる妹をたいしたことはしないから、と侍医に診察させてわかったことでした。
流産したといってごまかすつもりだったのかもしれませんが……。
これは父と殿下も知らなかったようで、すごく驚いていました。
陛下が罪状を告げると、ちっと舌打ちして逃げようとするエミリ、衛兵にとらわれ、父も一緒に捕まりました。
「罪状によりエミリは死罪、アルファイドは追って沙汰を待て!」
連れていけ! と陛下がいうと、衛兵が二人を引きずって行って。そして残された殿下に対して陛下は暫く謹慎だ! と告げます。
「すまなかったな、リアーナ嬢。愚かな企てに気が付かず、君をひどい目に合わせてしまった」
「いいえ、仕方ありません。でもあの父はどうなりますか?」
「そうだな、妻殺しがわかれば死罪だ……」
「わかりました……」
ろくでもない父でしたが、母を殺したかもしれないなんて……。泣く私を見て、皆が心配そうに見ていました……。
エミリがこの後、独断で母を殺したことがわかり、エミリは死罪、父は爵位を私に譲ることを条件に隠居、殿下は廃嫡となりました。
私は乳母やをそばにおいて、目つきが悪いと人に言われないように、努力しています。
しかしあれ以来、怒っているの? などと聞かれることはなくなりました。どうもエミリの言葉が呪縛のようになっていたのがあったみたいです。
でも目つきが悪いといわない良い人に巡り合えたので、今は幸せです。
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