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病気と怪我

「でも、転生者ってのは不思議な話だね。僕も聞いた事が無いよ」

「朝一の会話がそれかよ」

「もう昼じゃしな」


 相変わらずの寝坊をかましたヘルメスは起き抜けにそんな事を言ってきた。そう言えばその話を未だしていない。一番、説明しなければいけないところだろう。


「皆が寝てから、俺は転生者で。って何の事だろうってずっと考えてたんだ。どこの時代から来たんだい?」


 ヘルメスに言われてみてハッとした。転生なんて聞くと異世界転移がパッと思いつくが転生とは生まれ変わる事だ。当然、この世界の中の話だと思うだろう。そうなればどの時代から来たのか。いい所を突く。


「そうだな。時代は分からねぇ」

「分からないのかい?」

「あぁ、この世界出身じゃないからな。これを理解しようとするのは大変だから端折るけど、こことは違う世界で生まれて死んでこの世界に生まれたんだ」

「だから妙に大人っぽいのか、納得したよ。普通その年齢ならエナベルちゃんみたいな感じだよ」

「儂は大人じゃけどな」

「でも、生前。前世の記憶は一切無いんだ。いや、前世の知識はあるのか。それもこの世界じゃ微妙に違ってたりするけどな」

「記憶が無いのか。じゃあ今のシーフ君はシーフ君なんだね、良かった」

「なんだよ、それ」


 前世の知識で役に立ったのはトランプがいいところだろう。それもその筈、植生から動植物まで何から何まで違うのだ。現にこの村で起きている病気の原因だって地球のウイルスとは違う物が原因かも知れない。いくら知識があっても土壌がこれじゃあ話にならない。


「いつか思い出せればいいんだけどな」

「そうかい?僕はシーフ君が違う人になってしまいそうで怖いな」


 そういう考えもあるのかとシーフは感心してしまう。だが、外れた考えでは無い。外が同じでも中が変わればそれは別物だ。前世の意識が戻った瞬間今までの記憶が消える可能性も十分あるのだ。それは今の自分にとっての死を意味する。


「生まれてこの方前世の記憶が戻った事はねぇからな。今更、戻る事なんて無いだろ。安心しろよ」

「それなら良いんだけどね」

「それにしてもケイア昨日も帰って来なかったか。やっぱり手伝い必要だったんじゃねぇか?」

「そうじゃの~そろそろ様子でも見に行くかの」

「じゃあ行こうか」


 村に滞在するに当たり借りていた家屋を出て村のどこかに居るケイアを探そうと外に出るとシーフと同じくらいの身長をした少年が急いだ様子でこちらに駆けてきた。


「──なんで、お前らが──見てやらなかったんだよ!」


 駆けてきた少年はいきなりヘルメスを怒鳴りつける。


「まぁ、落ち着けって」

「お前もだぞ!ガキだからって関係ねえ!」


 お前が言うなと口に出しそうになるが寸前のところで押し込め冷静に話を聞く事にする。


「いいから落ち着けよ。何があったんだ?」

「お前らの連れが感染したんだよ」

「それって……」

「この村の流行り病か。ケイアが治したんじゃねぇのか?」

「回復魔法で治る訳無いだろ。そんな事も分からねえのか」


 一々癪に障るガキだがあくまでも冷静を装って話を聞きだす。


「それで?何でお前がそんなに慌ててんだよ」

「……それは……病人の心配する事は悪い事なのか!」

「いや、そんな事言ってねぇけど。俺らは部外者だろ?そこまで怒る事か?」


 ケイアが病気に罹ったというのが事実ならそれは大変だ。今すぐにでも看病しなければならない。そう、自分たちが。村の一少年がここまで感情を露にする理由が分からない。こいつが天啓保持者なのと何か関係があるのだろうか。


「おぬしが坊とやらなのじゃろ?この村に引き入れた責任でも感じ取るんじゃないか?それでこうこっちに責任転嫁をじゃな」

「なんだよ、それ。親に悪い事隠すガキみてぇじゃないか」

「ほれ、みてみ」


 少年は俯き加減に黙り込んでいた。どうやら図星だったらしい。


「別にんなこた良いんだよ。俺らが来たくて来たんだから。いっちょ前に責任感じてんじゃねぇ。ほら、連れてけよ」

「そうだね。僕たちで責任は取るよ」

「……ああ。分かった」


 タリートに坊と呼ばれていた少年の後を追いケイアの元へと急ぐ。医療技術なんてものは持ってない三人だが何かしらの役には立つだろう。


「それで、なんだっけ。回復魔法は効いてないのか?」

「そうだよ。病気は回復魔法で治るなんて間違ってる。あれは一時的に体力が回復する事によって治ったと錯覚してるだけなんだ。ポーションと同じ効果なんだから当然だろ」

「確かに──」


 確かにそうだ。病気とはウイルスや細菌によって引き起こされる体の不調の事だ。外傷を直す事の出来る回復魔法やポーションでは効かないという話は納得できる。だが、それならこの世界で病気に罹ったらどうなるのだろう。ケイアが経営していた診療所で薬の類はポーション以外に見た事が無い。それも回復魔法で補える為、使用した事は一度も無かった。回復魔法で病気が治らないなら病気は一体どうやって治すのだ。


「じゃあ病気はどうやって治してるんだよ」

「一般的には知られていないけど病気はそこらの草で治るんだよ。種類によって色々変わるけど。僕は前からこの説を証明して実行した、それなのに──」

「そうなのか?ヘルメス」

「僕もそこら辺の話については良く分からないな。風邪に掛かった時は部屋で病人食を食べて寝てれば治ってたし」

「おい、お前。ヘルメスって言ったな。お前はその病人食に何が入ってた?」

「そりゃこの前も採取したレイタイ茸とケルア草だよ」

「それに風邪を治す成分が入ってる」


 なるほど、だから俺はこの世界に生まれてこの方風邪を引いた事が無かったのか。変な所で辻褄があってしまった。


「それなら何で今回は治って無いんだい?」

「そんなの風邪じゃ無いからに決まってるだろ!」


 坊は叫びと同時に走るのを止めこの中にケイアが居ると言った。あまり呼吸はするなと言う助言を坊に貰い家屋の中へと入って行った。

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