閑話
男は伝令用に調教されたピレットに乗り駆ける。
もう仲間は居ない。
男ただ一人でこの使命を果たさなければならない。
失敗は許されないのだ。
男が死ねばこの国は終わる。
追手は三人。
初めから比べれば随分と数を減らしたものだ。
これも全て仲間の命のおかげである。
男を生き延びさせる為に散っていった命は数知れずその重みを身体に感じながらも駆ける。
もう魔力は底を尽き追手を殺す事は出来ないだろう。
だがそれは相手も同じアルザースの領地にここまで侵入して来たからには生きては帰れない。
それでも相手の駆ける速度は変わらない。
必ず任務を遂行すると言う鋼の意志を感じる。
「……よし」
男は小さく呟いた。
だがそれと同時に追手の三人は死力を絞って魔法を撃つ。
何故ならばここで仕留めなければ男の勝利となるからだ。
彼らの前にはアルザース王国王都の城門が見えていた。
三種類の魔法は全て男を照準に据え被弾しようとしていた。
着弾の瞬間男はピレットから飛び降りそれを避ける。
男はもう動く事は出来ない。
全ての力を使い相棒のピレットの命まで捨てて生き延びた。
程なくして城門から魔法の爆発を見た守衛がやって来る。
「おい、大丈夫か。所属は、あいつ等は何者だ」
「そんな暇はない……今すぐ王城へ。王国の窮地だ……」
男の鬼気迫る表情とその声にこれはただ事では無いと守衛は男を王城へと連れて行く。
王城に着くとボロボロなその身体を引き摺って玉座へと向かう。
豪華絢爛なその扉を開き男は跪く。
「無礼な!王の御前であるぞ!」
位が高いのだろうか。
この一大事にそんな事気にしていられるかと男は声を振り絞り
「伝令!伝令!帝国兵およそ30万王国領地に進軍しております」
その声に玉座の間に居た重鎮たちが騒ぎ出す。
「どういう事だ。ルネートル城塞で籠城戦をしているのではないのか」
「そうだ。それが何故」
「城塞を突破されたのか」
口々に話す重鎮の声を無視し男は再び声を上げる。
「ルネートル城塞は未だ籠城戦を行っています。まだ戦況は変わらないでしょう。ですがルネートル城塞より王国領地側の海岸より帝国兵30万が襲来。これが今半数に分かれ片方が城塞を裏から叩き片方が王都に向け進軍中です。現在ノウス侯爵の私兵軍と交戦中ですがこちらは時間の問題かと」
伝令を伝え男は意識を失う。
男はその力の抜けた身体を床へと打ち付けそうになる。
だが後ろから伸びてきた腕に止められる。
「ここまでよくやった」
そう声を掛け王城の使用人に後を任せる。
伝令により半狂乱になって騒いでいる重鎮たちを見て溜息を吐く。
その中を堂々と歩き王の目の前まで来たところで跪き
「国王につきましてはご機嫌麗しゅう。近衛騎士団団長フォータ=パーシヴァル登城致しました。ここは私に全てお任せいただけないでしょうか。騎士団総出で事の対処に当たります」
その声に玉座の間は静まり返る。
次の王の声を拝聴する為に。
「ふむ。良いぞ」
そう一言フォータに告げる。
それはこの戦争の全権がフォータに移った瞬間であり重鎮の中には快く思わない者も居た。
だがここで声をあげる者は居ない。
何故ならここで異を唱えれば自らの兵をこの戦争に出兵させなくてならないからだ。
そう考えるとここは黙るしか手段は無い。
「国の一大事に──」
フォータが去り際に呟いた言葉は誰にも届く事は無かった。
これで2章が終わりました。
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