4日目の朝
二人の帝国兵はピレットに跨りピラミーダ平原で行われている戦争を迂回する様に駆けていた。
ここから戦場は見えない。
見えてはいけない。
気付かれてはいけない。
これはそういう作戦だ。
ピレットに跨る男はもう一人の男に話しかける。
「これが有効だと分かるんだけど、そんなに上手くいくのかな」
「いかなきゃ帝国兵の死体が二つ増えるだけだ。なぁ一ついいか?」
「どうしたんだい?」
「俺はさ、愛国心なんか一欠片も無いのよ。でも友人を救う為に帝国兵を殺す。俺にとっては只の殺人なんだよ。使命でも無くて私怨でも無くて仕方なく殺す。それってどうなんだろうな」
「大丈夫だよ。シーフ君は誰も殺さなくていい。僕が殺す。僕はフォータさんからシーフ君に言われなくてもこの戦場に来る筈だったんだ。それこそ国の為、国民の為、無能な王の尻拭いさ。だからシーフ君は友人を救う事だけを考えていればいいよ」
柄にも無くヘルメスがアルザース王国の王の事を厳しく批判するのでシーフは
「無能な王ってよく聞くんだけどどうしてなんだ?」
ヘルメスが色々といい事を言っていたのだがそこはすっ飛ばし気になる所だけを聞き返す。
ヘルメスは今の言葉の反応がそれだけかよと内心溜息を吐きながら答える。
「ネロ=インカーペデンス=アルザースは只の傀儡なんだよ。操り人形さ。国の重鎮、元老会や四大侯爵とかのね。最終判断と責任しか取らない、取れない。そんな王なんだ。今回の戦争も元を糺せば王国の侵略戦争だ。そのしっぺ返しを食らってるだけに過ぎない。だからこちらも反撃されたらそのままって訳にもいかないからね。国の愚かな選択にも従わなければいけない。」
「どうしようも無く腐ってるのか」
「そうだよ、だからシーフ君は僕の手助けをするだけさ。他の事は何もしなくていい」
「そっちの方が嫌だな」
何でだよ⁉という声を置き去りにしてシーフはピレットを駆ける。
今この顔を見られたら馬鹿にされてしまうから。
3日目の夕方から夜通し駆けたお蔭で目的地に到着する事は出来た。
辺りには日が昇って来ておりピラミーダ平原では戦闘が始まろうとしていた。
シーフがやるべき事はゆっくり睡眠をとって身体を休め作戦を遂行する事だ。
その為近くの洞窟に拠点を作る。
拠点と言っても大した物は無くただ火を起こし魔物除けを施すだけだ。
寝具など無い為固い地面で睡眠を取る事になる。
何ご飯と呼べば良いのか分からない食事を済ませ二人は寝る準備を始める。
横になってから暫くしてシーフからヘルメスに声を掛ける。
「なぁ寝てないだろ」
「起きてるよ。どうしたんだい?」
ヘルメス反対側を向いたまま返事をする。
シーフは構わず話を始める。
「俺がさ、お前に言おうと思ってることがあんだよ。ずっと言いたかったけど何となく言えなかった事なんだけど。今聞きたいか?」
「そんなに聞きたくなる言い方して言わないなんて事があるのかい?」
「そう言われると言いたくないな。やめだやめ、今回の一件が片付いたら話そうぜ」
「生殺しじゃないか……そんなのってないよ」
シーフは目を閉じ寝返りを打ちヘルメスと背中合わせになる。
「そう言えばこんな悪環境で寝た事あったよな。ウェスト領まで行く道中の時洞窟でさ。なんであんな所で寝たんだっけな」
シーフが思い出し笑いをしていると後ろから恨めしい声が聞こえてくる。
「……あれはシーフ君のせいだろ。大雨が降ってたのに簡易寝具と天幕を床下に仕舞わないで吹き曝しにしたからじゃないか。覚えてないのかい?そのせいで寝具を乾かさなきゃいけないから洞窟を探して乾かしながら寝たんだろ。あれは大変だったよ。そうだよ!しかも次の日起きたらシーフ君がウルスに連れ去られていたじゃないか。洞窟の奥にあれはホントに焦ったよ」
随分古い記憶を引っ張り出して来るんだとシーフは苦笑いを浮かべる。
「焦ったのは俺の方だぜ。起きたらでっかい魔物に引きずられれてよ。あれはマジで食われると思ったね。巣まで着いたら7匹も居たからな」
「そうだよ。引きずられた後追って行ったらウルスが7匹も。僕だって人質取られて7匹はきついよ」
「まぁそれでもお前に3匹ぐらい瞬殺されたら俺なんて見向きもしないでそっちに向かって行ったけどな」
「お蔭で簡単に狩る事が出来たよ。あれはあれで素材にもなるし食糧にもなるし結構助かったけどね」
そうだろとシーフはドヤ顔をする。
その後も焚火だけが光る暗い洞窟での会話は続いた。
どちらが先に寝たかも分からない。
同時だったかも知れない。
自分の方が早く寝たかも知れない。
でもそれは昔の記憶今となってはどうでもいい事だった。




