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最悪の報告

リンガラの守衛に事情を話し盗賊の回収を依頼し町内に入る。

町内は以前来た時と違いどこか緊張した様なひりついた空気が漂っていた。


「いつもこんな雰囲気なのかの?」


何かおかしい雰囲気を感じ取ったエナベルは客車の中でシーフに問う。

シーフはそんな事は無いと言いヘルメスに診療所の位置を伝え急ぐ様に伝える。

何か分からないがシーフは嫌な予感がした。

勘違い、気のせいであってくれと願うがそう都合よく世界は回らない。

診療所に着くとかつて世話になったケイアの姿は見えずもぬけの殻であった。

少し離れた所に見知った顔が口論している様子が見えたのでシーフは客車を飛び出し話を聞く事にする。


「なぁ!ケイアはどうした?」


ただ、店に居ないだけそれだけの事なのに何故かシーフは心に焦りを感じ強い口調になってしまう。

急に話し掛けられた集団の人々は驚きなんだと口を開きかける所で話し相手がシーフだと分かり表情を一変させる。


「シーフじゃないか」

「ん、昔居たガキか」


「そうだよ。それよりケイアはどこに居るんだ」


シーフはケイアの所在を問い質す。

だが人々の表情は芳しく無く曇った顔で誰も話し出そうとしない。

シーフは長く待ってやる事が出来ず声を荒げそうになるが集団で一番貫禄のある爺さんが出て来たところで口を噤む。


「坊主か。久しいの」


「そんな事は良いんだよ。どうして誰も話さない。死んだとか言わねーよな?」


「分からぬ」


爺さんの言葉に衝撃を受け眩暈がする。

だがあと少しの所で持ち直し爺さんに再び問い質す。


「どういう事か説明してくれ」


「ルネートル城塞が包囲され籠城戦になっとる事は知っとるな」


「は、どういう事だ。知らねーよ。そうじゃなくてケイアの事を──」


「急くでない坊主。まず5ヶ月前ケイアは戦場へ徴兵された。貴重な回復術士としてな。そして2ヶ月前戦況は劣勢となり籠城戦を強いられる事になったのじゃ」


「おい、じゃあまさかそこにケイアが居るのか……」


「そうなるの。だから生死は不明という訳じゃ」


「じゃあ今揉めてたのは」


「そうじゃ。ケイアを助ける為に義勇軍に参加するか否かで話し合っておった」


ケイアはこのリンガラの町では有名で人気、いや両親が他界している事もあって皆の子供の様な扱いを受けていた。

この言い争いもそれだけケイアが町民に愛されていた結果だろう。

リンガラの領主ランバート伯爵にも認知され匿われていたはずだ。

そうだ、何故ケイアが戦場に……どうして存在がバレたのだ。


「なぁ領主もケイアの事は黙認していた筈じゃ無かったのか。どうして存在がバレた?あの領主が国差し出したってのか」


爺さんは首を横に振りその様な事領主様は決してしないと言い切る。


「スラスト侯爵によってじゃな。どういう訳か存在が知られておった。戦況が劣勢な事を理由に有能な戦士は戦場に赴くべきだと言い強制的に連れて行かれたのじゃ」


そのタイミングでヘルメス達もワーゲンを置いて来てから追い付いて来た。


「スラスト侯爵はイースト領の領主だね。最近前領主が殺害されて新しくなった人だよ」


「まぁそれはいいとしてルネートル城塞が籠城戦してるのが2ヶ月前だろ。やばくねーか」


シーフの表情は焦りの色が濃くなる。


「そうだね。まず帝国がここまで攻めの姿勢を見せている事自体が危険だよ。なにせこの戦争は王国から始めた侵略戦争だ。それなのに王国が劣勢……帝国は本気で攻め滅ぼす気かも知れない」


ヘルメスは尻すぼみに声を潜めシーフに耳打ちしてくる。

なんで侵略戦争だって知ってるんだよと突っ込みたくなるがそこは我慢しシーフはヘルメスに問う。


「じゃあルネートル城塞はもう駄目か……」


「いや、あそこは籠城戦に入れば半年は持つ設計になっている。だからまだ大丈夫な筈だ」


だから何で知ってるんだよを飲み込んで状況を考える。

半年は大丈夫という言葉を信じるなら後3ヶ月の猶予がある。

だが今から向かったとして王都までの距離で3ヶ月掛かった記憶がある。

それでは間に合わない。

いや、そもそも俺が助けに行ったところで何の解決にもならない。

ヘルメスの様に力は無い。

そしてこれは個人的な問題。

自分が世話になった人を助けたいと言うエゴ。

それに二人を付き合わせる訳にはいかない。


「ヘルメス、今すぐ王都に向かってくれ」


「ねぇ、シーフ君。そんな顔して一人で行くつもりかい?」


「え……そりゃお前には関係ないだろ……」


そんな事無いよとヘルメスは少し怒った表情を見せ直ぐにシーフに微笑みかける。


「僕は友達が困ってるのを見捨てるほど薄情じゃないさ。この前はエナベルちゃんに酷い事言ってしまったけどね。二人が困ってるなら僕は必ず力になるよ。ほら急ぐよ」


力強くそんな事言うヘルメスの背中は頼もしくいつもより大きく見え


──女だったら惚れてるな


そんな感想を抱くのだった。


「客車は切り離して行こう。ピレットだけで駆ければ大分早く着くはずさ。幸い子供二人と大人一人なら余裕で乗せられる。行こう」


そんな中ピレットに乗る二人を下から悲しそうな悔しそうな顔で見上げる姿が一つ、そこにはあった。


「儂は行けないのじゃ」


唐突に告げられた言葉。

ヘルメスが無条件に付いて来てくれる事で忘れかけていたがこれはシーフ自身の問題であってエナベルが付いてくる筋合いは無い。

それでも聞かずには居られなかった、何故と。


「どう……して?いや、違う。悪かったごめん。流石にここまで付き合いきれないよな」


「そうじゃないのじゃ!今の儂が行っても只のお荷物なのじゃ。でも必ず戦場には向かうのじゃ。だから待っといてくれ」


そう言い残しエナベルは走って路地の中へと消えて行った。

エナベルは行けないと言った行かないでは無くそこに意味は無かったのかもしれない。

でも最後居なくなる時の顔を見た二人は


「じゃあ二人で行こうか」


「あぁエナも後から来るって言ってたしな。あいつが来る前に全部終わらせてやろうぜ」


そう声を出し王都へとピレットを走らせた。

王都に着くまでの間エナベルの話は禁じられているかの様に話題には上がらなかった。


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