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緩やかな時間

シーフを乗せた船は三匹の水竜を乗せて帰還する。

今日の仕事はもう終わりだとセルヴァに言われシーフはエナベルが働いている小屋へと向かう。

小屋に入るとおばあ達と楽しそうに仕事をするエナベルとヘルメスの姿が見えた。


「おい、なんでお前まで楽しそうに働いてるんだよ」


入り口からのその声に二人はシーフの存在に気づいた様でエナベルは笑顔で手を振りヘルメスは不満顔を浮かべるという双極な対応であった。


「まーた僕を置いて二人でお出掛けかい?漁港の手伝いするなんて聞いてないんだけどな」


シーフはどれだけ寂しがり屋なんだと声には出さないが溜息を吐く。

そんな様子にヘルメスは


「別に仲間外れが嫌なんじゃ無くてね……子供二人だと危ないだろ?」


などと反論する。


男のツンデレの需要なんてこの世界には無いぞ


「子供じゃねーぞ。もう13歳だ」

「儂だって26歳じゃ」


エナベルの虚言癖はいいとしてシーフはこの旅を村を出てから早一年が経っていた。

旅の途中大体ウェストに居た頃だろうか。

特にシーフは気にもして無かったので忘れていたのだが不意に思い出した。


「出会った頃は第一成人したてだったのにね。時間が過ぎて行くのは早いものだ」


しみじみとヘルメスは頷く。


「で、なんでお前がここに居るんだよ。部屋で寝てたろ?」


「流石に起きるだろ……起きたらいつも通り二人は居ないし下の食堂に行っても居ないしズィナミさんに尋ねてみたら漁港で働きに出てるなんて言われるし。それで来てみたらシーフ君は居なくてエナベルちゃんが魚の解体をしてるから手伝ってたんだ。それこそシーフ君は何をしてたんだい?」


色々大変そうだなぁ何てどこか他人行儀にシーフが考えてる事など気にせずヘリメスはこちらに来ながら一息で今日の経緯を語る。

そんなヘルメスに負けず劣らぜ自分も大変だったんだとシーフは今日の事を答える。


「にしてもセルヴァの槍術は凄かったな。身体はもう細くって今にも倒れそうな俺でも倒せそうな感じなのに水竜を一突きだ。体外魔力循環も知ってたしただ者じゃないね」


シーフは珍しく熱っぽく力説する。

それだけあの狩りの印象が強く脳に焼き付いたのだろう。


「槍を使うセルヴァさんか」


「知ってんのか?」


「いや、何か聞き覚えがある様な気がしただけさ。気のせいだよ」


シーフとヘルメスが会話をしている間に粗方解体の仕事が片付いたようでエナベルはおばあ達に挨拶をしこちらにやって来た。


「全然ヘルメスは手伝ってくれなかったのじゃ」


腕を組み少し不満がある顔でエナベルはヘルメスに詰め寄る。


「僕もシーフ君が来るまでは真面目にやってただろ⁉」


「おーぼえてないのじゃ」


そういってエナベルはシーフの腕を掴み歩き始める。

ヘルメスに対する態度は何とかならないものかとシーフは軽く考えてやるが少し歩くと思考から消え今日の夜ご飯の事で一杯になっていた。


「また水竜食べてーな。ありゃ旨かった」


「そうだね。僕も食べたいな」


「ヘルメスも一緒に食べたかの?」


「食べたよ!覚えてないのかい⁉」


「いたか?」


「僕も居たか不安になって来たよ……」


さっきまで紅色だった空が宿に着く頃には黒に変わり日が短くなったとこれまで旅路を想い耽る。

色々あった経験した。

シーフにとってはどれも初めての経験で新鮮だった。

きっと前世ではこんなハチャメチャな生活を送った経験なんて無かっただろう。

日々刺激的で退屈しない生活。

剣があり魔法がある世界。

前世の俺が知ったら羨ましがるだろうか。

それとも死んでまで行きたくは無いと言うのだろうか。

今となってはもう分からない。

前世の記憶は無いしあっても戻る事は出来ない。

シーフが感傷的にセンチメンタルになって妄想していると横から楽しそうな声が聞こえてくる。


「おお!生水竜じゃ」


「頼んだのはエナベルちゃんだろ」


ヘルメスが優しく笑うがそんな事一切気にも留めず料理を貪る。

直ぐにシーフとヘルメスの分も届き夕食にありつく。

運ばれてきた水竜の刺身を見ながらシーフは


「今日俺が獲ってきた奴かな」


とボソッと漏らすがエナベルに聞かれそんな訳ないと暫く笑われ続けた。

エナベルが笑いヘルメスが見守るそしてシーフが失言をしたと後悔する。

いつも通りの日常。

それがどれだけ幸せなのか感じる者はここには居なかった。

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