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駐屯地の夜

「今日は本当に酷い目に遭ったよ……」


そうぼやくのはシーフの正面で夕食を食べるヘルメスだ。

二人は戦闘訓練の後自分たちの天幕にて配給された食事を取っていた。


「元はと言えばお前が人切を試し斬りしたいとか言ったからこうなったんだろ?」


「それはそうなんだけどね……」


シーフはどこか影の差すヘルメスの顔を見て言葉数を少ない理由を悟る。


「まだ俺に負けた事引きずってんのか?あんなの100回に1回の奇跡だろ。紅喰刀の力も隠して訳で次やっても勝つのはお前だろ」


何で俺が慰めなきゃいけないんだと思いながらもシーフはヘルメスに声を掛ける。


「まぁそうなんだけどね」


「認めるのかよ」


取りようによっては傲慢とも取れるその態度にシーフは苦笑いを浮かべる。


「一応僕の方が長く生きててそれなりに場数も踏んでるからね。それなのにシーフ君に負けたからね。もう守られるだけの子供じゃないんだなって感傷に浸ってただけだよ」


「まーな男の子がずっと守られてるだけなんてかっこ悪いだろ?」


「真理だね」


ヘルメスはハハハと笑いいつもの笑顔をシーフ向ける。

そうこうする内に食事も終わり食事のゴミを捨てる為に二人は天幕を出る。

外は暗く星々の光がはっきりと見える。

ゴミ捨て場まで少し歩いて行くと焚火の光が強くなりそれと共に兵士の声も大きくなっていく。


「凄い騒いでるな」


少し怪訝な声色でシーフはその集団を眺める。


「まぁそのぐらい許してやりなよ。ここからは死地だからね。こうでもしないとやってられないんだよ。ピラミーダ平原での戦死者は聞いてるよね?」


「そう言えば帝国兵のは聞いたけど味方陣営の話は聞いてないな」


「王国兵の総死者は2千だよ。決して少なくは無いけど善戦した方だね。大勝利だ。でもそれでも2千人は亡くなってるんだ。ここにいる人達にとって友人だったり同僚だったりした人がね。だからこういう日は必要なんだよ」


無理やりにでも気持ちを持ち上げないと心が折れてしまうのだろう。

そう思うとこの騒ぎもどこか空虚に感じる。


「てか死地って言ったよな。ルネートル城塞ってそんなやばいのか?」


「うん、そうだね。考えてみてもくれよ。城塞は対帝国用に作られている筈だろ?でも今ルネートル城塞は帝国側と王国側の両方から攻められてる状態だよね。本当にどうして保てているのか不思議なくらいだよ」


まさかルネートル城塞も王国側から仕掛けられる事を予想して建てられた筈も無いだろう。

城塞でありながらその機能を果たす事の出来ないルネートル城塞の片面。

それを支えているのは一体何なのか。


「だから死地か。どう考えても王国側に居る帝国兵は疲弊してないもんな」


「恐らくね。ここまで城塞が落とされていないとは言え劣勢な事は無いだろうね。つまりは──」


「絶好調の15万の兵と敗走兵10万の25万が待ち構えてると」


「そういう事になるね」


嫌な想定だが恐らくは現実になってしまうだろう。

ルネートル城塞を攻める帝国兵も一度こちらの追撃軍を倒しその後でゆっくりとルネートル城塞を攻める方が楽である。

帝国兵に時間の制約は無い。

時間を使われて困るのは兵糧攻めに遭っている王国兵だろう。


「なぁ勝ち目あるか?これ」


「常識的に考えてないね。だからフォータさんは少数精鋭で単独撃破をする作戦を立ててるらしいね」


「この前の俺らみたいにか」


「そういう事だよ。25万の相手なんて到底出来る訳が無いからね。敵将、幹部級の人だけを先に殺す。そして指揮系統が乱れた所を一網打尽にする……でも正直フォータさんも──」


「無理だと思ってるってか?」


シーフ君は頭の回転が速いねとヘルメスは感心する。

だがそんな悪条件でもやらなければ何も始まらない。

それにシーフと違いここに居る王国兵は国の為戦場に赴かなければならない。

その人達の事を考えると無理だ無理だと喚くのも何だが違う気がする。


「なるようになるか」


「そうだね」


「俺も強くなったしな」


「……そうだね」


天幕に戻る為少し前を歩き顔の見えないヘルメスはどんな顔をしていたのだろうか。

シーフにはその表情を見る事は出来なかった。






△▼△▼△▼△▼△▼△▼


旧指令室にて男は手紙の封に手を付ける。

手紙はたった今使い魔によって届けられた物だ。

男は小鳥の様な姿をしたそれに労いの言葉を掛け再び旅立たせる。


「どこへ行ったのでしょうか」


「どこでも無い、この世界では無い場所だよ」


男はそう端的に告げ途中まで開けた手紙の封を切る。

封が開けられると仄暗い天幕の中を銀色に染める様な光を出すウルスが現れる。

本来のサイズの何倍も小さな体躯をしたウルスは男の目の前の机に居付き微動だにしなくなる。

この不思議で幻想的とも言える状況に天幕内の二人は反応はしない。

男がひとしきり手紙を読むと鋭い目の端を緩ませ微笑を浮かべる。


「何か吉報でも?」


「そうだな。ルネートル城塞が未だ落ちない理由が分かったよ」


男はおもむろに手紙をウルスに差し出す。

差し出された手紙に向けウルスは鋭いかぎ爪を薙ぎ払いその身体を消滅させる。

手紙の方はと言うと引っかかれた場所から焼失を始め、ものの数秒で塵へと変わってしまった。


「いつ見ても便利な物ですね」


「まぁ私自身でも処理は出来るんだがね」


男はそう言うと指をパチンと鳴らし上に向けられた人差し指に小さな炎を浮かべる。


「そんな事は分かってますよ。何せ次期アルザース王なんですから」


部下の失言に男はきつく睨み付け忠告する。


「それは極秘事項だ。この空間に二人しか居ないとはいえ濫りに言うべき事では無いよ。まぁこの場に王の密偵が居る訳も無いがね」


「失言でしたフォータ団長。失礼します」


部下はフォータに向け頭を下げ天幕を後にする。


「……これで条件は揃った」


これからの展望に兆しが見えた事で男はつい口から独り言が漏れ出してしまう。


「ネロ王は私の命に代えても殺す。次期王はこの私だ」


少し短めですかね?

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