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買い出し

「リンガラかぁ。そう言えばエナベルちゃんと別れた時に置いてきたもんね」

「あーあん時か。もう盗まれてるんじゃね?」

「いや、パーシヴァル家の紋章があるからね。恐らく住民からの通報で領主のところにあると思おうよ」

「そんなもんか」


 リンガラの領主と言えばケイアを王族から事実上匿うも最終的には隣の領地を治めるスラスト=イーストに彼女の身柄を手渡した優柔不断な男。結果としてケイアを戦場に向かわせる事になった。直接手を下さなかったもののシーフは同罪だと感じていた。


「じゃあ、リンガラまで付いて来て貰う理由が付いたわね。良かった、ただ普通に付いて来て貰うのは気が引けるもの」

「こいつら如き顎で使ってやれば良いのに。ケイアは優しい奴じゃの」

「それはエナに心がねぇだけだよ」


 だが、気を遣わせるのも俺の本意では無い。ヘルメスのぽんこつも使い様という訳だ。


「結局、こいつが客車忘れてきたから物資は足りてねぇんだよな。だったら今日は一先ず各々必要な物を買いに行くか」


 ヘルメスのシーフ君も同罪だろという言葉を華麗に聞き流し女性陣に提案する。


「儂は構わんぞ」

「私もそれでいいわ」

「じゃあ、またこの宿集合って事で」


 ヘルメスがまだ不満げに何かを言っていた様子だったがそれを無視し各々拡散していった。解呪師の村に行くまでの必要物資は恐らくヘルメスが揃えるだろう。ああ見えて本職は行商人だ。そこら辺は信頼できる。その為、シーフには買い出しの必要は無く余った時間をどう過ごそうか考え長王都をぶらぶらと練り歩いていた。


「これならあいつの手伝いしてやっても良かったな」

「そうじゃの~」

「──ん⁉」

「なんじゃ?」


 声のする方へと振り返るとエナが後ろを歩いていた。驚きすぎて変な声が出た。


「びっくりした。なんだよ、無言で付いて来るなよ」

「ケチな男じゃ。儂が付いて来るのが嫌なのかの?」

「そうじゃねぇよ。ただ無言で付いて来るなって事だ。エナも買うもの無かったのか?」

「どうせヘルメスが買うじゃろ」

「ちげぇねぇな」


 ヘルメスの評価が同じで自然と笑みが零れる。これがヘルメスの耳に入れば力強いツッコミが聞けそうだ。


「王都って言っても別に観る所無いよな」

「そうかの?儂は散歩だけでもなかなか楽しいぞ」


 何の気なしに言った言葉だったがエナベルにとっては違ったようだ。


「魔人領も結構栄えてた様に見えたけどな」


 魔王に謁見する為に魔人領に踏み入れたのはついこの間の話。魔王城に着く前までに街を見た。栄え具合は王都を越えていた様に思えたのだが──


「儂は魔王城の外を眺める事しか出来なかったからの~こうして歩く事が出来るのが嬉しいのじゃ」

「箱入りだったのか」

「まぁ、そうじゃの。だから怪しい二人組が魔王城に襲いに来て魔人領を離れる事が出来た時は少しばかり感謝もしたもんじゃ」

「スカルとバニティーか。最初にエナと会ったのもその時だったもんな」

「お父様の魔法に巻き込まれてあの二人共々外の世界に放り出された時はびっくりしたのじゃ」

「こっちもいきなり幼女が飛び出てびっくりしたぜ?」

「淑女じゃ」

「わりわり、でもその時、偶々魔人領から出れたんだろ?魔王さんはいい顔しなかったんじゃないのか?」

「それはそうじゃの。じゃが、儂の様子はどうやらある程度把握されていたようでの、この前帰った時は呪いを解除しろって前向きに変わっていたのじゃ」

「怖えな、魔王さんも。って事は前は呪いの解除には否定的だったのか」

「じゃから魔王城から出る事が出来なかったのじゃ。外は危ないっての。でも、おぬしらのおかげで儂が外を歩く事が出来るのが分かったようで今に至るのじゃ」

「なら、俺らに感謝してもしきれないな」

「ほんとじゃの」


 思わぬ反撃、ならぬ肯定に戸惑いながらも苦笑いを浮かべる。冗談のつもりで言った言葉を肯定されてしまうとどうもむずがゆいと言うかなんというか。このいたたまれない空気を変える為、話題を探すにも辺りは少し背丈の高い建物が並ぶだけで面白い風景では無い。


「待てよ、スカルとバニティーはどうやって侵入したんだ?」

「んーどこかの転移術式を使ったんじゃろ。それ以外じゃ手段は無い筈じゃ」

「つー事はあいつらにはどっかの転移術式がバレてんのか。それはそれで不安が残るな」

「まぁ、大丈夫じゃろ。魔人領に侵入したところでお父様に敵う者はおらんからの」


 確かにあれに勝てるような人がこの世に存在するかどうかかなり怪しいところだ。王国最強なんて呼ばれていたフォータ=パーシヴァルでも魔王と戦えば瞬殺だろう。あれは人族が敵う領域に居ない。そう、直感的に感じていた。


「是非ともお父様には人類滅亡させたくなった時、俺だけは除外するように言っといてな」

「情けない男じゃの~」


 エナベルのシーフを見る目の冷たさにシーフはまたも苦笑いを浮かべるのだった。






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