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7 本当の悪人は

「さて、娘たちの様子は」


 地下に掘られた秘密の通路で男はふと足をとめた。そしてあたりを警戒するようにキョロキョロと見渡す。


「おかしい、今朝様子を見に来た時と何かが違う」


 野生の勘に近い何かを感じながら、それでも奥へと足早に進む。


「なに!」


 そしてもぬけの殻になっている牢獄を見て男は今度こそ本当に驚きの声をあげた。


「ネズミ小僧の奴は、金だけ盗むんじゃなかったのか」


 聞いてないと言わんがりにグッとこぶしを握り締めながら文句を吐く。その時男は背後に気配を感じハッと腰の刀を抜きながら反対側に飛びのいた。


「本当はここには用事はなかったんだけど、今回は可愛い子猫の頼みでね」


 いつからそこにいたのか、ここまで一方通行のはずの出口側に、目元だけ面で隠している男が立っていた。


「お前がネズミ小僧か!?」


 男の問いに、冷笑で答える。

 ギリリと殺気を放つ男を前に、すました様子でネズミ小僧が話を続ける。


「娘たちと子供たちはかえしてもらうよ。それと、この帳簿。これは偽物だね。本物と女たちの借用書はどこだい」

「いうわけないだろ」


 不敵に笑う。先ほど屋敷でやられていた部下たちは、みな麻酔のようなもので眠らされているだけのようだった。

 彼らが目を覚ましここに来るまで時間を稼ぐか、または、ジリジリと少しづつ男は壁際に下がる。


 ネズミ小僧は出口を塞いでいるつもりだろうが、こんなこともあろうかと、実は外に出れる隠し通路がもう一か所あるのだ、もし飛び掛かってきたら、罠を発動してその間に自分はそこから逃げ出せば済むことだ、そして二か所の出入り口をふさいでしまえばネズミ小僧はまさに袋のネズミ。


「それは困った」


 お手上げというように、ネズミ小僧が肩をすくめる。


 刹那。ドクンと男の心臓が突然悲鳴を上げた。


「貴様何をした」

「ちょっと毒を入れただけさ」


 ネズミ小僧が自分の首元を指しながらニヤリと笑う。そして男はそこに小さな針が刺さっていることに初めて気がついた。


「殺人はしないんじゃなかったのか」


 どうせこれも麻酔針なのだろうと、くらくらする頭で威嚇する。


「ネズミ小僧はしないさ。でも女・子供を助けるのはネコ娘の仕事だろ。ここで死体が見つかれば、役人たちはどちらの仕業だと思うかな」

「何を言っているんだ……?」

「今回、協力してるんだよ。外の役人を引き連れて走り待っているのは彼女だよ」


 ニコニコと話している間にも、男の心臓は早鐘の様に早く打ち出し、呼吸も荒くなっていく。


「仲間に罪をかぶせるのか」


 さんざん人に悪事を働いている口が、仲間を語る。

 毒なんて嘘何だろうと言わんばかりに、ネズミ小僧を睨みつけた。


「仲間?」


 その瞬間ニタリと、本当に楽しそうに笑うネズミ小僧の顔を見た。

 思わず男もゾッとする。仮面をつけていてもその瞳に浮かぶものが残忍で残酷なものだとわかったからだ。


「あっしは、自分を過信するものや己の信念を疑わない真っすぐな瞳が、絶望と屈辱で歪むのを見るのが好きなんですよ」


 何を言っているのかという目で男はネズミ小僧を見詰める。


「いままでたまたま悪い奴に気が強い者が多かっただけで、あっしはその顔が見れるなら、本当に誰がどうなろうと構わないって思ってるんです」


 まともの頭を動かすことすら辛くなってきた男は、ただ、この目の前の男が、世間一般が騒いでいるような、善行で動いている人物ではないということだけが、肌で分かった。

 そんなことを考えている間にも、心臓に杭が撃ち込まれるような痛みが走る。

 

(これは麻酔なんかじゃ絶対にない)


 恐怖が男の顔にはっきりと浮かぶと、ネズミ小僧が心底嬉しそうにブルリと体を震わせて悦に入った表情を浮かべた。


「あぁ、いい表情だ」


 それから少し困ったように言葉を続ける。


「あっしの仕事は蔵にあったこの宝石を盗み出した時点で成功なんです、本当言うと、今はネコさんの信頼を得るかどうしようか迷い中なんです」

 

 ネズミ小僧が言わんとしていることがだんだんわかって来る。

 本当にネズミ小僧にとって男が死のうが死ぬまいが関係ないのだ。それによって世間からなんと言われようとも。

 寧ろネズミ小僧の言うように、ネコ娘に罪を擦り付け、その顔をみたいという気持ちこそ本当なのかも知れない。


「解毒剤はあるのか」


 ぜいぜいとそう訊ねる。


「まぁ、できればあっしもまたネコさんと遊びたいんで、罪を擦り付けるより、旦那に生きてもらってた方がいいですかね」


 友達に相談するように話しかけながら、懐から薬瓶を覗かせる。


「帳簿の、ありかは話す──、だから……よこせ──」

「話すのが先ですよ。早く話さないとろれつが回らなくなりますよ。旦那」


 すでに立っていられず四つん這いになり顔を伏せる男の、苦しむ姿を楽しむかのように、ネズミ小僧は男の顔を持ち上げてそう言った。


 すでに、うまく舌がまわらない。それでも男は必死に帳簿のありかを話した。


「──だ。…………」


 ニヤリと笑うネズミ小僧、男が震えながらネズミ小僧の懐に手を伸ばしたがその手は何もつかめず宙を切った。


「あぁ、間に合わなかったか……」


 無駄話はするものじゃないね。ネズミ小僧は地面に倒れている男をひょいと担ぎ上げると、女たちが閉じ込められていた牢に放り込んだ。


「まぁだいたいの場所はわかったし。どうにかなるだろ」


 牢の中でうぅと微かにうめき声をあげた男を一瞥すると。


「そこで朝まで反省してな。死ぬほど苦しいが死にはしませんよ。しかし、やっぱり男の泣き顔よりは……」


 真っすぐで力強いまるで夜空のような瞳を思い浮かべる。


「全て片付いたら、いやな顔をしながらそれでも礼をいってくれるかな」


 その光景を思い浮かべてうっとりと頬を赤らめた。

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