忘失
「ちょ、ちょっと待ってくれよ‼」
咄嗟に出た言葉に皆が止まり視線が集まる。そんな事も気にせずにヘルメスは言葉を続けた。
「何が何だか全部分からないよ。君たちは一体何者なんだよ。僕が部外者だから説明できない事があるのは分かるよ。それでも僕に隠し事が多すぎないかい?これじゃあ僕は君たちを信用できないしこれから付いて行く事はできないよ」
「君たちは何者なんだい……」
それについて考えた事はあった。彼らの正体について。反逆者などと吹聴し犯罪行為を繰り返す。ただ矢鱈滅多らに犯罪を行っている訳では無く何かの目的を持ち、それを使命の様に動く。
ただの犯罪集団ならヘルメスは協力者にはならなかっただろう。ヘルメスはシーフを生き返らせる方法を探していた。覚悟はあった。それでも犯罪集団に与する選択肢は無かった。そんなとき現れたスカルという男。目的を持ち動く集団。ある意味、真摯とも言えるその姿勢に魅せられ協力者ならと門を叩いた。犯罪を正当化するつもりは無いがそれでも協力者としてなら付いて行ってもいいと思える程に。
それでも──
「僕は何も聞かされてない。これ以上は付いて行けないよ。それは君たちも困るんだろう?だから教えてくれないか。君たちは一体何なのかを」
ヘルメスの言葉に彼らの反応はバラバラでスカルはどこ吹く風で口笛を吹き、バニティーはだからと言ったと頭を抱え、レストは塔の外を眺め、トランスはニヤニヤと笑いながら眼鏡を弄る。そんな中シートスが口を開く。
「お前にそれを言わなきゃいけない理由は何だ?お前はお友達を生き返らせてやればいいんだろ、ってえな、おい」
「その言い方はねえだろ。シートス、お前まだそんな性格してんのかよ。だから何年も天涯孤独なんだよ。ハハッ」
へレアと呼ばれる少女がシートスの肩を殴り忠告する。シートスの半分ほどの体躯で彼と同等に渡り合う姿は異質であった。これはシートスの実力を身を以て体感した者だけが分かる事。
「ヘルメス、お前には悪いことしたな。お前の言う通りお前の力が必要だ。それにお前の友人を生き返らせるってのはまぁどっちにしてもできるだろ。こんなもんでいいか?」
シートスなんかよりよっぽど親切に対応してくれるヘレア。それでもヘルメスの警戒は解けない。自分でも説明できない恐怖にも近い感情。これを紐解くにはこの質問をしない事には進まないだろう。
「それは良かったよ。それで……君は一体何なんだい?」
何ともはっきりしない問い掛け。だがヘレアには伝わる。ここに居る全員が分かる。ヘルメスが何を聞きたいのかを。
「まぁそこだよな。私はヘレアだもんな。ヘルメス、お前が想像する神は何だ?どんな奴を想像する?」
目の前に餌を吊るされそれが取れない様なもどかしさ。真相に辿り着きそうな所ではぐらかされる状態にヘルメスも感情が爆発しそうになる。
「──っ!僕は──」
「ハハッ。分かってるって。急ぐなよ。これは大事な質問だ。ヘルメス、お前の神を言ってみろよ」
「僕は……女神様に会った事がある。それから言わして貰うと女神様は……思い出せない」
交わした言葉、貰った天啓。それは確かに自分の中にある。だがどんな姿でどんな顔をしていたかが思い出せない。
「ハハッ。会った事があるのは驚いた。となると話は早えな。ヘルメス、お前は私を今認識したな。それだとしたら思い出せないのは仕方ねえな」
「どういう事なんだい?」
「それじゃあそろそろちゃんと説明してやるか。シートス、お前それでいいな」
シートスが了承した事によりヘレアの語りが始まる。この世界における数百年の世界史が。