方法
「僕はその神を殺せばいいんだね」
「あ?そう言ってんだろ。へレアは時の神だ。お前のお友達を生き返らせる事だって簡単だろうよ」
今にして漸く全てが繋がる。自分が何故こうも歓迎されていたか。シーフ君を生き返らせる方法も。それに伴う障害も。
「僕は……敵うのかい?その神に」
「ハハッ。無理だな。ヘルメス、お前の実力はこの力を無くした私より弱い。そうだな、役目としては隙を突いた一振り。それだけでいい。それで敵わなければ終わりだ。私たちの負け。終了だ」
「……勝率は、どのくらいあるんだい?」
知りたくはない。聞きたくも無いが、聞かずには居られなかった。
「一割も無いだろうな」
「ハハッ。違いないな」
「──それじゃあ!どうして……」
「俺らには次がある。これは情報集めだ。誰か一人でも生き残れば次がある。それの方がお前は良いんだろうな。お友達も生きているからな」
「また、直ぐに回りくどく……スカル、教えてあげなさい」
「仕方ないなぁ。おにーさんも会った事があるだろう?第二王女、グレイスにさぁー。あいつの天啓は予知じゃ無くて回帰。つまり時間を逆行できる。もう分かるよねぇ。僕たちはその力を使ってやり直してるんだよ。この世界を。毎回必要な情報を渡してねぇ。それを以って挑戦する。今回はおにーさんが使えるかどうかって所かなぁ」
スカルは相変わらずの口調と顔で。そこである事に気付く。スカルはいつも付けていた仮面を外しその顔を表に出していた。その顔はヘルメスに取って良く見知った顔であった。否、ヘルメスで無くても誰しもが知っている顔。王国民でそれを知らない者は居ない。
「君は……」
「おいおい、おにーさん。今更その反応かよ。てっきり分かってると思ってたなぁ」
「第二王子のカルミネ・インカーペデンス・アルザース」
「フルネームで呼ぶなよ。それに今はスカルだからねぇ」
そう言うスカルの顔は素顔がバレて嫌そうなものでは無く寧ろ喜んでいる様にも見えた。アルザース王国にて第二王位継承権を持つ者。それが今この場に居る事は王国にとっては大事とも言える事態であった。
「第二王子が犯罪集団に組みしてるなんて世に知れたら……」
「大変だろうねぇ」
そう愉快に笑いスカルは話を続ける。
「だからこうやって顔を隠してたんだよねぇ。それに僕以外にも居ただろぉ?近衛騎士団長フォータ=パーシヴァルの一人息子にして次期近衛騎士団長との呼び声が高かった奴がさぁ。身分なんて関係無いんだよ。こうなっちゃねぇ」
いくら何でも近衛騎士団長の息子と王子では身分の差はあるがそう言う話では無いのだろう。もうここまで来たら深く考える事は諦め自分の役割を果たすしかない。
「君の正体に驚いて話を止めてしまったけど、さっきの話にも言いたい事がある」
「どうぞ」
「さっきの話が全部本当だと仮定して僕たちの意識はどうなるんだい?」
「おいおい、おにーさん。ちゃんと話を聞いていたのかよ。そんなの残る訳無いだろぉ?それが出来ればグレイスに伝える意味が無いからねぇ。意識が過去に行っても続いて行くなんて事が出来るなら僕たちはもう女神に勝っている。だからこうもめんどくさいやり方で勝負してるんだよ」
「待ってくれ、負けたら過去に戻るんだろ。僕の条件を叶える事が出来るならそれはシーフ君がまだ生きている時間になる。でもそれじゃあ同じ事の繰り返しじゃ無いか!僕は過去では今の意識は無いんだろ?」
ヘルメスからの問いにスカルは目を瞑り少し考えた後、シートスに目配せをし確認を取る。シートスが無言で頷き肯定をするとスカルはヘルメスに向き直り言葉を発した。
「それなら最後まで裏切らなかったご褒美におにーさんがグレイスに合図を出していいよ。その時に過去に持って行って欲しい情報でも何でも伝えなよ。それが僕たちからの報酬だねぇ」
「いいのかい……?僕が君たちのこれまでの事を無駄にする様な事を吹き込むかもよ?あくまで僕は協力者だ。仲間じゃない。それは知っての事だよね」
「んなこたあ分かってんだよ。だがこれはお前らにとっても大事な事だぜ?もし俺ら反逆者が女神を殺さなきゃこの世界はいつか終わる。それも女神の気まぐれでな。そこを考えて行動しろ。まぁお前とお前のお友達で女神を殺してくれるならそれはそれでいいけどな」
結局は僕はこいつらの不利益になる事は言えないのだろう。頭では犯罪集団だと分かっていてもその有能性も分かってしまうから。行動と思想が一致しない。出来るなら次の過去の自分にはせめて反逆者たちと関わる事が無い様に第二王女には伝えよう。それが最善かは分からないけどきっとその時僕の隣には頼れる相方が居る。いざって時は丸投げでもいいかな。
「分かったよ。それで良い。僕は僕にできる事をしようじゃないか。勝てばそれですべて解決だろ」
そうヘルメスは全てに了承し覚悟を決めたのだった。