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回帰

 王城内はやけに静かで駆けるヘルメスは誰とも会う事が無かった。そんな状態に不気味さを覚えながらも王城の一室の前に辿り着く。扉を叩くと中からいつか聞いた声が聞こえてくる。


「どうぞ」

「お初にお目にかかります。グレイス王女様」

「そんな畏まらなくていいですわ。貴方はお兄様の代わりという事でよろしいのですか?」


 やけに落ち着き払ったグレイスの態度はこの緊迫した状況にそぐわないものであった。


「グレイス様はどこまでご存じで?今の状況は──」

「全て分かっていますわ。もう何回目か分かりませんもの。今回は王が殺され第一王子も殺され革命が起きました。これも私にとっては経験したことがある事。今更驚きさえしませんわ」

「それで──」

「ええ、今回は先にお兄様に持っていく情報を教えられていますわ。貴方からは何を伝えればよろしくて?」


 取り合えず一番はへレアとの戦況を伝えるべきだろう。完全なる不意打ちでもヘレアは死なず、あのシートスでさえ実力不足。この情報は次に生かせる。


「分かりました。以前と重なる所は削り伝えますわ。それでヘルメス様が伝えたい事がある筈でしょう?」

「グレイス様はシーフ君をご存じですよね。彼がこうなる事も前からあったのですか」

「ええ、いくらか前からシーフ様は必ず巻き込まれる様になりました。そして、いつも場所や原因を変え命を……ですが私が王城に軟禁されてからはいつもピラミーダ平原で命を落としていますわ。今回はその前に話す機会があり忠告だけはしたのですが」

「次はどうなるのですか?グレイス様は王城に?それなら次もシーフ君はピラミーダ平原で」

「その可能性が高いですわね」

「それなら、一つ考えがあります。でも、それが手に入るかは」

「少しの融通なら利きますわ。何があればあの方を……」

「僕は商人でしてその時に聞いた事があるのですが、魔法を打ち消す事が出来る魔道具が存在すると。シーフ君は敵の魔法によって死んでいます。それを打ち消す事が出来れば」

「もしかしましたら……お兄様に頼めば。私は今、カルミネ第二王子の天啓:洗脳によって嘘が付けません。ですが、本当の事を言ってもお兄様がシーフさんを助ける為の魔道具を用意してくれるとは思いませんわ」

「それなら僕はどうしたら……」

「時にヘルメス様。魔法を使えますか?」








・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・







 数える事を止めてからの方がもう多いだろう。それぐらいの時を繰り返してきた。戻る時はいつもこの何も無い空間を歩く。道しるべが無くとも何故か自分には進む方向が分かっていた。


「ああ、またですわ」


 この空間では自分の声も響かない。耳を反響する声が無ければ自分がきちんと話せているかも怪しい所だ。だからきっとあそこに座りこちらを向く事を無い少女にもこの声は聞こえて無いのだろう。鎖で縛られ身動きひとつ取る事も赦されないそんな少女を。

 助けに行こうとした事が無かった訳じゃない。ただ、一歩そちらに足を踏み出せば魔力を吸い取られる。道草は許さないという事だ。回帰という天啓を使用するに当たっての対価。それは自身の保有魔力の一部。最初に支払った魔力分しか進む事は許されないのだ。つまり、あそこにいる少女の元へ行くには多大な魔力を必要とする。一歩であれだけの魔力を奪われるなら自分の魔力では辿り着けないだろう。

 アルザース王国の王女として生を受けた以上、才能はある。魔力量もこの国では五本の指に入っていただろう。だが、回帰の本質は自身の魔力を奪う事にある。一度、使用した魔力は術者に戻る事は無い。使用回数に制限が生まれる。この分だと残すは後数回。それが終わるまではあの方に渡す事は出来ない。

 お兄様が悪人な事は重々承知だ。それでも、彼の行動に手を貸してしまうのはこの国を守る為。守ると言っても一辺倒に考えてはいけない。他方に意識を伸ばし対処しなければならない。敵はひとつだけでは無い。


「今回で終わらせる覚悟で行きますわ。グレイス、貴方はやれる」


 時の感覚も麻痺した身体で光の中へと身体を進める。最前の未来を選択する為に。


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