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冥喰刀と紅喰刀

朝、目を覚ますと既にヘルメスは起きていて朝食の準備をしていた。

めっぽう朝が弱いヘルメスにしては珍しいなとシーフは気になるが朝食の準備をしてくれるのはありがたい。

起こしてくれるまでもうひと眠りしよう。


「シーフ君起きてよ」


本当に意識が飛んでいたらしい。

短時間とは言えすっかり二度寝をしてしまった。

さぁ朝食を食べようとシーフは起き上がる。


「もうお昼だよ?そんなに疲れてたのかい?」


「は……?いやさっき朝食作ってなかったか?」


「そんなのとっくに食べたに決まってるだろ?起こしても起きないんだからさ」


記憶にない。

シーフが起こされたのは体感でさっきの出来事だ。


「さっきフォータさんがお昼は一緒に食べようって伝えに来たんだ。だから準備して、行くよ?」


折角自分が朝食を作らない珍しい日だったのにと残念に思いながらシーフは支度をする。

シーフの服は昔リンガラで買ったローブである。

ローブにしては耐久性が高く重宝しているが戦争では甲冑、アーマーを着るのが通説だ。

だがシーフはそれを断りローブを着続ける。

俊敏性が高いから、それが言い分だ。

そんなローブを羽織り腰には二本の寸延短刀を携え支度は完了する。


「じゃあ行こうか」


「おう」


二人は天幕を後にしピラミーダ平原での戦闘中指令室でもあったフォータの天幕へと向かう。

5分も掛からず指令室であった天幕に到着し中へと入る。


「どうもー」


「フォータさんは居ますか?」


天幕に入ると副団長のリッターとフォータが席に着き二人の訪問を待ち構えていた。


「こんにちは。シーフさんヘルメスさん。お二人の活躍はかねがね。それを是非お聞きしたいものです。さぁ座って下さい。お昼にしましょう」


リッターに言われるがまま円卓の空席に二人は座る。

二人が座るとリッターは部下に声を掛け料理が運ばれてくる。

団長、副団長との食事とは言え何らいつもの配給と変わらぬ物が出て来る。


「同じなんですね」


「食事がかい?それはそうだろう。我々はそこら辺の卑しい貴族とは違うよ」


成程、フォータはやはり昨日のヘルメスの言葉からも分かる様にこの国の上層が相当気に食わないらしい。

今は笑って話しているが内心貴族や王に思う気持ちは相当思うものがあるのだろう。


「団長、言葉が過ぎますよ」


「まぁいいじゃないか。ここに敵は居ない」


敵は居ない。

帝国兵の事だけを指す訳では無いのだと何となく分かる。

この人は本気でこの国を変える気なのだろう。

シーフにとってアルザース王国などがどうなろうと興味は無いがフォータがこれから何を成していくのか、その結果何が起こるのかだけは気になるなと感じた。


「そうそう、シーフ君。君に渡した短剣はどうだったかい?使い勝手は」


「あぁ、とても良かったな」


シーフの使う短剣。

それはヘルメスから借り受けた物からフォータに貰った物へと変わっていた。

銘は


「冥喰刀と紅喰刀。妖刀と言われる逸品の使い心地は」


「ああ刃こぼれもしないし折れる事も無いし切れ味はずっと良かったな。てか散々使った後だけど良かったのか?こんなの貰って今の説明だと相当高価な物だったんじゃ」


「値段の話で言えば値は付けられない物だね。でもそのおかげであの戦果を挙げてくれるなら十分だよ」


ヘルメスはそんな様子を見てシーフに愚痴を溢す。


「僕の愛刀何て真っ二つだったのに。シーフ君ばっかり妖刀何て貰っちゃってさ。いいね」


「何拗ねてんだよ。俺には借りてた短刀しか無いんだから仕方なかっただろ?」


「ヘルメスさんでもそんな事を言うんですね」


リッターは微笑ましいものでも見たかの様に笑みを浮かべる。

リッター曰くヘルメスがそんな事を言うのは初めて見たらしい。

そんな初めて貰っても嬉しくないのだが。


「そうか、それならヘルメス君にも刀を渡そう。ルネートル城塞を攻める際刀が無ければどうしようも無いだろうしな」


「そんなつもりじゃ……」


「にやけながら何言ってんだお前。くれるってんだから貰えよ」


ヘルメスはうるさいなぁと照れ臭そうに反論する。

フォータは部下に何やら指示を出して外へと向かわせた。

暫くすると部下は一振りの刀を手に持ち戻って来た。


「これが今私が、近衛騎士団が所有する刀だよ。刀を使える者は少なくてね。これは余っていた様な物なんだ。だから気兼ねなく使ってくれ」


「いいんですか。ありがとうございます」


ヘルメスはフォータからその刀を受け取り鞘から刀を取り出す。

不思議な光沢を持ち鈍く光るその刃は銀色で圧倒的な存在感を放つ。


「近衛騎士団にも刀を使う者は数名ですが居ます。それでもこの刀は使われていません。理由はヘルメスさんにはもう分かるでしょう」


「ええ、重いです」


ヘルメスの手中で鈍い光を放つそれは今まで使っていた得物の何倍も重く感じる。


「銘は人切。ヘルメス君なら使いこなせると思うけどどうだい?止めておくかい?」


ヘルメスは決心したかの様に首を振り覚悟を決める。


「いいえ。使わせてもらいます」


「それは良かった。君なら十分に使いこなせるよ。それとその刀人を斬ると重くなっていくと言う言い伝えがある。私がその刀を手にしてから使いこなせる者は居なかったから詳しくは分からないがそういう事だ。一応覚えておいてくれ」


「はい」


人を斬る度に重くなる刀。

この刀がここまで重くなるにはどれ程の命を斬って来たのか。

分かる事はきっと来ないだろう。

それでもその重さを受け止めこの刀の主に相応しい男になろうとヘルメスは静かに決心したのであった。


めいろうとうとこうろうとうです。

刀はひとぎりですね。

どれも作中では強い得物です。

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