街の診療所
探知の場所へ向かう中俺はある事に考えを巡らせていた。それは天啓保持者にどうやってこの現状を説明するかだ。天啓が散らばってから十二年それはそれは長い間自分のものとして使ってきた天啓、それをある日やって来た男に奪われる。これでは只の犯罪だろう。天啓に法があればの話だが。こんな説明どうすればいいんだと女神を呪いたくもなって来る。無言で強奪可能とはいえいきなり天啓が使えなくなってしまったその人は今後の生活に支障が出るのではないか。そんな事を延々と考えていた。
「なんて言って返して貰おうかな……」
この先の展開に少し嫌気が差す。
考え事をしていると周りが見えなくなるものでふと顔を上げるとリンガラの中央広場に辿り着いていた。この広場から大通りを進むと道が沢山派生して伸びておりそこを行くと所狭しに建物が並んでいた。やはり異世界は中世の雰囲気があるものなのか。昔の建物を詳しく知る訳では無いがそんな気がした。
道なりに進んで行くと建物が民家群へと変わり一気に生活感ある雰囲気を醸し出していた。その中の入り組んだ道を数回曲がって進むと目的の場所に到着した。
目的地には人だかりが出来ていていい目印になっている。
「どうも。ここは何の集まりなんだ?」
「知らないでここに来たのかい?診療所だよ」
貫禄のあるじいじが応えてくれる。辺りをよく見てみると年齢層は比較的高齢が多くなるほどここが診療所と言われればそうだろう。前世から病院には老人が集まるものだ。
さて天啓保持者はこの奥か。
診療所の奥に探知は反応している。想像するにここの院長などだろうか。すると診療所内から若い女性の声が聞こえてくる。
「どうしたんですか?次の方いいですよ……あれ?見ない顔ですね」
腰まであるピンク色の髪をなびかせ少女は首をかしげる。
「新顔はそんなに珍しいのか?」
「そうですね。ここは地域の方しか利用しないですから。ここのみんなは大体人見知りよ?」
「まぁ暇でふらふらしてたところでな。人だかりを見つけて寄ってみたんだ」
「そうですか。それなら丁度良かったです。今包帯が切れてて後で買いに行こうと思ってたんですよ。ご老体には頼めませんし君なら元気そうだしね」
「いいけど……初対面で随分だな。いい性格してるぜ」
少女は屈託の無い笑顔ででしょとだけ言い残し診療所内へと消えて行く。なんて感じで体よく使われてしまった。俺もいきなり大本命が出て来るとは思わず動揺してしまった。そうで無ければ余計な嘘なんて吐かなくて済んだしおつかいもしないで済んだだろう。
第一関門の天啓保持者を見つける事は何の問題も無く済んだ。あの少女がその天啓保持者だ。近づいてみて再度確信した事だが天啓自体の能力は探知では分からなかった。つくづく使い辛い天啓だ。だが予想は出来る恐らくは回復系の天啓なのだろう。だが回復魔法は珍しいと言っていた。それに包帯が必要という事は違うのだろうか。結局包帯を買いに行くまでに結論は出なかった。
「はい、四百ザースよ」
両親から旅の軍資金として貰っていたお金で支払いを済ませる。
この国ではお金の単位に国名のアルザースから取ったザースを採用している。感覚としては円とあまり変わりないように思える。だが正直この世界で暮らしてもう十二年、昔の感覚も今では遠い記憶となってしまっている。少しぐらいの誤差はあるかも知れない。
この町の景観を見ても世界を渡ってきた感動は感じない。死んだ瞬間この場所に来ていたら今とは違う感覚に陥ることはあったのだろうか。空は朱色に染まり道の端に立つ街灯がちらちらと点き始め夜が始まる中、来た道を戻りながらそんなことを考えていた。
街灯は魔道具です。地下脈を通る魔力を吸い取って灯りを灯しています。