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魔王

 鳴り響く轟音、その破壊的な衝撃波にルネートル城塞付近に居た皆が何が起きたか理解できなかった。そんな中いち早く状況の理解に追いついたのは帝国軍二十五万の将アブソールであった。彼は今から起きる魔法兵たちの合技の威力を理解していた。その為、副官のリファに天啓で身体に屈折を付与していた。これはどんなものでも逸らす事の出来る力、物理攻撃でも魔法攻撃でも対象物に当たる直前それを逸らす事が出来る。だが、その天啓を以ってしてでもアブソールは地面に尻を付けていた。


「……こんな威力はあり得ない」


 これは帝国軍魔法兵の攻撃の余波では無い。直ぐにその事に気付く。だとしたら他なる理由は何なのか。先程まで戦っていたシーフか。違う、もう余力は無く諦めていた。ならば、他二人か。それも違う。シーフが諦めた時、同様に二人も諦めていた……いや、王国最強は最後、上を見て笑っていた……?脳内に吹き飛ぶ前の映像がフラッシュバックする。


「なら、上か!」


 アブソールが上空に目を凝らすと小さな点が一つ浮いていた。


△▼△▼△▼△▼△▼△▼


 意識はあるが身体は動かない。とうとう死んでしまったか。そう考えたところで意識がまだ残っている事を思い出す。

 なら、また天界か。もう一回転生とか辞めてくれよ。こんなの一度きりでいい。


「……じゃ……お……あ」


 ノイズ掛かった音が遠くから聞こえてくる。意識があれど自らの身体を感じる事は出来ない。視界も白く染まり何も見る事が出来ずに居た。


「まだ死んで無いって事か」


 呟いた言葉も自分で聞き取れる事は無く徐々に不安が押し寄せてくる。シーフは自分が生きてるのかどうかさえ分からず白色の意識の中で辛うじて聞こえてくる音に集中していた。暫くすると無秩序な音の羅列に意味が生まれてくる。


「……起きるのじゃー」


 ……じゃ?俺がこの世界に生まれて来てから老人以外でこの語尾の奴は一人しか知らない。旅のお供として少しの時間、行動を共にした謎多き幼女だけだ。


「エナか……?」

「おー意識が戻ったぞー」


 遠くからこちらに向かって来る足音と振動が伝わって来る。どうやらまだ死んじゃ居ない様だ。感覚も戻って来ている。


「シーフ君大丈夫かい?」

「ヘルメスか?まぁ、身体が動かせないのと視界が白い事以外は元気かな」

「それは元気じゃないよ⁉でも、あの爆発の近くに居たんだ。それで済んだだけマシなのかもね」

「どのくらい寝てた?」

「そんなに寝てないけど、そうだなピラミーダ平原からの援軍が到着するくらいには時間は経ってるよ」


 結局どのくらいか分からないがそれなりの時間が経っている様だ。それも仕方ないか。あの極大魔法を受けたのだ。生きて帰って来れただけ賞賛ものだ。


「戦況は?」

「それが……」

「どうしたんだよ。負けたのか」

「いや、勝ったんだ」

「勝ったって?二十五万相手に勝利したって事か?」

「そうじゃない。帝国に勝ったんだ。ルネートル城塞のここから反対側帝国側に駐留していた帝国軍も撤退した。完全に終結したんだ」

「言ってる意味が……」

「説明するから落ち着いて。でも、その前に聞きたい事が他にもあるんじゃないかな?」

「聞きたい事?あ、何でエナが居るんだ?」


 その時シーフには見る事が出来なかったがエナベルは中々触れて貰えずぽっぺを大きく膨らまして拗ねていた。見かねたヘルメスが助け舟を出すが、時すでに遅し。エナベルの機嫌が直るまで少々の時間を要した。


「……もういいのじゃ。シーフも早く事の顛末が気になるじゃろ」


 エナベルに許しが出たところでヘルメスを問い詰める。


「そうだ、マジでどういう事なんだよ」

「まぁ、僕も結構混乱してるんだけど。簡単に言うとエナベルちゃんがお父さんを連れて来てくれて帝国軍を倒してくれた。そのせいで帝国側は全軍撤退。王国の大勝利って所かな」

「……ん?もう一回説明してくれ」


 そんなやり取りを何回か繰り返したところでエナベルからストップがかかる。


「ヘルメスも性格が悪いのぉ。早く言ってやればよかろう。儂のお父様は魔王なのじゃ」


 ……魔王?魔王と言えばRPGとかのラスボスに抜擢される事の多い魔王だろうか。理解が追い付かないままにエナを問い詰めると色々この世界の新情報が出て来る事になる。曰く、魔王とは魔人の王だと。曰く、魔人とは魔族が種族進化をした先なのだと。曰く、エナベル=シャイターンとは魔王ケイス=シャイターンの娘であると。曰く、魔人の居住地域はアルザース王国上空に浮かぶ視認不可能な島にあると。


「じゃあ、取り合えずもう戦わなくていいんだな?」

「そうだよ。お疲れ様だね」

「儂もそれなり頑張ったと思うのじゃ。今は休むといい」


 そこまで聞いて意識は完全に途切れた。戦場の重圧から解き放たれた安堵感といつも仲間の存在。安心しきったシーフが次に目を覚ますのは三日後の事だった。

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