すれ違う想い
「なぁ思ったんだけどこの襲撃って闇ギルドの差し金なんじゃねーか?」
シーフは淡々と盗賊達の相手をしながら隣のヘルメスに問う。
ヘルメスは盗賊の一人を無力化したところで
「んーどうだろうね。ウェスト領に行くまでもあっただろう。それに僕たちにそんな執着する意味が分からないじゃないか」
それもそうかと浮かび上がった疑問を投げ捨て再び盗賊に短剣を向ける。
ヘルメスから借りたままの短剣だ。
一通り無力化し縛り上げ街道の端に並べて置く。
後でリンガラの衛兵に回収に来て貰う為だ。
「呪いのワーゲンじゃな、全く」
客車に隠れていたエナベルが外が片付いたと見て顔を出す。
「パーシヴァル家の紋章外せればなー」
「駄目だよ。折角僕の為に作って貰ったんだから」
「でも他のワーゲンだったらこの旅、半分ぐらいの期間で行けたんじゃないか」
シーフの鋭い指摘にヘルメスは顔を引きつらせたじろぐが何か思いついた様で手を叩き
「ほら、ウェスト領までの道あの速度じゃ無かったらエナベルちゃんとは出会えて無かったろ?」
「まぁそうだけどな。そう言えばスカルとバニティーは闇ギルドの一味だったのか?あいつらは結局何者なんだ」
「それは……エナベルちゃんが一番知ってるんじゃないかな」
ヘルメスの視線は鋭くエナベルを貫く。
これはヘルメスがずっと気になっていた事だ。
彼女は一体何者なのか。
時折見せる知識の片鱗、どこか古めかしい口調。
見た目と相反する言動に翻弄されたと思えば年相応の行動を見せる事も多い。
この旅の中で一体何者かと問い質す場面はいくつもあった。
それでも彼女はのらりくらりと話をはぐらかし真相に辿り着ける事は無かった。
旅に同行する理由も曖昧で敵対意志が無い事からなあなあになっていたが今ここで問い詰めなければもう好機無いとヘルメスは考える。
「儂か?儂は家で寛いでいたらあやつらが襲撃して来ての。お父様に纏めて追い出されただけじゃぞ?」
エナベルはいつも通りヘルメスが聞きたい言葉を発しはしない。
「おい、ヘルメス。エナが闇ギルドと繋がってるって言いたいのか?その言い方はいくら何でも酷くないか」
いつもの温和なヘルメスから出たとは思えない棘のある言葉にシーフは怪訝な顔をしながら注意する。
「本気じゃないさ。でも自分の素性を明かさずに……同行を許可したのは僕達だけどエナベルちゃんが来てから闇ギルドとの関係が深くなっただろ?疑ってしまうのも無理は無いと思うよ。それだけ言ってもエナベルちゃんは僕達に話す気は無いみたいだしさ。内通者で僕達の位置とかを──」
シーフはヘルメスの物言いに怒り胸倉を掴み詰め寄る。
「人に言えない事情だってあるだろが!そんな事も分からないのか?俺はお前がそんなに心が無い奴だとは思わなかったぜ」
「やめるのじゃ。シーフ、悪いのは儂じゃ。だから──」
「こんなガキを泣かせて楽しいか……?ヘルメス」
その言葉に口を真一文字に結びシーフの口撃にも堪えていたヘルメスだったが溜まらず感情を吐露する。
「僕は……君たちに危険が及ばない様に考えて……いつ襲撃されるかなんて分からないからね。出来るだけ道も選んで進んで来た。それでも襲撃は止まらない……次来るのがテーセラの同等の力を持っていたら僕では守り切れないかも知れない……少し疲れていたのかも知れないね。ごめんよエナベルちゃん、こう言う言い方をする気は無かったんだ」
シーフも旅を始めた当初よりは強くなり盗賊の撃退も参加するようになっていた。
それでも比率は大分ヘルメスに偏っていてシーフは子供の手伝い程度のものだった。
エナベルは戦闘には参加せず客車に留まっている事が主でヘルメスに頼っていたのは事実だった。
責任感の強いヘルメスは二人を守ろうと日々奮闘し対処してきた。
それが分かるシーフはもう何も言えなかった。
「分かってるのじゃ。儂が不安要素になっている事は……それでもこの生活が変わるのが怖くて」
「いいんだ。僕も感情的になりすぎた。その顔を見ればエナベルちゃんが敵な筈無いってね」
ヘルメスはいつも通りの優しい顔でエナベルに声を掛ける。
対してエナベルの表情は晴れず
「それでも今言う訳にはいかないのじゃ。でもいつかちゃんと話すのじゃ」
「ごめんねエナベルちゃん。僕にも言えない事はあるんだ。それなのに人には言えなんて可笑しな話さ。リンガラに着いたら好きな物を買ってあげるから許してくれるかな」
ヘルメスは照れ笑いを浮かべながらエナベルの顔を覗き込む。
エナベルは先の暗い雰囲気を吹き飛ばす様に破顔し
「仕方ないのーそれで許してやるとするか」
と笑って見せた。
「まぁ、悪かったよ。お前に頼りきりだったのは認める。でもこーゆーのは今回だけにしろ。俺にも相談しろよ。例えばエナがやばい悪党だと思ったりしたらな」
そう言ってヘルメスの肩を強く叩きシーフは笑って見せる。
思いの丈を吐露しスッキリした表情のヘルメスは御者席に颯爽と乗り込み
「ほら、置いて行くよ」
と二人を急かす。
リンガラで何が起こるとも知らずに。