稀代の槍術士
次の日シーフはいつも通り三人の中で一番最初に起きる。
何故か一つのベットで寝ていた両隣の二人を起こさぬ様にそっと起き上がり階下の食堂へと向かう。
「おはよう。あんたはいつも朝早いね」
「昔はこんなんじゃ無かったけどな。ん…?」
シーフは自分の発言に疑問を浮かべる。
「いや、子供の頃から両親が狩人でな。早起きには慣れているんだ」
そう、これが正しい
なんださっきのは…
「そうかい。早起きは嬢ちゃんも得意みたいだね」
シーフが座っているカウンター席の横にエナベルが着席する。
「毎朝毎朝シーフは起きるのが早いせいでこっちまで早起きなのじゃ」
エナベルは欠伸をしながらそんな愚痴を溢す。
「あんたら一緒に寝てるのかい?二部屋も取っておいて」
「いや、3人で寝てる。そうだよ、なんでお前が俺達の部屋で寝てんだよ」
シーフは朝起きた時に感じた疑問をエナベルにぶつける。
「そんなの戻るのがめんどくさいからに決まっているのじゃ」
確かに昨日は夜遅くまでトランプで遊んでいた。
トランプ遊びがこんなにもハマるなら他の前世のゲームも作ってみようかとシーフは考える。
その利権でうはうは生活…
「い…おい。聞いとるのか」
肩を揺らされ我に返る。
「ん、わりわり。何の話だっけ」
「だーかーら儂は同じ部屋でいいのじゃ。二部屋は勿体無いのじゃ」
「いいのか?折角ヘルメスが気を遣ってくれたのに」
「最初から頼んでないのじゃ。儂は同室でも構わん」
一時期はヘルメスに対する態度が優しくなったと思ったがまだ辛辣さは残っている様だ。
ズィナミに頼みエナベルの為の部屋を引き払い今日から一室となる。
ヘルメスが後から知ったらめんどくさそうだがその時はその時だとシーフは思考停止する。
「それでどうするんだい?狩りには参加するのかい」
そう言えばそんな話があった気がすると記憶を掘り返す。
「一日経つと行きたく無くなるのじゃ」
「うるせぇ、行くぞ」
宿からは2人で漁港を目指す。
ズィナミは宿の仕事があるらしく同行は無かった。
少し歩くと直ぐに海岸線が見える。
漁業関係者達なのだろうか、人が密集して集まっていた。
「すみませーん」
シーフが適当にそこら辺に居る人に声を掛けると今にも折れて飛んで行ってしまいそうな細い身体の男が愛想良く返事を返してくれた。
「どうしました?お坊ちゃんとお嬢さん」
「いひひ…お坊ちゃん」
シーフは腹を抱えて笑うエナベルを無視する。
「シーフでいいから…よろしく。ズィナミの紹介で来たんだ。バイト、じゃなくて今日だけの助っ人だ」
「ズィナミさんの。成程、分かりました。私はセルヴァと申します。それではシーフさんと…」
「あぁ、こっちはエナベルだ」
笑い続けて使い物にならないエナベルの代わりにシーフが答える。
「ではシーフさんエナベルさんこちらへ」
そう言って連れて来られたのは海岸沿いに建てられた小屋であった。
見える限りの奥の方まで小屋は建てられていてこのシーシュがどれだけ漁業に力を入れているかが分かる。
中に入ると歳のいった女性たちが今日獲れたと思われる魚を解体していた。
「エナベルさんはここでお手伝いをよろしくお願いします」
「仕方ないのじゃ。シーフの為に働いてやるかの」
エナベルはシーフにウィンクをし年配の女性たちの中に入って行く。
シーフは呆れて何も声が出ずそのまま呆然としていた。
「元気なお嬢さんですね」
セルヴァはその優しい目を細めてシーフに笑いかける。
シーフはすぐさま否定し歩いてる間ずっと文句を垂れ流していた。
セルヴァは大きな船の前に立ち止まりこれに乗って漁をしてもらうとシーフに告げる。
セルヴァが船に乗るのに続いてシーフも乗り込む。
船内には操縦席に一人若い男が居るだけで他には誰も居なかった。
「俺ら以外に後何人来るんだ?」
「これで出発ですよ」
セルヴァ当然の様に答え操縦席の男に合図を送り船は出発する。
「漁って三人で出来るのか?」
どうやったらこの少人数で漁が出来るんだとシーフは頭を捻るが答えは出ない。
「二人ですよ。彼はこの船の舵取りだけです。そんな不安がら無くても大丈夫ですよ。普段水竜狩りは私一人でこなしているので」
「ほんとか?言っちゃ悪いが直ぐに折れそうな、感じに見えるぞ」
「ふふ、私こう見えて案外やるのですよ」
そう自慢げに槍を構えるがどう見てもセルヴァとその槍は不釣り合いに見えるシーフであった。
数字の表記に違和感を感じるので漢数字に追々直していきます。
時間がある時…




