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終着地点

「どうだった?凄かったでしょ?」

「ああ、地下にあんな巨大施設があるとはな。供給ルートさえあれば負ける事なんて無いだろうな」


 だから今回の籠城戦、巧かったのは帝国の挟み撃ちなのだろう。軽く見ただけでも片面だけの籠城戦ならば決して負ける事も無い造りであるルネートル城塞。ルネートル城塞の監視塔を掻い潜っての海上からの領土侵犯。切れ者と呼ばれるノモス=ルネートルの遺伝子を継いだルシャーノ=ルネートルを出し抜く事を出来た人物は誰なのか。


「アブソールじゃ無いだろうな」

「ん?敵将の事かい、シーフ君」

「そう言えば死体の発見はされなかったようだね」


 フォータの発言にルシャーノの作業が止まり大きな溜息を吐いた。


「これは討伐完了で良いんですかね。ほんとに帝国に魔王にどうやって報告書作成すればいいんですか」

「そう言うなよ。ルシャーノ君、魔王ケイスの助けが無ければ我々は厳しい戦いをまだ続けていたんだ。報告書で済んで良かったろ」

「……ほんとにそうですね」


 これは裏で何かを思ってる顔だ。ルシャーノの機嫌を損ねないよう気を付けなければ。


「陰湿な男じゃの~」


 このクソ幼女が。


「エナ静かにしなさい」

「シーフがヘルメスみたいで小うるさくなっとるのじゃ」

「急に僕を引き合いに出さないでくれないかな⁉」

「そろそろシーフを連れて行ってもいいかの」


 エナベルがこのルネートル城塞に連れて来たフォータに向けて問い掛ける。フォータを少し思案した後でそれを許可した。


「私はルシャーノ君の手伝いをしなければいけないからね。君達とはこれでお別れだ。王都に来た時は訪ねて来てくれ」

「分かりました。フォータさん、また会った時はよろしくお願いします」

「暫くは会いそうもないけどな」

「それは分からないよ、シーフ君」


 会いたくないと言う意味だったのだがそれが伝わったのか、伝わらなかったのか。ただ、もう王国の面倒事には巻き込まれたくない。その為には是非ともここで団長さんとは手を切りたい。


「ケイアはどうすんの?」

「私?私はもうここに居る理由も無くなったし帰ろうと思うけど」

「それなら儂に付いて来るのじゃ。魔人領までくればそこから近くに転移出来たはず……なのじゃ?」

「何で疑問形なんだよ。まぁ、それなら俺らと一緒に行くか。ここからリンガラまで陸路で行くのは遅いからな」

「じゃあ有り難くご一緒するわ。ヘルメス君も一緒?」

「僕の方が年上だと思うんだけどな……そうだよ」

「あら、良かった。幼女とお子様だけじゃ不安だもの」


 最後に余計な爆弾を落としてくれたおかけで魔人領に転移するまでの間、大いに体力を使ってしまった。




△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼



「自称帝国一位の将軍が呆れるわね」

「……姐さんか……正直助かったぜ……俺はもう指先ひとつ動かせねえ」

「それなら横の彼女に感謝するのね。恐らくアレの威力を大幅に軽減したのは彼女でしょうから」


 アブソールは首を曲げる事も出来ず目線だけを横に向ける。そこには意識を失い横たわるリファの姿があった。


「……リファは、無事なのか?」

「ふん、無事?あなたから比べれば無事かも知れないわね」

「そうか……生きているならそれでいい。ここは」

「ここは国境の山小屋よ」

「国境の山小屋」

「第一皇子が来て呆れるわね。私の子供ならもっとしっかりとして欲しいものだわ。帝国と王国を隔ててる山脈の小屋よ。昔から密会に使われているわ。今はもう存在を知ってる者はほぼいないわね」


 アルザース王国とエスフロー帝国を隔てるのは何もルネートル城塞だけでは無い。ここには海洋、山脈といった自然に出来た境界線が存在する。古来、二つの場所に国が興ったのはこのせいであった。行き来が難しい地形。その為、互いに独立した文化が生まれ国が発展していった。文明の発展により道を作る事の出来る場を見つけ貿易が始まるが、唯一の通り道も当時一歩の差で文明が進んでいた王国に止められてしまう。それが今のルネートル城塞の始まりだ。だが、ルネートル城塞が造られ貿易が止まった後にも密貿易をする者は居た。そこで取り扱われる物は価格が高騰し利益を生む。そして貿易商に力を持つ者が生まれ始めた。その者達は絶対王政であった両国では邪魔者であり時代と共に淘汰されていった。その記憶の証人となるのがこの山小屋だ。遥か昔の話、長生きをしている婆さんでもこの存在を知る者は居ないだろう。


「海洋の監視網は以前に増して強くなっているわ。彼女の屈折を以てしてでも王国を欺く事は出来ないでしょうね。勿論、ルネートル城塞を抜けるのも愚策。だからこの道しか無かったのよ」

「では、身体が回復するまではこの小屋で……?」

「何を言ってるのかしら?」

「──っ。申し訳ない。そこまで付き合わせる訳にはいかないか」


 静かなバニティーの圧にアブソールの顔が引きつる。第一皇子で将軍、そんな万能とも思える地位を持ってしてでも逆らえない者が二人居る。それは現エフスロー帝国王のモナルケス=アイオン=エスフロー、そしてその五代前の王の妃であるバニティー=アイオン=エスフローである。アブソールが心から恐怖を覚える存在だ。


「嫌ね、そんなビビらないで頂戴。それに私は居なくならないわ。勿論、貴方も強くなるまでは帝国には帰さないわ」

「それは……助かる、のか」

「貴方には人間を辞めてもらうもの」


 言葉の意味が分からずともバニティーが本気で物を言っている事だけは伝わって来る。辛うじて分かるのはこれから自分が強くなる事。比喩なのか、真なのか。比喩であって欲しいと願いながらアブソールはまた深い眠りに就いた。




3章終わりです。暫くは4章のプロットを練るので時間が空きます!!

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