表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/129

親友だった者へ

アンリの亡骸の前で無感情のまま刀に付いた血糊を振り払う。

納刀し振り返り部屋を退出しようとすると入り口にはエリッシュが待ち構えていた。


「君の事を忘れていたよエリッシュ。ここまで誰にも会わずに来れたのは君が全員殺したからだね」


「ああ、そうだ。そうでもしないとお前を殺せないだろ?」


エリッシュは帯剣している片手剣を引き抜き剣先をヘルメスに向ける。

ヘルメスは知っているエリッシュの実力を。

迂闊に戦って無傷で帰れる保証は無いと知っている。

だからここは穏便に済むように話の流れを変える。


「僕は戦う気は無いよ。帰ろうじゃないか」


「帰る?どこに帰るんだ?お前の帰る場所じゃ無いだろ。もういい、殺す」


話を聞かず一方的に戦闘をする方向に持っていくエリッシュに対しヘルメスは全てを諦め覚悟を決める。


「僕は……シーフ君を生き返らせる為に君であっても殺す覚悟だよ?」


「死人に固執してる死人もどきに負ける訳無いだろ」


分かったよとヘルメスも腰に携えた刀を引き抜き正面に上段で構える。

エリッシュはヘルメスと12歳から16歳まで共に暮らし研鑽を続けてきた。

遂に一度もヘルメスが負ける事は無かったがそれから3年近くが経ち現状どうなっているかは分からない。

そんなエリッシュに幾ばくかの得体の知れないものを感じながらもじりじりと距離を詰めて行く。

この部屋はアンリの自室兼事務室だったようで来客用の椅子や机などが並んでおり空間に余裕が無い。

一撃必殺が得意なヘルメスに取っては不得意な地形と言える。

得意のスピードを生かせず寸法の長い刀を振るには障害物になるものが多いこの空間はやり辛い。


「俺もお前もここじゃ戦い辛いよなあ?」


エリッシュは詰め寄るヘルメスに対し問い掛ける。

真意が読めず首を傾げ言葉の意味を黙考する。

だが直ぐにその意味を知る。


「魔力を翠色の刃に変換し我が剣に集え」


エリッシュの詠唱に周りの魔力が反応し変異していく。

鮮やかな緑色の刃が無数に生まれエリッシュの持つ剣の周りに浮遊する。

ヘルメスには良く見慣れた光景だ。

付与魔法と呼ばれるこの世界で唯一の詠唱型魔法。

エリッシュがヘルメスとの修行で使う事が多かった魔法。

その威力をヘルメスは知っていた。

ここで放てばこの部屋を崩壊させる事ぐらい可能な威力だろう。


「エリッシュ!待て──」


全てを言い終える前にエリッシュは風の刃が付与された剣を振る。

そこから放たれた無数の風の刃はヘルメスの足元に着弾し爆風を起こす。

ヘルメスはそれを回避する為飛び上がり後退するがそれを許さず残りの風の刃をそこに向けて剣を振る。

窓や壁に風の刃が着弾し崩壊する。

ソドムの町の一等地に建つ屋敷の3階に位置するこの部屋が崩壊しそこから爆音が鳴り響く。

そんな事が起きればそこに住んでいる住人や衛兵などが騒ぐ訳で屋敷の辺りには人だかりが生まれる。


「どうするんだい?こんな事してスカルも言っていたじゃないか。僕たちが表に出る事は好ましく無いって」


「知らねえよ。なら殺して逃げれば覚えてる奴も居なくなるだろが。だからよ、中途半端な気持ちでこっち来るんじゃねえよ」


落ちるところまで落ちたとかつての友人に失望し何も言えず襲い掛かって来るエリッシュに対し短剣で対応する。

ヘルメスは普段使い慣れている長物も片手剣と渡り合うには不利な為扱う事も出来ず決め手に欠ける。

対するエリッシュも3年間の研鑽を超えてなおヘルメスに実力は届かず勝機は見えない。

そんな戦闘はどちらに傾く事も無く淡々と行われていき決着はつかない。

いい加減屋敷に集まって来る人も増え衛兵が誰も応答しない屋敷に突入しようとする寸前その戦闘に終了を促す声が双方に聞こえる。


「目を離すとこれなんだから困っちゃうよねぇ」


半壊された部屋のかつて扉があった場所にスカルは居た。


「もうこんな人だかりが出来ちゃってさぁ。バレずに逃げるのは難しいだろうねぇ。どうするの?僕の天啓は使いたくないんだけどなー」


「興覚めだ」


エリッシュから殺意が抜け片手剣を鞘に戻す。

だがここに消える事の軋轢が出来てしまった事は想像に難くないだろう。

そんな二人の仲を保つかの様にスカルが話を進める。


「本当どうしようかねぇ。いやこれしか無いか。はぁ、じゃあ僕がここに来た方法で抜け出すから付いて来て貰える?僕ってこの天啓あんまり公表してないから内密にねぇ」


「……」


「内密にって君たちの仲間にもかい?」


ヘルメスはそんな訳無いだろと一蹴され笑われてしまう。

スカルは裏口から侵入してきたと言う。

その為今は屋敷内を3人で行動するが所々に惨殺された屋敷の使用人が見受けられヘルメスは目を覆いたくなる。


「こんな事日常茶飯事だろ。人も殺したくないのに俺らの仲間になりてえだなんて笑えるぜ」


横に居るスカル野方を向くと手を横に振り否定をしていた。


「僕とかは必要以上に殺してはいないよ。やってるのはそれこそエリーとかトラとかだけだねぇ」


「それは君たちは罰したりはしないのかい?」


「いやいやいやぁ、勘違いしないでくれよ。必要以上に殺さないのは事態を大きくしないためだよぉ?必要とあればこれ以上に殺す。それだけさ、やり方の違いぐらいじゃ文句だって言わないねぇ」


「そうだった。君たちは悪人だったね」


「どうせなら反逆者がいいなー」


どうもスカルの態度に気持ちが緩んでいたらしい。

ヘルメスは自分が最悪の所まで行かない様にと協力者という立ち位置に自らを置いている。

そこの線引きをあやふやにしてしまえば人で無くなる。

そんな気がしてならないのだ。

誰かを殺せと言われれば殺しはするがそれ以上の被害は出さない。

命令で仕方なく殺すだけの形を取りたい。

この思考がどれだけ歪んだものなのかヘルメスは気付かない。

だがヘルメスはその間違った線引きを忘れてはいけないと今一度心に決め歩き出した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ