黒蛇は強い
「これで後は薬を手分けして投与していけばいいだけか」
「これが薬だ。お前らも飲んでおけよ」
「僕たちも飲んでいいのかい?」
「当たり前だろ。お前の頭はクレートか?これから感染しに行くようなもんだろ。効くかどうかは分からないけど飲んでおけ」
薬は半固形状のどろどろとした物で一種類で肝臓、血に効果があるらしい。木で作られた水筒四本になみなみ入れられた薬をそれぞれシーフ、エナベル、ヘルメス、坊が持ち治療を開始した。一人当たりの量は決まっていてそれ専用の小さなおちょこに注ぎ患者に飲ませて行く。エナと坊には健康な人を担当して貰い、シーフとヘルメスは症状が出ている村人を担当した。
「おい、起きろ」
「……ん。あら、シーフじゃない。駄目よ、ここに居たらシーフまで感染っちゃうわ」
「俺は薬飲んでるから良いんだよ。それより薬、出来たから。ほら」
もう自力では起き上がる事も厳しいケイアの身体を支え薬を飲ませる。
「皆は大丈夫?」
「あー俺とヘルメスが今、病人に投与して回ってんだ。次第に治るさ」
「……それならヘルメス君に来てほしかった」
「そんな事言う元気があるなら大丈夫そうだな。しっかり寝とけよ」
「冗談よ。ありがとうシーフ」
そう言うとケイアはまた瞼を閉じた。
「こいつ、ヘルメスが好きだったのか……?」
いいネタが出来たと心の中でほくそ笑んだのも束の間。ヘルメスのニヤついた顔が脳裏に浮かびフラストレーションを少し貯めるのだった。
村人全員の治療を終えると集合場所に決めていたシーフらが借りている家屋に集まる。
「全員分終わったか?」
「僕は足りたよ」
「量的な問題は無い筈だぞ。しっかり計算したからな」
「そりゃ助かったよ。それでどのくらいで効果は出るんだ?」
「一日寝たら治ってる。これが効けばだけどな。だから今日のところはやる事は終わった。お前ら明日も症状の確認があるから早めに寝とけよ」
そう言うと坊は家屋から出て行った。本当に報告するだけだった。
「良くなると良いね」
「きっと上手くいくのじゃ」
次の日、起きて直ぐにヘルメスを叩き起こし患者たちの様子を見に行く。どの患者も顔色が良くなり症状は軽くなっている様だった。ただ、流石に一日で完治とはいかず食料を狩って来るついでに黒蛇の心臓を追加で集めてくる事になった。
「また、黒蛇かい……」
ヘルメスが嫌そうな顔をして呟く。場所は村の外、いつもの山脈へと来ていた。
「多分一回じゃ心もとないと思うんだよな」
「薬の事は良く分からないから何とも言えないけど必要なら狩るしかないね」
「分かってるじゃねぇか。それに今回は前知識があるから前回よりは狩りやすいだろ」
──余計な事を言ったと自分でも自覚している。
「言ってる事が違うじゃないか!」
「うるせぇな!仕方ねぇだろ!」
シーフとヘルメスは今日分の食料を狩る前に黒蛇を捜索しようという話になった。日が落ちても食料になる動物狩る事は簡単だが、黒蛇に関しては暗くなると戦闘を行うのは厳しいからだ。その為、最初に黒蛇の巣穴を捜し歩いていると案外早く痕跡を見つける事が出来た。そしてその穴に石を投げ込み挑発すると穴の中から三匹の黒蛇が現れたのだ。
「群れるなんて情報あったかい⁉」
「知らねぇよ!後二匹なんだからとっとと殺すぞ」
前回と同じく一匹目は魔力障壁を使いヘルメスがトドメを指すといった形を取り討伐した。その要領で二匹目も狙いに行ったが一匹目で警戒されたらしく連携を組み始めた。
「やりづれぇ……」
「食用でもないしね」
そう、毒を吐く事を得意技とする黒蛇はその身体にも毒を持つ。有効活用出来るのは心臓だけという訳なのである。
「よし、一匹は俺が殺すからもう一匹はお前が何とかしろ」
「そんな事言われて出来るとでも⁉そもそもそれが出来るなら苦労しないよ……」
「分かった。俺が先ず全力で一匹殺すから同時にもう一匹は任せたぞ」
「聞いてたかい⁉」
「よし、行くぞ」
シーフは腕輪に流し込む魔力を止め、全身に行き渡るように調節する。それから体外魔力と交換を始め身体能力を最大まで上げ黒蛇へと目にも止まらぬ速さでその距離を縮め紅喰刀の力で分身を作り出す。目標の黒蛇はその分身へと毒を吐き掛ける。ただ、そこに本物シーフは居ない。毒を吐いた一瞬の隙に脳髄を冥喰刀で突き刺しトドメを指す。しかし紅喰刀で騙せる相手は対象一匹だけ、もう片方の黒蛇はシーフの姿を確実に捉え今にも毒を噴射しようと構えていた。
「──ぎりっぎり!」
身体を空中で強引に捻り黒蛇の死角からヘルメスは人切を一閃に振り切る。その刀は黒蛇の大きく開いた口を真横に切り裂き頭上部を黒蛇から別れされる。半分頭が無くなった黒蛇は静かに生命活動を終え森にその巨体が崩れ落ちる音を鳴り響かせた。




