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昨日の敵は今日の協力者

遥か天空、雲の上に存在する塔にてヘルメスはかつての敵スカルと共に行動をしていた。

そして彼らはこれからもう一人の敵であったバニティーを迎えに行く為に転移術式を使おうとしていた。


「シートスで良いんだったよね」


「ああ、構わねえぜ。俺らに敬称なんていらねえさ」


「ならシートス。ここはどこなんだい?それを聞く前に気絶させられたからね。僕には分からないんだ」


脳裏でずっと疑問に思っていた事。

雲一つ無い空気の薄い場所、ここは一体どこなのだと。

転移して来たからには王国より遠い所なのだろうか。

ただ床には階段も無く侵入経路はどこにも無い。

空でも飛べない限りはここへ侵入する事は出来ないだろう。

その為の転移術式なのだ。

つまるところは帝国かも知れないし王国かも知れない、将又大陸を越えた未知の場所なのか。

答えは無くヘルメス自身もそこは分かっていた。

だがそんなどうでもいい質問をヘルメスはしてしまったのだ。

これ以上事を進めたくないから。


「ここは旧魔族領に造った反逆者の塔だ。魔人領に届くかもなって造ったんだが、んなこたぁ無かったな。だからこんな利便性のねえ造りなんだよ」


シートスはその凶悪な面に似合う様な大笑いで話を終わらせた。

そんな笑いを聞き流しヘルメスは自分が疑問に思った所を問い質す。


「反逆者のかい……?」


「俺らは事だよ。神への反逆者。それが指標で名称だ。気になった事はそれだけか?」


「いや……まぁそれでいいかな」


二人の話が纏まった所でスカルが前に出て手を叩きその場を占める。


「じゃあもう行きたいんだけどさぁ。おにーさん準備はいー?」


「ああ、行こうか。バニティーの所に」


スカルは部屋に複数ある魔法術式の一つに乗りヘルメスを手招きする。

ヘルメスは手招きに従い魔法術式に乗る。

スカルは手を床に突き魔力を操作し術式を起動する。

床に描かれた魔法術式は光り輝き部屋一杯に閃光が走る。

ヘルメスは前回の失敗を活かし発光の瞬間に目を瞑る。

再び目を開けるとそこはどこかの広い空間であった、が直ぐにその場所がただの空間では無い事に気付く。


「ここは屋敷かい?」


「よく分かったねぇ。誰のだと思うおにーさん?」


ヘルメスは辺りを見渡すがとても長い卓、豪華な椅子など屋敷の要素はあれど帝国には詳しく無い為正解を導き出す事は出来ない。


「僕は帝国には詳しく無いんだ。答えは何なんだい?」


「その言い方は帝国じゃないのなら詳しいのかなぁ?」


「……」


ヘルメスは無言で返事をする。

まぁいいよとスカルは楽しそうに笑いながらこの大きな部屋を出ようと入り口に向かい歩き出す。


「そんな堂々と行くのかい?」


振り向きざまにスカルは手をひらひらと振り


「ここは僕の庭だからねぇ」


と言って扉の無い大きな入り口を通って闇に消えて行く。

ここまで来たなら付いて行くしか無いと覚悟を決めヘルメスも歩き出す。

この屋敷の食卓かと思われる場所から出ると廊下は真っ暗で誰も居ない。

先の見えぬ程長い廊下を警戒しながら突き進むが所々に大きな部屋があるものの生活感は無くここまで広い屋敷を維持するのに必要であろう使用人なども見当たらない。

まるで廃墟、綺麗な廃墟というおかしな感覚をヘルメスに植え付けていた。

それから道なりに廊下を進み時折角を曲がりながら光が差すこの廊下の突き当りの部屋までやって来る事が出来た。


「遅かったねぇ。おにーさん、迷ったのかなぁ?」


ヘルメスからは見えない口から笑い声が漏れ出す。

だがそんな事が気にならない程この空間は豪華絢爛という言葉が似合う場所であった。

先の部屋とは比べるまでも無く広い空間と銀色を基調とした魔水晶で出来上がった装飾。

嫌味の無い豪華さと呼べば良いのだろうか。

広大な空間には玉座が一つあるだけでそれ以外は何も無い。

だがそれを無駄と思わせない程その玉座には圧倒的な存在感があった。


「ここは……王城なのかい?」


「第一声がそれじゃ失礼じゃないかしら?」


玉座に座りこちらを見つめる女、それが今回迎えに来た人バニティーであった。

この空間の入り口から玉座は遠く声が届き辛い為スカルとヘルメスは歩み寄る。


「久しぶりですね。バニティーさん」


「辞めてくれる?さん付けなんて気持ち悪いわ」


バニティーは心底嫌そうな表情でヘルメスの発言を煙たがる。


「じゃあバニティーここはどこだい?」


「おばさんの城だよねぇ」


バニティーの言葉を遮りスカルがが説明する。


「バニティーの城……?」


「ええ、何か不都合でも」


「いや、そうじゃなくて──」


「そうだよねぇ。だーれも居ないのに城だなんて可笑しいよねぇ。つまりここは廃城なんだよ。ずーっと昔に潰れた城。今はおばさんの魔法で維持だけはされてるけど誰も使ってないのさ」


またしてもスカルが言葉を遮り説明をする。

会話が途切れた所でバニティーが口を開く。


「それで貴方は私を殺しに来たのかしら?今更相方が死んだ腹いせにでも?」


「違うよ。それこそ今更さ。だけどそうだね、以前殺し合って君たちが狙っていた()を奪ったのは僕とシーフ君だろ。それを簡単に受け入れてくれるのかな?」


ヘルメスは以前からスカルの態度に対しても疑問を持っていた。

普通殺し合いをした相手と行動を共にするなんて無感情で出来るものなんだろうかと。

だがヘルメスは実際殺し合ったのはバニティーでスカルは傍観者だった事からそれには折り合いを付けていた。

しかし今対峙しているのは当事者であるバニティーである。

邪魔者であったかつての敵を易々と協力者にする事はどう思うのかそれを聞かない限り寝首を掻かれる心配が拭えない。


「そんな事気にしてないわ。私たち反逆者はある目標に向かって行動を共にする組織なのよ。それが達成出来るなら敵だって何だって使える者は使うわ」


異常者たちをここまで纏め上げるのはシートスの手腕だと勝手に解釈していたヘルメスであったがここでその認識を変えなければいけないだろう。

彼らは目標によって縛られ行動をしている。

彼らをそこまで動かす物とは一体何なのかヘルメスには伝えられてはいない。


「貴方には教えられて無いんでしょ?」


「さっき言ったよねぇ。記憶力も無いのかよバニティーおばさん」


バニティーは無言でスカルに向かって火炎弾を撃ち込む。


「危ないなぁ」


スカルの前でその火炎弾は消滅し魔力として霧散する。


「僕は君たちが何をしようが関係無い。言っただろ?僕はシーフ君が生き返るならそれだけでいい。そこから先君たちが僕たちの邪魔になるなら躊躇い無く殺すよ」


ヘルメスの負の感情が幻想的とも言えるこの空間に溢れ出す。

そんな殺気とも違う一種の圧に対してスカルとバニティーは平然と会話を続ける。


「まぁそれでいいんだよねぇ。おにーさんはさ」


「貴方の目標は私たちの目標と近くにあるのよ。だからお互いに邪魔にはならないわ」


ヘルメスはそんな風な二人にこれ以上何を言っても受け流されるだろうと諦める。

だがヘルメスにはこの二人に聞かなければいけない事が沢山あった。

それを聞くまではここを離れないと言わんばかりに床に腰を据える。

そんなヘルメスの思惑を感じ取り早く帰りたいバニティーは溜息をつくのだった。



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