6 賭博場の主
「くそ! 何がどうなってるんだ」
安久田から賭博所の管理を預かっている男は、奥座敷から飛んでくるとそう叫んだ。
賭博場の主とは似つかわしくない、ひょろりとした体形の色白の男である。
屋敷の周りにいた大勢の役人たちはいつのまにか半数以上がいなくなり。気がつけば屋敷の中は煙で少し先も見えない状態。
ようやく、煙が晴れたと思ったら、そこにはスヤスヤと眠る部下たちや呻きながらうずくまる用心棒たちがあちらこちらに転がっていた。
「ネズミ小僧はどうした? 蔵は無事か!?」
着物の袖で口を押えながら、倒れている部下の一人に詰め寄る。
蔵の入り口を守っていたはずの男たちは、それぞれ違う場所で倒れている。そして蔵の扉もすでに開錠されて、中は引っ掻き回された後だった。
「ネズミ小僧め」
しかし男は怒りを爆発させるかと思いきやニヤリとほくそ笑む。
「ふん。予告状なんてだすから」
すでに大切な帳簿は違う場所に移動させてある。蔵にしまわれている書類は全て偽物と変えておいたのだ。
「町の奴らには義賊とか言われているようだが、これでネズミ小僧の醜聞も広がるだろう」
賭博場とはいえ、ここは国の大名である安久田から正式に認可が下りている場所である、世間から見たら、ここは国が運営している至極まっとうな賭博場なのだ。
真っ当な場所から金銀財宝を賭博場というだけで盗んだのだ。
今までは悪い奴らから、奪い返したと言わんばかりだったが今回はそうはいかないだろう。
それに、蔵に置いておいた金も大した額ではない。宝石類も見た目は綺麗だが価値はほとんどないようなくずみたいな石ばかりだった
(そんなもの明日女、子供を売り渡して得られるものからしたらはしたものだ)
役人たちも今回の失態で、ネズミ小僧探しに躍起になるだろう。
善良な賭博場だとわかれば、役人を配置したにも関わらずネズミ小僧にしてやられたのだ、盗まれた金銀財宝と同じぐらいの金を国から見舞金として受け取ることも可能だろう。
役人たちの目がネズミ小僧に向いている間に自分たちは借金のかたに連れてきた女や、町でさらった子供を異国に売り払ってしまえばいいのだ。
クックックッと男は小さく笑った。