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準備

「にしても王都に繋がるってここなんだな」

「シーフ君は来た事あるのかい?」

「観光してた時な。だけど気が付かなかったぜ?」

「ここは確か兵士以外の立ち入り禁止の階層だからね」


 そこら辺はヤングとハルが居たから平気だったのだが、彼らもこの部屋の存在は知らなかったのだろうか。部屋は倉庫と化し物が所狭しに並んでいる。転移術式の魔法陣の上にも荷物は置いてある辺りこの部屋の本当の使用用途が分かる者はそう居ないのだろう。いいカモフラージュになっている。


「こほっ……埃っぽいのぉ」

「暫く使われていない様ね」

「だろうな。敵地のど真ん中みたいなアルザースの塔にあるんだ。使う場面なんて限られてくるぜ」


 例えば魔王の気が変わりアルザース王国を滅ぼそうと考えた時、ここから魔人族が攻めて来たら王国の対処が出来ない内にこの国は滅亡するだろう。


「そう言えばここの管轄は近衛騎士団だったかな」

「おい、それって……」

「いや、フォータさんでは無いよ。そもそもこの塔が建てられた時に生まれても居ない筈だからね」

「となると先代の近衛騎士団長って事で良いのか?家系でやってんだろ?」

「そうだね。血で決められる訳じゃないけど結果としてパーシヴァル家が代々務めてると聞くよ」

「昔から団長さんみたいなのが居たって事か。嫌だな」


 何を考えてるか分からない様な人は好きになれない。つるむならヘルメスくらい馬鹿正直な奴じゃ無いと警戒心が解けないからだ。


「そろそろこの部屋を出たいのじゃ」

「それもそうだね」

「でも、急に出て怪しまれないかしら?だっていきなりここに現れたんだもの。不審がられない?」

「まぁ、この時間人も少ないだろうからしれっとエレ、じゃなくて昇降機に乗ろうぜ」

「そうじゃの」


 この時間は観光客も少なく兵士たちの数も減っている。誰にも見つかる事無く昇降機に乗る事が出来た。アルザースの塔を出た一行は宿を探す事になる。


「今日はもう暗いからね」

「そうじゃの~」


 エナベルは王都の景観が珍しいのかいつかの様に辺りをきょろきょろ見回している。


「取り合えず寝れればどこでもいいわ。ヘルメスなら適当な宿くらい知ってんだろ?」

「まぁ、ずっと王都で暮らしてたしね。どこでもいいなら案内するよ」

「へぇ、ヘルメス君って王都育ちなんだ」

「そうだよ?」

「都会人っぽい顔してるものね」

「そうかな……?でも出身は田舎の村だけどね」


 ケイアの質問にたじろきながらも質問には丁寧に答える。そんな日常会話をしながらヘルメスを先頭にして宿へと向かって行った。宿に着いた一行は男女で部屋を二つ取り互いにその日は身体を休めた。

 次の日の朝、ヘルメスを放っておいて宿の食堂に向かうとエナの姿があった。相変わらず早起きなのは変わって無いらしい。


「おはよ。早いな」

「習慣じゃの。朝は自然と目が覚める。シーフもそうじゃろ」

「いや、俺は割と魔道具使って起きたりしてる。今日は自然と目が覚めたけどな」


 昔はそうでも無かったのだが、この世界は夜更かししてまでする事が無い。その為、自然と生活のリズムが整って来る。……前世の俺は夜更かしして何をしてたのだろう。自分の記憶の蓋を開けようにも靄が掛かったように自分に関する記憶だけ思い出す事が出来ない。


「それにしても一部屋じゃ駄目だったのかの。前までは三人で同じ部屋じゃったろ」

「それはエナが二部屋取っても最終的には俺らの部屋に来るからだろ?しかも、今はケイアも居るんだし二部屋でいいの」

「いつも同じ部屋だったんだ」

「おはよ、ケイア。致し方が無くな」

「仲良いのね」

「まぁな」

「でも、仲良しのヘルメス君は居ないの?」

「あいつは結構朝弱いからな」

「シーフも起こしてやらんからの~ヘルメスはいっつも拗ねるのじゃ」


 三人集まった所で飯を頼み朝食を済ませる。その直後を寝ぼけまなこのヘルメスが食堂に顔を出した。いつもながら自分を起こしてくれないシーフに文句を垂れ流し手短に朝食を済ませた。


「それで今日から探しに行く感じで合ってるかな?」

「いや、別に決めて無かったけど呪われるのが続くのも嫌だし早い事に越した事はねぇな」

「野営の準備とかってあるのかしら?一日で見つかるとは限らないでしょ」

「それなら……あれ?僕ってワーゲンどこに置いてきたっけ」

「「「……」」」


 ここまでずっと急ぎながら来た。自分の所有物の有無を気にしない程に。それはリンガラで事態を把握した時から始まる。となればワーゲンはリンガラに置いてきたままだ。正しくはピレットを切り離した客車部分なのだが。ヘルメスがたまにやらかすポンコツ。他三人の溜息が食堂に響くのだった。


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