この世界では合同クエスト達成コンパを合コンといいます。~その後~
考えてもみてほしい。
ネガティブで、コミュニケーション能力低くて、ついでに笑うと歯茎まで出てしまう私が、お嫁さんになれるわけがない。
だから目の前にいるこの男は、きっと詐欺でも働こうとしているのだ。
「俺と、結婚してください」
いいだろう、その誘いに乗ってやろう。
絶対に騙されない私と夫婦ごっこを演じて、五十人、いや六十人くらい騙すのに使えた時間を無駄にしたと嘆くがいい。
「いいですよ」
私は合同クエスト達成コンパ、いわゆる『合コン』で知り合った男と、この日夫婦になった。
------
そして数年後、久々のデートに誘われて今に至る。
「あそこで絵本でも買っていこうか」
「いいですよ」
ついでに初級魔術書を買い与えて、あの子を魔術師に育てるつもりか。
私も幼い頃、父から将来は魔術師になって農家で役に立てとよく言われたものだ。
その厳しい特訓も農家に一生を捧げるのも嫌で嫌で仕方がなかった。
我が子にはそんな思いはさせない。
会計に行く前に魔術に関連する本は棚に戻してやろう。
大体魔術書は初級であったとしても値段が絵本の倍もする。
たとえ買う余裕があったとしても、世の中何が起こるか分からないのだから節約するに越したことはない。
「そういえば、この間お義父さんから野菜が沢山届いていたね」
「そうでしたね」
「お返しは何がいいかな」
「いらないですよ」
大人しく聞いていれば、よもや父と結託して農家で役立つ魔術師に育て上げるつもりか。
残念ながらお前が魔王の残党を退治しに行っている間、私の教育は着々と進んでいる。
枕元で剣士の心得を読み聞かせ、起きればリズミカルな音楽にのせてヒノキの棒を振る遊びを教えた。
お散歩にダンジョンへ連れていけばスライム五体をスラッシュ斬りで倒していたし、やはりうちの子は剣士としての才がある。
うち一体は棒に炎を纏わせて倒していた気がするが、きっと気のせいだろう。
「あと、ギルドの皆にもお土産買っていかなきゃ」
「それは必要ですね」
彼らもお休みだというのに、ほぼ一日あの子の面倒を見てもらっているのだ。
この街で一番人気のスイーツを買っていくに値する。
いや待てよ。
魔王の残党も魔物も少ないから、今日ほど長く見てもらうことはなかったにしろ、ここ最近割と頻繁に預かってもらっている気がする。
それなのに今日に限ってお土産を買っていこうとは、これはもしや嵌められたのではないだろうか。
ギルドの魔術師がコイツしかいないので油断していたが、外部から有能な魔術師を雇い、私をデートに誘って遠ざけ、こっそり猛特訓させるための作戦だとしたら。
「騙しましたね」
「え、急にどうしたの?」
「あの子をこっそり魔術師に育て上げるつもりですね」
「ああ、今日のデートをそういう風に考えたわけか」
転移アイテムを出す前に動きを止める魔法をかけるとは、いつも先手ばかりで卑怯な奴だ。
しかも『そういう風』とはどういう風だ。
まだ企みが隠されているのに気付けないなんて本当剣士って脳筋プークスとでも言いたいのか。
今日の夕飯は、ゆで卵一個にしてやる。
「たしかに女の子だから傷をつくってほしくないと思う」
はい、見事に女剣士全否定。
接近戦ばかりで傷が絶えない嫁の職業をディスるとは良い度胸だ。
今日の夕飯は塩ひとつまみに変更だ。
「でも流れるように剣をふるう君の姿は、いつ見ても恰好良いと思うよ」
今更どうおだてようが、夕飯が塩から肉にグレードアップすることはない。
しかし、握り飯ぐらいにしてやってもいいかもしれない。
「あの子が望むなら、剣士を目指したっていい」
デミグラス煮込みボアハンバーグ、ハーピィの卵を添えて。
「ただ自分一人でも戦えるように魔法も最低限覚えて、魔法剣士になってくれたら嬉しいな」
「魔法、剣士」
「もちろん、他の職業になってもいいんだけどね」
剣士か、魔術師かのどちらかしかないと考えていた。
二つを掛け合わせるなんて、思いもしなかった。
「今日はね、十年前に君と初めて出会った記念のデートがしたかったんだ」
そうだ、今日だった。
合同クエストで共に戦い、その打ち上げコンパで私たちは出会った。
「信じてくれる?」
ずっとずっと疑ってばかりの私に、私の隣にいてくれた。
何が心配なのか、それを解きほぐすためにはどうしたらいいか、考えてくれた。
「いいですよ」
今日ぐらいは、少し信じてやってもいいかもしれない。
私たちが合コンで出会った、今日ぐらいは。
読んでくださってありがとうございます!
最後に「のちに・・・」「なお・・・」を入れようか迷いましたが、もう最後はいらんかなと。
まあ、二人の子供はこの後しっかり上級魔法剣士になります。
さらに勇者ギルドの面々(弓使い/槍使い/魔物使い)も知識と技術をこっそり叩き込んでいたので、割とマルチに育ちます。
ただ皆がスパルタ教育すぎて平和に静かに暮らしたい欲求が強そうです。