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提案に対する回答

 その日の内に帝国側は伝令を寄越した。


「付いて来い」


 回答は無い。だが、それでおめおめと逃げ帰る訳にはいかない。虎穴に入らずんば虎子を得ず。もう遥か昔の記憶を引っ張り出しそんな事を考えていた。こう、すっと言葉が出て来る辺り前世では賢かったのかも知れない。


「シーフ君……これから行くのは敵地なんだよ?そんなにやにやして気を緩めてたらシーフ君だって簡単にやられちゃうよ?」

「顔に出てたか?」

「しっかりとね」


 それは仕方が無い事だろう。知らない事を予想し妄想に耽る事は愉快なものだ。それに答え合わせがあればもっと愉快なのだが。

 シーフらが身体を休ませていた地点からルネートル城塞は目視で確認出来るほどの距離、伝令の後を駆けあまり時間も経たず目的地に着く。


「これは歓迎されているのかな」

「ヘルメス君、これはその逆かも知れないね」


 ルネートル城塞王国側には二十五万の帝国兵がアブソールを筆頭に臨戦態勢で待ち構えていた。


「やあ、この間ぶりだね。直ぐに会う事になるだろうとは思っていたけどこんなにも早いとは思わなかったよ。中々、面白い冗談を聞いたよ。何だって?決闘をしようだっけ?」

「勝ち抜きでな。そっちは五人、こっちは三人だ。誰を出すかは分かるだろ?」

「本当に面白いぐらいの馬鹿だね。帝国がその要求を読むとでも?こっちは見ての通り二十五万の軍隊、対するお前らは三人と二万ぐらいか?それに負傷者だって抱えてるんだろ?帝国側に利益はあるのかな?」


 ほら見た言った事かと横からヘルメスの視線が痛く刺さる。だがまぁこれは予想通りの反応だった。そしてそれに対する案は勿論用意されていなかった。


「だよなぁ。俺が逆の立場だったらそんなの無視するぜ」

「おいおい、本当にそれだけなのか?事実上王国最強とも言われるフォータ=パーシヴァルが居てもこれか?がっかりだぜ。つまらねぇ」


 作戦の杜撰さに敵の方が動揺している始末。これはこれで愉快なものだが愉快なだけではこの窮地は脱する事が出来ない。


「それでも俺らを呼んだのは裏があると思ったからか?それとも二十五万で囲んで殺すつもりだったのか?」

「どっちもだ。だけどよ、これはつまらねえな。俺は下がるぜ。お前らで片付けろ」


 アブソールは後ろを振り返る事無く後を副官と思われる男に任せ敵軍の中へと消えて行った。


「どうするんだよ……」

「まぁ、こうなるよな」

「フォータさんも何とか言って下さいよ……」

「そうだな。シーフ君ここまでは君の予定の何割上手くいってるんだい?」

「ざっと八割かな」

「……え?」


 驚きで口が半開きになっているヘルメスには申し訳ないがこうなる事は九割九分予想通りであった。


「それでも、あのまま決闘してくれりゃ一番楽だったのは変わりねえんだけどな」

「それでどんな作戦なんだい?」

「団長さんなら大体分かってるでしょ?戦争で一番の敵は何だと思う、ヘルメス」

「僕かい⁉そりゃ強い敵が厄介なんじゃない?」

「まぁ、そうだけどな。一番厄介なのは──」

「無能な味方。で合ってるかな?」

「流石、団長さん。だから今回はそいつを大量に作る」

「……?」

「負傷兵を量産しろ」


 最初の提案が通れば何も問題は無かった。三対五の決闘。ハンデがあれど恐らく勝てただろう。だが、それだけでは相手側へのメリットが無い。だから相手側に決闘をしたいと思わせればいい。決闘をする方がマシだと思わせればいい。始めにあの提案をしたのは選択肢に決闘と言う単語を植え付ける為。人間は困った時に自分の記憶から解決策を探す。それの上書をするだけで──


「はいはい、分かったよ。始めから俺らが相手をすれば良かったんだろ?」

「中々、いい準備運動だった」

「悪いが俺らが出るって事は最悪捕虜になればいいなんて甘い考えは捨てろよ?確実に殺す」


 三人での戦闘は初とは言え、ヘルメスとはもう一年近く隣で戦ってきた。そこに歴戦のフォータが合わせる事など簡単なものだった。殺しはしないが致命傷を与え戦線離脱させる。籠城戦だと高を括っていた十五万の兵、そして敗走兵の十万の兵。敗走兵の中にはピラミーダ平原での殺戮を見て来た者が居る。少し暴れれば帝国軍は内部から恐怖が伝染していき戦線は崩壊する。一人の負傷者を出せばそれを介抱する為に一人が裏へと消える。伝搬した恐怖は目の前にいる敵に向かう勇気を消滅させ進んで介抱に出る兵まで現れる始末。

 ここまで来たところでシーフは作戦の成功を感じていた。


「お前らがめんどくさがらず戦ってれば出なかった負傷兵だ。それを噛み締めて戦えよ?」

「貴様……」

「シーフ君、なに挑発してるんだよ」


 小声で耳打ちしてくるヘルメスは余程戦いたいように見える。


「よし、先方はお前だな。怒りで我を見失ってる内がチャンスだぞ!」

「急に大声で止めてよ!」

「取り決めをしておこう。一対一の決闘をどちらかが戦える奴が居なくなるまで続ける。それで良いな」

「ああ、本来無視して五人でお前らを殺してもいい所誘いに乗ってやって事感謝するんだな」


 先方はヘルメスだとして次は俺が行くべきだろう。最後は団長に任せればもし負けたとしても……負けたとしても王国の勝ちか。別に王国の為にここまで来た訳じゃないんだけどな。


「シーフ君!聞いてるのかい?」

「ああ、わりぃ。無視してた」

「無視しないで貰えるかな……いや、だから何で帝国側が乗って来たのかって話だよ」

「今、話す必要……分かったよ。そりゃメンツの問題じゃねえか?プライドとか?だからさ、俺は二十五万の前で決闘って言う案を出しただろ?少なからず他の奴らの頭にも決闘の選択肢を望んでる心があるんだよ。だからここで二十五万体三の卑怯な真似はしないってとこかな」

「なるほど、凄いね。シーフ君はいつも。それじゃあ先方は僕だ。死なない程度に行って来るよ」


 なんてかっこつけて説明して見たが合ってるかどうかなんて知らない。本当は別の理由があったかも知れないし只の気まぐれかも知れない。もしかしたら誰かに焚きつけられたのかも知れない。兵糧攻めをしている帝国兵の備蓄が厳しい事が関係しているかも知れない。


「まぁ、でも結果引っ張り出せたんだし作戦勝ちだよな」

「シーフ君の悪人思考は是非王国に活かして貰いたいものだね」

「嫌だね。そんな堅苦しいの」


 フォータの遠回しの勧誘にきっぱりと断りを入れる。ヘルメスは腰から人切を抜き戦闘態勢を整えた。決闘の第一戦目が始まろうとしていた。


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