食料倉
「案外時間が掛かったの~」
「そりゃあ黒蛇があんな化け物とは知らんかったからな」
横目で情報を教えなかった坊を睨む。
「……僕は知らなかったからな。僕の知識は経験からじゃない、本からだからね」
「ほんとかよ。まぁ、取り合えず黒蛇の心臓は取って来たぜ。あんな図体してこんな小せぇんだな」
「だから貴重なんだ」
「じゃあ図体がでっけぇ事は知ってたんだな?」
「……うっ。でも僕は大きな穴倉に住むって伝えたからな。それで分からない方がどうかしてるさ」
言い訳として確かに悪くない。こちらの常識では大きな穴倉に居ると言われたら大きい蛇を想像するのだろう。前世の知識があるから蛇は小さいなどと考えてしまったのだ。こちらにも非はある……ならばヘルメスは何故気付かないのだという話だが。
「これで足りるのか?」
シーフは手のひらサイズの黒蛇の心臓を眺め坊に質問を投げかける。よくこんな小さな心臓で巨体を動かしていたものだ。大きな身体を動かすには大きな心臓が必要だと思っていたが不思議なものだ。
「もう一回取りに行けとかは嫌だぜ?」
いや、これだけあれば百人分は作れるはずだ。早速作って見るからどっか行っててくれ。完成したら呼ぶから」
そう言って坊は自分の家屋へ消えて行った。もう出来る事はやり、暇になったシーフらは借り受けている家屋へと戻って来た。
「みんな治るかな」
「どうだろうな。俺の考えが的外れだったらさっきまでの時間は全部無駄になるし振り出しだ。俺らも感染してるかも知れないしな」
「そうじゃの。そしたら儂らも坊から薬を貰うしかないの~」
「でも、僕たちはケイアさんくらいしか会ってないしシーフ君は直接会ったけど僕とエナベルちゃんは顔も見て無いし罹ってるとは思えないけどね」
「確かにずっと引き籠ってたし村人から感染するなんて事もねぇしな」
ここで改めてケイアの初動が効いて来る。あの時、皆で手分けして看病をしていたら共倒れだっただろう。一人を犠牲に、なんて言い方は好みでは無いが結果としてそれが功を奏した。
「それにしてもこんな厄介な病気が流行ったら大変だね。ここは王都からも近いだろ?」
「幸い閉鎖的な村だったから王都にまで病気が流れて行く事も無いだろ。でも、発症が王都とかだったら数万人は死んでたかもしれないな」
「そんな病気なのかい?」
「俺が知ってるやつだとな。昔は人口を大幅に減らしたとかなんだとか。衛生管理が杜撰な頃だから仕方ねぇんだけどな」
「そうだったのか。僕たちがこの瞬間にこの村に居た事は意味があったんだね」
意味などと言われるとそこまで役に立って居るとは思えないが突っ込む程でも無いと思い口を閉じた。
「儂らはいつまで待機しとればいいんじゃろうな」
「薬が出来るまでじゃないかな?」
「んなこたぁ、分かってんだろ。精々一、二時間じゃねぇか?個々の住人の全員分って言ってもそんな量にはならないだろ」
「長いの~」
「直ぐに忙しくなるさ。薬の投与は僕たちも手伝った方がいいだろうしね」
「なぁ、なんか忘れてねぇか……?」
シーフは少し前から何かが脳内に引っ掛かりもやもやしていた。もう少しで出てきそうだが喉のすぐそこで留まる異物感。頭では焦りが生まれ今にも行動をしなければならないと叫ぶが何をすればいいか分からない焦燥感。気持ち悪いこの感覚の正体を暴く為に仲間に問い掛ける。
「なんか見落としてるってか。今すぐやらなきゃ、的な事がさ」
「んー僕には心当たりが無いな。エナベルちゃんは?」
「儂も特にないのじゃ。じゃが、この時間を潰す事は出来そうじゃな」
「まぁ、そうだよな。なんだろう、薬が出来るのが遅くてそわそわしてんのか……?」
「それもあるんじゃないかな。僕たちには薬を作る事は出来ないしケイアさんみたいに回復魔法を使う事も出来ないしね。もどかしい気持ちは僕も同じだよ」
そこまで高尚な人間な自身は無いのだが、案外深層心理では善人の心が渦巻いているのだろうか。
「まぁ、この何も手に着かない感じは嫌じゃの。楽しむ事も出来ず心配する事しか出来ず、その原因を解消する事も儂らじゃ出来んからの。ヘルメスの言う事も少しは分かるの」
「そうなのか、そうだな。今は待つくらいしか出来ねぇもんな」
「そうだよ。今は体力を温存しておこう。薬が出来たら忙しくなるからね。村人が半分以上も倒れてるんだ。この前、食料倉を見に行ったら食料も少なくなっていたし解呪の前に狩りとかも手伝った方がいいだろう」
「備蓄もそんなには無いか。恩を売るのは悪い事じゃねぇしな」
「こら、そんな言い方しちゃ駄目だろ。シーフ君はもっと人の心を持つべきだよ」
「それにしてもヘルメスはいつ食料倉なんて見に行ったのじゃ?儂らより寝てた筈じゃったろ」
「僕は起きるのが少し遅かったけど外に出てたりもしてたからね。外の様子は君たちより知ってるよ。食料倉が壊れてて直したんだけど、その時備蓄が少ない事も知ったんだ」
「器用だよなぁ」
「いや、そんな大変な作業じゃ無かったよ。返しを直しただけだから」
「返しかの?」
「……」
「うん、食料倉に小動物とか魔物が入らない様に柱に付けるんだよ」
「なるほどの~。儂の故郷には無かったのじゃ」
「……」
「どうしたんだい?シーフ君、そんな考え込んで──」
「分かったぞ!やっと出て来た!おい、ヘルメス。エナも今から外行く準備しろ」
何かが分かったシーフは勢いよく立ち上がり二人の手を取り引っ張り上げた。




