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反逆者の根城

「おい、起きろよおにーさん」


泥の中で目覚めた様な倦怠感を身に纏いヘルメスは身体を起こす。

目の前には自分を殴りつけた男としゃがみ込んで肩を揺するスカル。

出会い頭に殴って来た男を目の前に落ち着きを保てる訳も無くヘルメスは後ろへと飛び退る。


「……僕たちは協力関係になるんじゃないのかい?」


「それはお前の態度次第に決まってんだろ」


凶悪な面を構えたその男は再び座っていた席へと戻りながらそんな事を言う。

一旦気持ちを落ち着けようと辺りを見渡すが周囲には青空が広がるばかりで何も無い。

それもその筈この部屋はある塔の頂上に造られ雲より高い空の中にある場所なのだから。

そして部屋には壁や窓、扉などは何も無くある物と言えば石で造られたと思われる卓と椅子、天井ぐらいなものだ。

寒々しく殺風景なこの場所で彼らはいつも何をしているのだろうか疑問は尽きない。


「僕は、こいつに勧誘されてそれを承諾した。それで終わりじゃないのか。他に試練や何かをしなければいけないのかい?」


男は面を愉悦に歪ませて語る。


「そんなものはねえ。聞いた話、こうなる前は俺らに歯向かってたらしいじゃねか。そこんとこ大丈夫なのかって話だよ。俺らは只でさえ人で不足だ。仲間だろうが協力者だろうが大歓迎さ。だが足枷はいらねえんだよ」


どうだろう、と考えてしまう。

本来であればスカルやこの男と協力関係になるのは死んでも御免だと思っていただろう。

だがシーフが死んだ現状、縋る物が無い現状で唯一の可能性が彼らである。


──僕は罪の無い人を殺す事が出来るのだろうか。それでシーフ君は喜ぶのだろうか


一瞬、良心がヘルメスの心の中に現れるが直ぐに消えて行ってしまう。

全て分からない事となってしまった今、生き返らせた後に判断をシーフに委ねようという思考が脳内を支配する。

既に壊れていてしまったヘルメスの思考は自制が利かなくなっていた。


「俺は愚鈍な奴が嫌いなんだよ」


深い思考に落ちていたヘルメスは顔を上げ声に反応する。


「だから仲間には迅速な返事、行動を徹底させてるんだがお前はどうなんだ。これで2回目だ。次はねえぞ」


男の殺気が溢れ腰の刀に手を伸ばしそうになるが気持ちだけで行動に移せない。

それだけの差がヘルメスと男の間にある事を示していた。


「一ついいかな。これから僕は君たちが何をしようとどれだけ人を殺そうとしても目を瞑ろう。必要なら僕に命令してくれてもいい。だけどこれだけは約束してくれ。シーフ君を生き返らせる事は可能なんだね」


男はスカルの方を向き目を細める。


「そういう条件で連れてきたんだけど駄目だった?」


「いや、構わねえさ。お前が約束したって事はそういう事なんだろ」


「そうだねぇ。約束したんだ」


意味ありげな会話を並べヘルメスに不信感を抱かせる。


「……本当なんだね?」


「ああ、いいぜ。何なら契約してやってもいい」


契約まで口にするなら本当に生き返らせてくれるのだろう。

それ程までに契約の力は絶対だ。

契約とは一種の魔法で互いの魂で結ばれるもの。

それは絶対の効力があり例え世界を越えようとその効果は発揮される。


「だが今は行使出来る奴が外に居るからな。また今度だ。それと一つ訂正させてもらおうか。俺らは無暗に人を殺してる訳じゃねえ。仲間じゃなく協力者だけのお前に詳しく教えてやる義理はねえから言わねえがそれだけは覚えて置け。ああ、まだあったな。最後に女神は敵だ。俺らのそれとお前のな」


女神が敵。

そんな事を言われてもヘルメスには意味が分からない。

女神は昔一度会っただけの人。

それ以上でも以下でも無い。

神が敵など彼らは一体何と戦っているのか。

他の人がそんな事をのたまえば妄言、虚言の類だと切り捨てる事が出来たであろう。

だがこいつらにはその発言を裏付ける事の出来るくらいの実力がある。

一体何の為の組織なのか、或いは──


「て事でおにーさん。仕事に行こうか。初仕事の時間だよ」


「もう僕を扱き使う気かい?」


ヘルメスは自傷気に苦言を漏らす。


「いやいやぁ。それについては了承してるはずだろー?それと今回は簡単な仕事だから気張るなよ」


時々彼らはどうしてこんなにも抵抗なく自分に接して来るのかが分からなくなる。

自分ならこうはいかないと考え込んでしまう。

昔ならこうも考える事なんて無かったのにと。


「僕に何をさせるんだい?」


「仲間のお迎えさ。おにーさんも知ってるだろ?バニティーおばさんの事さぁ」


どうせこれも仮面の下では笑っているのだろう。

声から滲み出る奸譎さからどうもスカルからは悪印象しか湧いてこない。


「僕は歓迎されないだろうな。その時はどうしてくれるんだい?君が助けでもしてくれるのかな」


「何言ってんだぁおにーさん。そんな昔の事気にしてる訳ないだろー?おばさんの記憶力じゃ忘れるかもねぇ」


アッハッハッハとスカルは仮面の下で愉快そうに笑う。


「まぁさ、おばさんは仕事が終わったばっかなんだよねぇ。だから回収してあげなきゃいけないんだ。だから帝国まで行くよ」


ヘルメスは心臓がドクンと跳ね上がるのを感じた。

帝国、それ自体には何の感情も無い。

だが帝国に彼女が居るという事には少し嫌疑感を覚えてしまう。

一体この時期の帝国で何の仕事をしていたのか。

今すぐにでも問い質したい気持ちが溢れて来るがこれを聞けばもう彼らとは関係を続ける事が難しくなる様に思える。

一時の感情で全てを流したくないヘルメスは感情を抑えその代わりに差し障りの無い質問を男に投げかける。


「……何て、呼べば良いですか」


主語も無い、要領を得ない質問。

そんなものにも男はしっかりと回答する。


「仲間からは主様だとかシートスなんて呼ばれてるな。まあ自由に呼べや。ここからは協力者なんだろ?」


ヘルメスは嫌な答え方をするとそう思った。

心を見透かされてる様なもう逃げる事が出来無い様なその回答にヘルメスはそうですかと声を出すのが精一杯であった。

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