原因
「急にどうしたんだい?」
「引っ掛かりが解けたんだよ。ケイアは誰から病気を貰って来た?」
「それはここの住民だろ?」
「じゃあ、その住民は?」
「それは村人の誰かからだろ?何が言いたいんだい?」
「じゃあ、一番最初に病気に罹った奴はどこから貰って来たんだよ」
「それは……」
ヘルメスは言葉に詰まりエナベルは話を聞いていない。少し考えたところでヘルメスは答えを出す。
「食料倉が関係あるのかい?腐ってた物を食べていたとか」
「食料倉に関しては多分当たりだな。返しが壊れてたって言ったよな?そこから病気の原因が入って来たと思う」
「それならそれを食べた人が感染したって事か。それって僕たちも危ないんじゃ無いのかい?」
「ヘルメスが食っとったのは儂らの持ち物じゃぞ?」
「寝坊してるからそんな事も分かんねぇんだよな」
「そうじゃの~」
「分かってるよ……それでじゃあ食料倉にある物全部駄目って事で良いのかい?」
「良くはねぇけど合ってるよ。だから今から全処分するしかねぇな。倉の中に原因の小動物がいる可能性もあるから気を付けろよ。噛まれたら一発で感染する」
「それ、儂も行かなきゃ駄目かの……」
幼女の手も借りたいところだが食料倉に連れて行くのは些か危険がある。剣も魔法も使えない幼女には他の仕事を任せる事にしてシーフはヘルメスを連れて食料倉に向かった。食料倉の辺りには誰も居らず中への侵入は簡単なものだった。
「事後報告で大丈夫だったのかい?」
「事前にエナに説明しに言って貰ってんだろ」
「同時だと思うんだけど……何なら僕たちの方が早い可能性もあるよ」
「エナがめんどくさがって言ってない可能性もあるな」
「……ほんとだよ」
「まぁ、そうは言ってもこいつは急いだ方がいいからな。病気を治せたとしても原因が消えなかったら無限ループだぜ?薬が完成する前にとっととやらなきゃな」
「僕はシーフ君を信じるけど村人は急に食料を処分されたら怒らないかい?」
「だからごねられる前にやってんだろ。後で、食料は補充するとか言っとけば何とかなるって」
「それは、どうなんだろうね」
実際、食料が足りない状況で食料を処分するなんて真面目に言っても相手にされないはずだ。例えそれが病気の原因だとしても。この世界には細菌、ウイルスの概念は存在しない。存在しない訳では無く認知されていないだけだがここでは大差ないだろう。腐る訳でも無く菌が付着しただけの食料の見た目は他の食料と比べて分かる物では無い。
「思ったよりあるじゃねぇか」
「そうかい?この量なら一、二週間くらいしか持たないよ」
「案外、消費するんだな。こりゃ骨が折れるぜ」
食料倉内の食料を外へと運び出す作業をひたすらに続ける。本来なら直ぐに燃やすのが一番いい手段だが生憎シーフとヘルメスは無の加護の者。魔法を使う事は出来ない。後から、誰かに燃やす作業を任せるとして今は中の物を運び出す事に集中していた。半分以上の食料を運び出したところで今回の原因となったであろう小動物が姿を現した。
「ネームじゃないか」
「触るなよ」
そのネームと呼ばれる鼠に追加で足を増やした様な姿の小動物を見てシーフが忠告する。
「こいつが原因、なんだよね?」
「恐らくな」
「そうは見えないよね。殺すかい?」
「取り合えずそうしてくれ。後から焼かなきゃ行けねぇけどな」
その後もネームは数匹見つかり、その都度殺していった。食料に噛み後がある物も存在し確実に汚染されているだろう。食料を全て外へと運搬し終え、小休憩をしているとエナと坊とタリート婆さんがやって来た。
「おー薬出来たのか?」
「ああ、完成したよ。だけどこれはどういう事なんだ。婆さんが急に相談しに来て飛んで来たんだぞ」
「エナ、ちゃんと伝えたのか?」
「勿論じゃ。食料を全部処分するんじゃろ?」
案の定、正確に情報が伝わる事は無かったようだ。
「急にどういう事なんだ。何か理由があるんだろ?」
「儂らの半数は床に臥せておる。食料もぎりぎりなんじゃがそれ相応の訳があるのじゃな」
どうやら聞く耳を持ってはいる様だ。てっきり村を出ていけと言われるのでは無いかと身構えていたが。これもケイアの甲斐甲斐しい治療のおかげだろうか。
「まぁ、そういう事だ。病気の原因がこの食料だからこれは全部処分する。それだけ」
「僕たちがこの分は狩って来るからそれで納得して貰えるかな?」
「食料が原因だったのか」
「すんなり信じてくれるんだな」
「儂らをだまして良い事なんて無いからの。それにその分の補填もして貰えるとなれば文句なんて出る訳が無いじゃろ」
なんて感じで丸く収まってしまった。これなら補填するなんて言わなくても大丈夫だったかも知れない。
「そうそう、後これの処分だけど完全に燃やしたいんだけど誰か火魔法を使える奴知ってるか?」
「それなら僕が使える。生活程度の魔法だけど食料を燃やす事くらいなら出来るぞ」
「マジかよ。坊でも使えるのか……」
「ふん、この程度の魔法も使えないのか。僕以下じゃないか」
ドヤ顔で坊は指先から火の粉を発生させる。それはふらふらと積み上げられた食料へと向かって行き、食料に到達した瞬間大きな火柱を上げ食料を炭へと変えた。