告白
村に戻りケイアの居場所まで向かうともう既に病人全員分に回復魔法をかけた後であった。これからシーフらが取って来た材料で病人食を作り食べさせたら仕事は終わりだという。経過報告も簡単なもので終わり、早く戻れと家を追い出されてしまった。
「ひでぇ物言いだよな」
「それも思いやりだよ」
「儂もしつこく部屋に入って来るお父様を良く追い出したものじゃ」
「それはお父様がうざかったからじゃねぇか」
「まぁ、結局本職の邪魔は出来ねぇよな」
次の日、ケイアは寝床として用意されてた家屋に帰って来ていなかった。一通り回復魔法を掛けた後、全員分の病人食を作り一日が終わっていた。その日、ケイアはまだ検診があると言ってシーフらとは行動を共にしなかった。
「俺らの解呪の為なのに俺らやる事無くね?」
「ケイアには感謝じゃの」
「そうは言っても昼から家も出ないでぐうたらするのもどうかと思うよ」
「その昼まで寝てたやつが良く言うぜ」
なんならシーフとエナベルの二人はヘルメスが寝ている間、持ってきた食料で朝食を作り昼食も作っていた。主に作ったのはシーフだったが。
「それは……そうだけど」
「それに今食ってるもんは誰が作ったんですかー」
「分かったよ、もう。でも、ぐうたらしてたら身体が鈍るよ」
「それでいいぜー。もう戦争とか絶対行かねぇしな」
「それは僕も同じだけど。そう言えばこの後ってどうする気なんだい?」
「この後?」
「うん。僕らが一緒に居たのって……あれ、最初ってシーフ君と目的地が一緒だった事じゃ無かったっけ?シーフ君が何か自発的に動いてた覚えが無いけど大丈夫だったのかい?」
遂に来てしまったか、この時が。まぁ、ヘルメスに接触する事が目的だった訳で目的地が同じなど詭弁でしかない。直ぐに嘘だとバレてしまうのは自明の理だった。ここらで腰を据えて全てを
話さなければならないのか。今更、躊躇うような事でもない間柄だとは思っているが改めて言うとなるとこれはこれで言いづらいものだ。ここにはケイアも居る。ケイアも俺も天啓を受け取った者だ。もういっそ二人集めて言ってしまうか。悩ましい。
「あーそうだな。んーまぁ、目的は無いから大丈夫だ」
「そうだったのかい?ならどうして?」
「そりゃあエナにも同じ事が言えるだろ?」
「儂はシーフに掛かっている呪いが分かって居たからの。まぁ、分かったのはお父様のおかげでもあるんじゃが。始めに言ったじゃろ。越えなければならん壁があると。それがこれじゃよ。儂はこの為に付いてきたのじゃよ」
シーフの記憶にはあやふやだったが確かにその様な訳の分からない事を言っていた気がする。となるとエナベルには明確に付いてくる理由があったという訳だ。これでシーフは理由無くヘルメスに付いてきた人だ。もうこれは弁明の余地なしだろう。完全に逃げ場が無くなったところでシーフはヘルメスに全てを話す事を決めた。自分が転生者な事、散らばった天啓を集めている事、自分の天啓が探知、強奪な事、ヘルメスに付いてきたのもそれが理由な事。ひとつ説明しようとすると芋づる式に説明しなくてはいけない事が出てきて気付けば一人で洗いざらい事の次第を話していた。シーフの語りにヘルメスは静か相槌を打つだけで途中話が遮られる事は無かった。エナベルも気を使ったのか静かに話しを聞いていた。
「そうだったんだね」
「あんまり驚かねぇのな。お前の事だからなんだって⁉って大袈裟に驚くと思ったけどな」
「これはもう言っていい事なのかな」
「……?」
「いや、正直僕の天啓が与えられた物なのは知ってるんだ」
「は?」
ヘルメスが天啓を受け取ったのは崖から転落したあの時。あの時、ヘルメスは女神からの説明を受けていた。この幸運の天啓は借り物だと。いつか持ち主が返して欲しいと言って来たら返して欲しいと。ただし、この出来事を自分から告げる事は許さないと。もしそうすればその天啓は消滅すると。だからヘルメスから天啓の話を告げる事は出来なかった。
「シーフ君が言ってくれたからもう大丈夫な筈だよね。天啓も消えた様子は無いし」
「なんだよ、それだったら言ってくれれば……あー言えねぇのか。めんどくせぇ事してくれたな女神も」
「それはそうとしか言えないよ。僕だって初めに会った時に気付いていたけど中々言わないからずっと待ってたんだよ」
「そりゃ悪かったな。こっちにも事情があったんだっつーの」
「結果として言ってくれたから良かったけどね。それじゃあ強奪してくれよ」
「は?」
「その気になったから話してくれたんだろ?」
シーフにとって天啓とは人生を左右させる才能の様な物だと思っている。これまで自分が天啓を無暗に回収しなかったのはその人の人生を破壊しかねない行為だと思ったからだ。その方針を今更変える気は更々無い。そんな訳でシーフにヘルメスの天啓を回収する意思は無かった。
「勿論、ケイアの天啓もだけどな」
「ケイアさんの天啓もシーフ君の物なのかい?凄いな、本来ならシーフ君はどれだけの力を使えたんだろうね」
「確かにそうだな。でも、そう考えると怖くもある。力を持ち過ぎると破滅しそうだしな」
「お父様も強大な力は身を滅ぼすと言っとたの~」
「魔王さんのは実体験か……?」
旅の当初は全ての天啓を集めて最強になんて浅い考えでいたが今はもうそんな気は起きない。今だって十分、戦える力はあるのだ。一極集中より分散して人の役に立って貰った方が効率的だろう。そんな昔ばなしをしていると日も暮れ一日が終わる。ケイアは今日も寝床に帰って来る事は無かった。




