戦闘訓練
「なぁ何で俺は戦ってるんだ?」
「うん、僕のせいだろうね」
駐屯地の開けた場所でシーフは王国兵と戦闘を行っていた。
戦闘と言っても模擬戦、只の戦闘練習だ。
始めはヘルメスのこんな発言からだった。
「人切……これを扱うには相当修行が必要そうですね」
そうこれだ。
先程指令室として使われていた天幕にての会話。
それを聞いたフォータは駐屯地の空き地を貸すからシーフと修業したらどうだと。
「それに他の兵士達も君達の修業を見たら士気も鼓舞されるだろう。是非私からもお願いするよ」
「分かりました。それで良いかいシーフ君?」
「別に良いけど手加減はしないぜ。これでも少しは強くなったんだ。勝たせてもらう」
そんな感じでシーフとヘルメスの修業が決まった。
「それは良いんだよ。それが何で俺らの修業が全体まで広がってんだって話だよ」
「それはその後──」
ヘルメスはさっきまでの出来事を振り返る。
修業を兵士にも公開して行う。
そんな公開プレイみたい事をして緊張するかと思ったら案外そうでも無く集中すると周りの音は消え正面のシーフだけに意識が向いた。
「じゃあ始めようか」
「ああ」
シーフの短い言葉を皮切りに戦闘は始まる。
先制攻撃を仕掛けたのはシーフ、持ち前の機動力を生かしヘルメスの懐へと潜り込むいつもながら逆手に持った冥喰刀を首筋に向け振り上げる。
ヘルメスは頭を軽く後ろに反る事で難なく躱しシーフが左手に持つ紅喰刀の突きも人切の刃の腹で受け止める。
その流れのままヘルメスは人切をシーフに向け振り下ろす。
自らの重さで加速する人切の刃をシーフは高速で回避しヘルメスとの距離を取った。
「重くて振れないかも何て言ってた割に十分使いこなせてるじゃねーか」
「そんな事ないさ。まだこいつには振り回されてるよ」
最後の言葉のタイミングで今度はヘルメスから攻撃を仕掛ける。
ヘルメスは刀を上段に構えシーフに斬りかかる。
シーフは真っ向からその刃を受け止めるが超質量の刃をその細身で受け止めきれる筈も無く後方へ吹き飛ばされてしまう。
尻餅をつくシーフに対しヘルメスは容赦なく追撃を仕掛ける。
再びヘルメスは上段に刀を構え突撃する。
シーフはそんなヘルメスの足元に低い姿勢のまま蹴りを食らわし態勢を崩させる。
「危ないなぁ」
「勝負なんでね。隙は付くだろ」
「いやなものだね、少し前までは僕の足元にも及ばなかったのに」
「これでも全力の半分も出してねーよ?この程度で音を上げてちゃ話にならないぞ」
大きく地面を踏み込みシーフはヘルメスへと肉薄する。
限界まで引き上げた自らの身体能力を活かし2,3回転しながらヘルメスへ連続斬りを行う。
ヘルメスはそれを苦戦しながらも捌き切りシーフが息を整える為に作った一瞬の隙に懐に忍ばせて置いた短刀を投げつける。
足は浮き踏ん張りが利かないながらもシーフは空中で身を翻し短刀を回避する。
だがシーフが正面を向くとそこにヘルメスの姿は無く
「僕の勝ちだね」
膝を突き首筋に刃を添えられたシーフを見てヘルメスは勝ち誇る。
「──蜃気楼って知ってるか?」
勝利を確信していたヘルメスの背後からそんな声が掛かる。
シーフはヘルメスの後ろに立ち紅喰刀を背中に突きつける。
「どうして……シーフ君は僕の目の前に居た筈じゃ……」
ヘルメスが見ていたシーフの姿は無く試しにその場所を人切で斬るがそこにあるのは空気だけであり手応えは何もない。
「紅喰刀の力だそーだぜ。俺の魔力をそこに置き去りにして幻影を見せる能力。フォータさんから聞いてたんだ。お前も知らなかっただろ?」
ふぅと溜息を吐きヘルメスはその場に座り込む。
「まさかシーフ君に負ける日が来るとは思わなかったよ」
どこか寂しげな笑顔をシーフに向けヘルメスは五体を地面に投げ出す。
「いや、それで何で俺が近衛含め王国兵の模擬戦相手をやらされてるんだって話だろ?」
「それはあれだろ?僕達が戦った後周りで見ていた人達がシーフ君に自分たちも模擬戦の相手をさせてくれーってさ」
「ああそうだな。だからな?何で俺だけがやってるんだって話だ」
シーフは未だ地面に寝転がるヘルメスを小突いて問い質す。
「僕は6つも下の子に得意分野で負けたんだ。傷心の心を慰める時間ぐらい欲しいだろ?」
「うるせえ」
何だかムカつく物言いにシーフはまたもヘルメスは小突く。
今度は先より力を込めて。
「ほんとに動く気ねーのか?」
「ああ今日は疲れたしもういいかな」
「分かった」
シーフはヘルメスが梃子でも動かぬ事を確認し梃子を越える方法で強制的に動かさせる事を決める。
「おーい!お前ら!ヘルメスに勝った奴はフォータさんに掛け合って報酬出してやるぞ!」
シーフが勢いで言った言葉に報酬の中身は分からずともその熱量が伝わったのか兵士達の目に炎が燃える。
対するヘルメスはなんて事をとシーフを攻めるがそんな隙も与えぬ程兵士達はやる気を出してしまい模擬戦はその日日が暮れるまで続いた。




