薬の材料
「大丈夫なのかー」
「あら、来てくれたの。悪いわね、寝たままで」
ケイアは簡易的なベットの上で寝ていた。村人を治療するに当たって拠点にしていた家屋だったらしく家具などは特になく、ただ仮眠を取る用の部屋だった。
「私も寝てれば治ると思うから。感染したら悪いし看病はいらないわ」
「ほんとに大丈夫なのか?」
「ええ、医者が病気に罹ってちゃ世話無いわね。病人食はあるし少ししたら回復すると思うからあなた達はゆっくりしてて」
「何かあったらすぐ呼べよ?」
「分かったわ。ありがとう。でも、回復魔法掛けて病人食食べさせて寝かせたのに治らないなんて何が悪かったのかしら」
「そこら辺は俺らで考えとくからゆっくりしてな」
少しの会話を交わしシーフは部屋を出た。
「どうじゃった?」
「大丈夫そうだったかい?」
心配そうな顔をしてヘルメスとエナベルが出迎える。
「元気は無かったけど普通に会話は出来た。本人はすぐ治るって言ってたけど。違うんだろ?」
「風邪かどうかなら違うと言い切れるね。僕は回復術士以外の病人も見ているんだ。彼女はまだ風邪と変わらない症状だが、早期に病気に罹った人は腫れが出来たり肌の色が悪くなって来たりしている」
「そんなの風邪じゃねぇな」
「それだけの知識があるなら何か手掛かりは無いのかい?」
「あったら僕が自分で解決してるね。分からないからお前らと居るんだ」
「って言われてもなぁ。こっちは本職でもねぇしなんも分からねぇよ」
只でさえ自分の記憶も無いのだ。病気の事なんて分かる筈が無い。風邪の症状で腫れたり肌が変色するなんて……いや、聞いた事がある。前世の世界で中世かそこらで大流行し多数の死者を出した病気。それに症状が酷似している。だが、それについての知識なんて微々たるものしかない。その病気をどのような薬で治すかなんて知る由も無いのだ。
「似たような病気は知ってるんだけどな。それの治し方も薬も分からねぇ」
「なんだって?知ってるのか!」
「だから、その症状を知ってるだけだって。確か肝臓とか脾臓に悪さして死んじゃうって奴だよ。臓器の名前言っても分からねぇか」
「……いや、分かる。それは本当なのか?肝臓と脾臓なんだよな」
「覚えてねぇけど確かな」
「それなら……もしかしたら……あれを……飲ませれば……」
一人でぶつぶつと小声で何かを呟きながら思案する。暫くすると考えが纏まった様で顔を上げ持論を展開し始めた。
「酒を飲み続けて死んだ奴の身体を解剖すると肝臓が肥大している事がある。それを食い止めるのに使うのがライサミの花弁だ。どんな飲んだくれでもライサミの花弁を食べている奴は死んだ後の解剖でも肝臓が綺麗だった事が分かっている。今回の原因が肝臓にあるならそれで治る筈だ」
坊の考えは恐らく現状では有力な手段だろう。だが、シーフのあやふやな知識が合ってるとも限らない。一同は答えが出た後でも悩み続ける。
「それは分かった。でも確か、それだけじゃない気がする。なんか全身に効く草とかねぇのか?」
「そんなものあったら世界から消えてるね」
「ちっ、だよな」
「確か皮膚が変色してるんだよね。皮膚に効くのは何かないのかい?」
「いや、ヘルメス。皮膚は多分、原因が皮膚じゃ無かった気がする。血で菌が全身に回っちまうとかだったか?」
「血か……血液を浄化する効果ならある」
「ほんとか?」
「でも、素材が黒蛇の心臓だ」
「どんな奴だよ。その黒蛇とやらは」
「体長が僕の十倍はある様な巨大な蛇だね。とてもじゃないがお前らや僕じゃ狩る事は出来ない」
「そいつはここらに居るのか?」
「山にならどこにでも。大きな穴倉の中にいるらしいね」
「なら決まりだ。俺とヘルメスで取って来る。エナはもう一個の方頼めるか?」
「仕方ないの~こ奴を連れて行って取って来るとするのじゃ」
善は急げと言わんばかりの展開の早さで二手に別れて採集を始める。非戦闘員のエナと坊にはライサミの花弁を戦闘員のシーフとヘルメスは黒蛇の心臓を。村の入り口を坊に開けて貰い一行は目的の物を集める為に駆けて行った。




