15 母からの電話
15 母からの電話
アパートにいる時、フルタのスマホに電話がかかってきた。
「あんた、きちんと会社にいっているかね?」
「毎日きちんと行っているよ。突然どうしたんね」
「近所の人たちが、おまえがインターネットにしょっちゅう出てきちょるって、教えてくれたんよ。何か悪いことしちょらんね」
「何も悪いことしていないよ。それ、おれじゃなく、タローっていう奴なんだ。おれにそっくりで、おれも迷惑しているんだ」
「そのタローちゅうのがおまえにそっくりじゃから、おまえがタローを名乗って何か悪いことをしているんじゃないかと、とうちゃんと一緒に心配しちょるんじゃがね」
「大丈夫。何も悪いことしてないから。毎日きちんと働いちょるから」
「そう言えば、この前も自分に双子はいるかって、変なこと聞いてきたことがあるね。
それとタローとなんか関係があるのかね」
「いや、別に何もないから。心配せんでもええから」
「地道に生きんにゃいけんからね。目立っちゃあいけんよ。ろくなことがないからね。出る杭は打たれるちゅうからね。我が家の顔はみんな平凡なんじゃから」
「わかったから、変な心配しなくてもいいから。電話切るからね」
「まあ、そんなに急がんでもええじゃろう。いま何しちょるん?」
「晩飯、作っとるんよ」
クララが「できたわよ」と声をかけた。
「いま声がしたけど、あんた誰かと一緒に暮らしちょるんかね」
「いや、テレビの声じゃないかね」
クララが再び「食べましょう」と声をかけた。
「やっぱり女の人の声が聞こえたよ。いったい、誰なんね」
「いや、ただのルームメートだから」
「彼女じゃないんかいね。一緒に暮らしちょるんじゃろう」
「うん、一緒に暮らしているけど、別に彼女じゃないから」
クララが声をかける。
「早く食べないと冷えますよ。誰と話しているの」
「おふくろ」
クララはフルタからスマホを取り上げた。
「フルタさんのお母様でいらっしゃいますか。わたくしサクライクララと申します」
「いえ、こちらカズキの母です。いつもお世話になっております」
「いえ、こちらこそフルタさんには大変お世話になっております」
「カズキとは一緒に暮らしているんですか」
「はい、一年くらいになりますか」
「えっ、一年も」
「お母様に、ご挨拶が遅れて大変申し訳ありませんでした。いずれご挨拶にお伺いしたいと考えていたところです」
「ご丁寧にどうも。カズキの事くれぐれもよろしくお願い致します。なんのとりえもない地味な男ですが、間違ったことはしないと思います」
「はい、とても良い方ですね。お母様も、お元気で」
クララは電話を切った。
つづく




