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第三戦

「こりゃめんどくせぇ事になったな」

「最終的にはこうなっていただろう。腹を括るしかない様だね」


 二連敗する事が合図だったのだろう。散らばっていた帝国兵は機敏な動きで隊列を組みルネートル城塞を背にして三人の前に並び揃った。


「俺もこんな事はしたくないんだけどさ。俺は一人の男の前に帝国軍二十五万の将なんだわ。恥もなんも全てを捨て去っても勝たなけりゃいけねぇ。って事だ。悪いがお前らさえいなくなりゃ決闘で負けたなんて話は出回らねぇんだ。確実に殺させてもらう」


 ヘルメスだけはこの様な状態になる事を危惧していなかった様で慌てふためいている。うるさいので尻を蹴っ飛ばしたら一段とうるさくなった。


「それで計画通りか?団長さん」

「そんな事無いよ。私は五人の奇襲が失敗して敵の幹部五人を残したまま全面戦争になる事も考えていた。それに比べれば二人を再起不能にしてからの全面戦争だ。いくらか気分はマシだね。シーフ君の作戦さまさまさ」

「それは最悪から考えればの話だろ。まぁ、ああだこうだ言っても仕方ねぇか。団長さん、援軍は期待できるだったよな?」

「そうなんですか?」

「ええ、もう既に呼んでいます。陸から二万、ルネートル城塞からは五万の援軍が。ですがルネートル城塞の味方は城塞から出て来る事は無いでしょう。あくまで注意を逸らす程度、本戦力は二万のピラミーダ平原からの軍。これが来るまで耐え抜く事が出来れば一先ずそこで休息は取れます」

「逆にその軍が来るまではこの三人で何とかしろって事か」

「そう悲観的にならずとも生き抜く事だけを考えれば数時間は稼げます」


 フォータの表情は真剣そのもので覚悟を決めている様子だった。心なしか口調も丁寧なものに変わっている。こうなれば自分も覚悟を決め戦う他手段は無いだろう。


「死ななかったところで勝ちではねぇけどな」

「……それは、まずは生き延びましょう」


 三人一組の陣形を取り帝国軍を相手取る。四方から囲まれ振り向く事すら許されない乱戦。だが、この場合その乱戦が従来の戦争より戦いやすい事をシーフは察していた。本来の戦争では魔法が使える兵を始めに起用し敵の数を減らす事に尽力する。その後に白兵戦が始まるのだが、この乱戦では味方の数が多い為、帝国側の魔法兵たちは的を絞れず総数の三分の一が棒立ちするしか無かった。

 俺とヘルメスは魔法に対する対抗手段を持っていない。正しく言えば俺はこの腕輪があって魔力が続く限り魔力障壁を張る事が出来るが、この状況で体内魔力を無駄遣いする程の余裕はない。そんな中魔法攻撃が続けば団長さんの負担が増えこの三人一組は崩壊する。だが、それも時間の問題だろう。例え、残る十五万の兵士たちを全て倒し切った所で障害物が無くなれば帝国の魔法兵たちは魔法を使う事に躊躇が無くなる。それに今、帝国の将軍アブソールが非情な判断を下せば全てが無に帰す事になる。そうなれば一巻の終わりだ。


「後、どのくらいだい?」

「まだ十分も経ってねぇよ」

「もう無理だよ……」


 ヘルメスはつい先ほどまで本気の戦いをしていた。二戦目は見逃したが相当厳しい戦いだっただろう、多分。そんなヘルメスは大した休息も取れずこの乱戦に身を投じている。この戦いの均衡が崩れるのも思ったより早いかもな。

 シーフの考えを裏腹にヘルメスは奮闘した。一度弱音を吐いてから二度とその言葉を言う事は無く、只ひたすらに目の前の敵を斬る。そう、妖刀人切で。知っての通り人切を妖刀と言わせる力は人を斬りその血を浴びる事で重量を上げていくと言うもの。ヘルメスが懸命に敵を斬る度に負荷は増していくのだった。


「きつそうだなヘルメス!」

「シーフ君こそキレが無くなって来てるよ」


 気張って見せるヘルメスだったが身体は正直だった。上段に構えた刀を振り下ろす瞬間、膝から力が抜けてしまう。シーフはフォータと共に何とかカバーをするも、もう立て直せない程攻め込まれ始めていた。


「団長さん一発本気で魔法打って貰える?」

「可能だけどその後はどうするのかな?一時凌ぎになっても直ぐに反動が来るよ」

「ヘルメスが軽く休めるくらいは俺が稼げるだろ」

「その次はシーフ君を休ませる為に誰かが奮闘しなくてはいけないね」

「永久機関じゃねぇか。やってやるよ」

「ん……もう何を言っても聞かなそうだね。十秒後、私が極大魔法を放つ。それに合わせて魔力障壁をお願いするよ」

「ああ、頼んだぜ」


 十秒後きっかり、戦場には最大の衝撃波が流れた。それはフォータが本気で跳躍しただけのもの。これから起こる極大魔法はそれ以上の衝撃を戦場に巻き散らすと帝国兵を震撼させた。


「世に集熱地獄を顕現させる業火の太刀……無量烈火!」


 フォータはシーフらの頭上、遥か空中で炎に巻かれた剣を大きく振った。地上に降り立った烈火の太刀は大地を一直線に傷つけ周囲の動植物からは水分を根こそぎ持って行き帝国軍にも多大なる被害を与えた。


「ふぅ、暫くは指先まで動かせないよ」


 自由落下するように落ちてきたフォータのぼやきにシーフは反応する事は出来ない。


「こりゃ、想像以上だ。壊滅的な被害じゃねぇか」

「お蔭で動けないがね。一万は再起不能に出来たんじゃないかな」

「俺らもやばかったぜ。全力で腕輪に魔力を流し込まなきゃ死んでた」

「僕もフォータさんの本気は初めて見たよ」

「だが、相手の魔法兵たちまで届かなかった。アブソールの支持だろう。相克魔法で威力が打ち消されている。まだここからが勝負だよ。シーフ君」

 

 あれだけの極大魔法を食らったのにもう体制を整え始めているのはそのせいだ。単純な話、どれだけ威力の高い魔法だろうと人数の力で相克魔法、ここでは水魔法で相対すれば対処可能なのである。どこまでいっても個人では戦争に勝てることは無い。だが、シーフはそこで諦める様な男では無かった。


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