村を探して
「それでシーフ君とエナベルちゃんは観光してただけ、ケイアさんは……」
「王都のご飯は美味しかったわ」
「……全く。僕だけじゃないか。ちゃんと買い出ししてたのは僕だけじゃないか」
「だってヘルメスならちゃんと買い出ししてくれると思って」
「儂もそう思って」
「そんな悲しい顔で言っても無駄だよ。今度からはちゃんとしてね」
ちょろいちょろい。
「シーフ君……?」
「ん?」
「まぁいいか」
危ない。どうやら顔に出ていた様だ。中々鋭いところもある男だった事を忘れていた。
「それで準備は出来たって事で良いのか?」
「うん、当面は大丈夫な分を買ってきたよ。でも、村は山奥にあるんだったよね。当然手持ちになるから皆にも持ってもらうよ」
「えーそんくらい持ってくれよ」
「魔王の娘に持たせる気とはいい度胸じゃの」
身バレした瞬間にその威光を使うとは何とも図々しい幼女だ。ヘルメスに代わってせっきょうしてしてやらんといけないな。
「こら、エナベル。ヘルメスが可哀想だろ。俺が持ってやるから……魔王さんにはよろしく言っといてくれよ」
魔王さんを思い出したら言葉選びを間違ってしまった。
「シーフ君も大人になったじゃないか」
何の事情も察しないヘルメスの尻に一発入れてから今日は解散となった。次の日、珍しくシーフがヘルメスを起こした事で朝早くから全員揃い村へと出発した。向うべき村は王城の奥にある山脈のどこかに存在するとだけ言われていた。だが、気軽に王城の裏に行ける筈も無く少し外れた位置から山脈に侵入した。
「外から見るより中は随分暗いんだね」
「このでっけぇ木のせいだな」
シーフは前世の世界では中々お目にかかれないような大きさの木を見上げた。
「葉っぱで日の光が遮断されてるんだね」
「暗いのは嫌じゃの」
「魔物とかも潜んでるのかしら?」
「王都の衛兵が定期的に討伐隊を組んでここの魔物駆除をしてるはずだから王都近辺にはもう数は居ないんじゃ無いかな?」
「そうだったわね」
そうこれがこの世界の常識。自分の認識との相違点だ。魔物駆除なんて聞くと冒険者の仕事かと思ったがそもそもこの世界に冒険者という職種は無い。商業ギルドはあるのに冒険者ギルドは無い。旅をするに当たっての資金源に冒険者をやれば良いなんて浅い考えで始めた旅だったがおかげさまで持ち金はほぼ無い。盗賊を捉え対処した際の報奨金が無ければ完全にヘルメスのヒモになっているところだ。今は辛うじて宿代くらいは出している。まぁ、そんな感じでこの世界には冒険者が居ない。その仕事は大体衛兵が補っているという訳だ。
「こうも暗いと探すのは大変になりそうだね」
「あぁ、そうだな」
「その割には進むの早いわね」
「まぁな。でも取り合えず今日は俺に付いて来て」
「そこまで言うなら良いけどエナベルちゃんが疲れてそうだから休み休み行こうか」
ヘルメスに言われるまで忘れていたがエナは幼女だった。じじいみたいな喋り方だが身体は幼女そのもの。少しペースを考えなくてはならない。
「にしてもじじいくせぇ喋り方だとは思ってたけど魔王さん譲りだったんだな、それ」
「儂か?そうじゃの。ずっと近くで聞いていたら伝染ってしまったのじゃ」
「そういうもんか」
小休憩を終えた後もシーフを先頭に暗い山中を進む。地面には大木の根が張り行く道の邪魔をする。大木の根だけあって根だけでも相当の大きさがある。直径はエナベルくらいあるだろうか。体力を使いながら険しい道を歩く。そろそろ皆の体力的にも野営かという雰囲気が流れた時、不意にシーフが立ち止まった。
「なぁ、この先何に見える?」
「何って──」
「崖じゃの」
「だよなぁ」
「どうしたの?疲れちゃったのシーフ?もう休む?」
「いや、んー」
なんと説明しようか。この先が崖なのは見れば分かるのだが人が居る。
「随分と深いし奥行きもある渓谷だね」
「まぁ、落ちても川だし死なねぇか」
「落ちる気なのかい……?」
「いや、そこに誰も居ないよな」
「居ないの~」
自分でも分かっているのだが、居る筈なのだ。何故なら探知に人が居ると俺の天啓を持った者がそこに居ると言っているからだ。探知が故障でもしたのだろうか。天啓に限ってそれは無いと思われる。ならば姿を隠す事の出来る天啓持ちなのだろうか。それにしては渓谷の上にその存在を主張している。浮遊も持っているのか。
「まぁ、分かった。今日はここで休もうぜ」
「え、いいけど。良かったのかい?何か気になる事があったんじゃ?」
「んー勘違いかな」
「ならもう休みたいのじゃ。儂は疲れた」
「そうね。私も疲れたわ」
ヘルメスは背負った荷物の中からテントを取り出す設置を始める。シーフはその周辺に街道にも使われている魔物除けの魔道具を置いて行く。ケイアには薪になりそうな乾い木材を集めて貰い、エナベルはヘルメスがテントを設置するのを邪魔していた。
 




